第47回 海外で求められる日本の庭師

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第47回 海外で求められる日本の庭師

安田

前回前々回と中国での庭づくりについてお聞きしていますが、向こうに滞在している時の街中の雰囲気はどうでしたか?


中島

電気自動車がたくさん走っていたり、街もきれいで、すごく発展している印象でしたね。どこに行ってもキャッシュレスですし。屋台ですらキャッシュレスだったのは驚きましたけど。

安田

確かに向こうはデジタル化が進んでいて、そこらじゅうに監視カメラがあるとも言われてますもんね。ドローンも世界で一番作ってますし。


中島

ただ庭づくりの現場はまだまだアナログでしたね。道具もあんまり揃っていなかったですし。石を吊り上げるワイヤーとか、石をてこの原理で持ち上げるバールとか、小回りの利く道具があまりない印象でした。

安田

ふーむ。足りないものは現地にあるもので代用したんですか?


中島

京都の社長が今回で5回目くらいで、そのあたりの事情はよくご存知で。なのでワイヤーなどはあらかじめ日本から持って行ったりしましたね。

安田
ははぁ、そうなんですね。でも考えてみると、日本料理だと刺身包丁とか出刃包丁とか何種類も使い分けますけど、中国だと中華包丁1本で何でも作りますもんね。庭づくりも同じように、限られた道具でやっちゃうのかもしれませんね。

中島
ああ、確かにそうかもしれません。穴を掘る重機もすごく大きいものしかありませんでしたし。その重機が入れる場所しか作業できなくて、ちょっと苦労しました。
安田
「大陸の文化」なんでしょうねぇ。アメリカの畑も土地が広いので、日本の何十倍もあるような巨大なトラクターで一気に耕すらしいんです。逆に東南アジアの国に行くと、日本製の小さなトラクターがすごく重宝されるそうで。

中島

中国も土地が広いから、アメリカ的な発想になるんでしょうね。そもそも小さい重機はいらないから作らないというか。

安田

あんまりちまちまやってられないんでしょうね(笑)。巨大な重機でガーッとやらないと終わらないっていう。


中島
そうですね(笑)。とはいえ私たちは日本の環境に慣れているので、「普段使っているあの細かいコテがあればなぁ」なんて思いながら作業してました(笑)。
安田

なるほど。でも逆に言えば、それが日本の職人さんが呼ばれる理由かもしれませんね。細かいところにすごくこだわって作ってくれるわけじゃないですか。


中島

確かにそうですね。それが付加価値になっているのかもしれません。

安田

そういえば美容師さんや寿司職人など、職人さんが海外にどんどん出ていってますけど、庭師さんもそういうケースはあるんですか?


中島
あるんじゃないですかね。ただ、海外だからといって必ずしも日本より高い報酬がもらえるわけでもないと思いますね。現地の日当が2000円くらいの仕事もあったりするらしいので。技術の有無で違ってくるんでしょうけど。
安田
そこはシビアなんですね。でも逆に言うと、中島さんほどの腕があれば中国だと今の5倍10倍稼げちゃうんじゃないですか?

中島

うーん、まぁ、呼んでいただければですけどね(笑)。でも通訳の方がいないと契約とかが難しいんですよね。もっとも、そこさえクリアできれば、庭づくりに関してはある程度お任せいただける感じだったので、条件は悪くない気がします。

安田

ふーむ、通訳を1人雇っても、行く価値あるんじゃないですかね。

中島

そうですね。あ、でも、スケジュールがすごくタイトで、休みの日が全くないんですよ。当たり前に着工から完了まで休みなしでスケジュールが組まれているんです。

安田

えっ! それはすごいですね。皆さん全然休まずに作業するんですか。

中島

そうなんです。「休んでいいのはお葬式と結婚式だけ」という文化みたいで。実際、結婚式でお休みされた方がいたんですけど、朝から昼までは普通に現場に出て、14時から披露宴に出て、16時にはまた現場に戻ってきてる、みたいな感じで。

安田

そうなんですか! なんとも慌ただしい…。休むこと自体が許されないような感じなんですね。

中島

そうそう。「休んだらクビだ!」という感じみたいです。しかも朝の6時から夕方の6時までが定時なので、拘束時間もかなり長い。まぁその代わり、頑張ったら稼げるわけですけど。

安田

お昼休憩が入ったとしても、11時間くらいは拘束されてるわけですよね。それは大変だ…。ちなみに日本から行ってる人も同じ条件で働くんですか?

中島

いえ、僕らは8時半くらいから始めていたので、そこまでではなかったです。「好きな時に休んでいい」とも言われていましたし。ただ実際スケジュールはタイトなので、向こうにいる間は僕らもかなり根を詰めて働きましたね。その分、日本に帰ってから休みを取るようにしましたけど。

安田

ふーむ、なるほど。なかなか過酷な労働状況だったんですね。

中島

休みがないことが一番大変でしたね。でもそれ以外はすごく快適で。歩いていける距離にリゾートホテルしかなかったというのもあると思いますけど、ホテルもすごくいいところを取っていただきましたし。

安田

へぇ〜。やっぱり技術のある人は優遇されるんだろうなぁ。ともあれ、仕事以外の時間はゆったりゴージャスな暮らしができたと。

中島

それはもう。オーシャンビューで目の前に海が広がっているような、最高の部屋でした。

安田

いいですねぇ。そうなるともう中国の仕事ばかり増やしたくなるんじゃないですか? 言葉の壁はあるにしても、必要な道具は向こうに置いておけばいいわけで。

中島

それはありますね。実際、食事に関しても全くお金を使わなくていいなど、待遇はかなりよかったと思います。

安田

それだけいい職人を呼びたいんでしょうね。腕のある日本の職人さんだったら、いくらでも仕事がありそうですね。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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