第31回 官僚出身経営者への期待

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第31回 官僚出身経営者への期待

安田
官僚を辞める方が昔よりも増えている、と以前伺いましたね。ということは、官僚を辞めた方が酒井さんのように起業され経営者になる、というケースも増えていくんでしょうか。

酒井
うーん、多少は増えるとは思いますが、かといって爆発的に増えるイメージはないですね。そもそも実業家を目指す方は、役所になんて就職せず最初から起業するでしょうから。
安田
そう言われれば確かにそうですね(笑)。でも、「まずは官僚として国のことをしっかり勉強し、知識を得てから起業しよう」という方もいそうですけど。

酒井

私の時代では、東大法学部のTOP層が目指すのは弁護士か役所の二択だったんです。ベンチャー精神があったり実業に興味がある人もいたでしょうが、まだ起業が一般的ではなくて、なんだかんだそのどちらかに入る方が多かった。

安田
ははぁ。弁護士にならなければ役所に行くのが自然だったわけですね。

酒井
そうなんです。その時代に比べれば、今はものすごくたくさんの選択肢があります。外資系のコンサルティング会社に就職してもいいし、投資銀行に行ったっていいし、もちろん起業してもいい。そういう中で、あえて役所を経由する理由はあまりないんじゃないでしょうか。
安田

なるほど。そうすると、今の時代に官僚になるのは、最初から役人になりたい方ということですね。そしてやがて役所を辞めて、別の仕事に就くと。


酒井
そうですね。転職先としてはNPOが人気のようです。公共的なことをやりたくて役所に入ったのに、なかなか本質的な仕事をさせてもらえない。じゃあNPOへ行こう、という流れが多いようで。
安田

ああ、なるほど。役所には膨大な雑務があって、なかなかやりたい仕事そのものに関われない。そう仰ってましたもんね。


酒井
ええ。ですから官僚を辞めた人のキャリアパスとしては、経営者というよりNPOの理事なんかが多くなる気がしますね。
安田
確かにそれはイメージしやすいですね。そもそも官僚になる方って、愛国心というか「この国をもっと良くしたい」という想いが強いんだと思うんです。

酒井
そうですね。だからNPOとも親和性が高いんでしょう。
安田
ええ。とはいえ、役所とNPOの親和性が高いということは、「本来やりたい仕事がやれない」という環境も似ているんじゃないのかなと。だから最終的には実業界に出て、自分自身が好きに舵取りできる会社を作るんじゃないかと思ったんですが。

酒井
確かに、そういうことはありそうです。実際に役所の後輩でもいますよ。役所を5年で辞め、ベンチャーキャピタルを経てNPOに入り、その後企業を立ち上げたという人が。
安田
ああ、やっぱり。でもそういう人って、いわゆる「儲けたいから起業する」タイプとは全然別な気がしますね。特に
今の若い世代では「経営と社会貢献」「国の仕事と地方活性化」が一体のエコシステムのようになっているような印象も受けるんです。

酒井
ああ、わかる気がします。「何をやるか」「何を実現するか」が重要なのであって、それを実現するのが企業でもNPOでも行政でもいい、という感じがします。例えば地域活性化をとってみても、知事や市長として関わるのか、その土地の農家と一緒に街づくりをするのかで仕事は変わるけれど、地域活性化という目的は同じというような。
安田
ああ、まさにそういう感じです。我々の時代の職業選択は「銀行員」とか「商社マン」というものでしたが、今はどちらかというと「お金を稼ぐ仕組みを作り、それを世の中に還元し、よりよい社会を実現する」という前提があるように思います。

酒井
そうですね。ですから「役所を辞めて経営者になる人」が、特別お金儲けの才に長けているわけでもないんですよね。先ほど安田さんが仰ったように、「お金儲けしたいから起業する」タイプとは全然別だと思うので。
安田

なるほど。確かにお金儲けが最優先であれば、役所やNPOには行かず大学生のうちに起業したりしますからね。


酒井
ええ。まあでも、別の見方をすれば、将来の起業を見越して役所に入る、というのは意外と良い選択な気もしてきますね。
安田
そうなんですよ。国家運営ほどの巨大ビジネスを経験できる会社なんて他にないわけですから。そういうところでの経験が、グローバルを舞台にした大きなビジョンを描くのに役立つんじゃないかなあと。

酒井
仰るとおりだと思います。
安田
元官僚さんの中から、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズみたいな人が生まれませんかね?

酒井

役人を選んだ段階で、「アメリカ型」の経営者は生まれづらいかもしれませんね。もっと日本的な起業家ならあり得る気もします。

安田

ああ、なるほど。とはいえやはり日本も、海外の視野の広さを学んだ方がいいように思いますけどね。


酒井

そうですね。それで思い出しましたが、インドにも日本で言うマイナンバーのようなインディア・スタックというシステムがあり、それによって、決済やらその上で動かすアプリも簡単に作れるような仕組みになっていて。

安田

ああ、知っています。若い世代が中心になって作ったんですよね。そのシステムがしっかり定着しているから、今の日本のように◯◯ペイ、◯◯ペイと、いろいろな決済サービスが乱立することもない。


酒井

そうなんです。そういう国全体の最適化を前提にしたような思想をベースにしたシステムを構想して、実現できる人がいれば、それは孫さんを超えるような起業家になると思います。そういう思想は、役人出身だったり、公共的なマインドがないと難しいかもしれませんね

安田

ちなみに酒井さんはグローバルを視野に入れた事業はやらないんですか。「Googleを超える会社を俺が作ろう!」なんてご予定は?


酒井
いやぁ(笑)、役所の内情を知っているだけに、省庁を超えて物事を動かすことの難しさが想像できてしまって、逆に手を出しづらいというか(笑)。いっそ何も知らずに勢いでいく方がいいのかもしれない。
安田

ああ、なるほど。それこそイーロン・マスクみたいに「どんなに文句を言われようと進めるんだ!」という人じゃないと変えられないのかもしれませんね。そもそも人の話なんて聞いていないような(笑)。


酒井
その可能性は大いにありますね(笑)。調整型の日本の風土だと、彼くらいの人がいないと大きな変化は起こせないのかもしれません。

対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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