第9回 自然の景色を作る「石」

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第9回 自然の景色を作る「石」

安田
中島さんの作ったお庭を見ていると、石がよく使われていますよね。

中島
そうですね。石は好きなのでよく使います。
安田
私も実は子供の頃から石集めするぐらい石が好きなんです。でも、高校生のときに自己紹介で「趣味は石集めです」って言ったら誰も友達になってくれなくて(笑)。

中島
それは同じ石好きからすると悲しいですね(笑)。
安田
でもそれくらい現代人にとって石はマイナーな存在なんですよね。昔は庭石がある家も多かったですが、最近はあまり見かけなくなりました。そもそもなぜ庭石というものがあったんでしょうか?

中島
庭に据えていく石を『景石』と言うんですが、文字通り景観の意味もありますけど、昔は神様に通ずるものと捉えていたみたいですね。
安田
へぇ、神様に。今はどうなんですか。中島さんから見ても石のあるお庭は減ってきていますか?

中島
自然石は少なくなっていますね。コンクリートやレンガで作った二次製品が多くなってきています。ブロックを積んで色をつけたりすることもあります。
安田
ああ、なるほど。そういう中で中島さんが自然石にこだわるのはなぜでしょう。

中島
僕はお庭に「自然の景色を作りたい」と思っているんです。でも二次製品だとなかなか自然な景色にならなくて。
安田
確かに、レンガやブロックは人工物ですもんね。それで自然を表現するのは難しそうです。

中島
ええ。例えば庭に山のイメージを作りたい時には、四季の山々の風景を表現したいわけです。そういう場合はやはり自然石のほうがしっくりきます。
安田
なるほど。ちなみに、中島さんが石好きになったキッカケを覚えていますか?

中島
覚えてます。会社員時代に社長からすごく印象的な言葉を聞いたんですよね。「石を極限まで細かく砕いていくと、分子構造は人間と一緒だ」って。以来、なんだか親近感を感じるようになっちゃって(笑)。
安田
へぇ。そんな説があるんですか。そういうこともあって、山から持ってきたままの自然石、形も大きさもバラバラな石がお好きなんですかね。

中島
そうかもしれません。それに、形や大きさがバラバラだからこそ、使う人によって全く違った印象を作り出せるのがおもしろくて。
安田
確かに、すべて形も大きさも同じレンガとは違いますよね。扱うのはそれだけ大変そうですけど。

中島
置いていく作業自体は簡単なんですが、難しいのは「石の力の向き」を見極めることで。
安田
「石の力の向き」ですか。

中島
はい、景石で最初に置く石を『親石』と言いますが、2石目以降は、親石にかかる力の方向や、見た目のバランスを考えながら据えていきます。いろいろな形の石を使っても、全部まっすぐに積んでしまえば自然な雰囲気は出ませんので。
安田
なるほどなるほど。石の力の向きをしっかり計算して積んでいかないと、自然の景色の中の力強さや、繊細さなどが表現できないということですね。「石の力」と言っても、パワーストーン的な意味の“力”ではないと(笑)。

中島
そうです(笑)。物理的な力の方ですね。
安田
ちなみに私、庭石というと大きな石を1個ボンと置くイメージがあったんですけど、組み合わせて使うこともあるんですね。

中島
1本の木と1個の石を使う「一石一木」という手法もあります。ただ、坪庭のような狭い空間でない限り、私はあまり使わないですね。
安田

へぇ。それはどうしてですか?


中島
お庭の中にシンボルツリーと石が1個あるだけだと、「自然の景色を再現したい」と考える私にとっては、ちょっと淋しいんです。
安田
ああ、確かに。自然の景色を考えると、木が1本、石が1個だけ、なんてところはほとんどないですもんね。
中島
そうなんです。なるべく自然の形に近づけたいと思うと、どうしても組み合わせたくなります。その方が表現の幅も広がりますし。
安田

ふーむ、石を組み合わせるというと、石垣みたいなものも作られるわけですよね。家の周りの塀を石で作ったり。


中島
そうですね。塀のような高さが必要なものだと、「野面積み」や「崩れ積み」という方法で組んでいくことが多いですね。「野面積み」というのは、「石を一段積む」→「裏込めコンクリート打設する」という作業を繰り返し積んでいくものです。
安田

ふむふむ。ある意味でレンガを積んでいくのに似た感じですね。


中島
ええ、そうですね。一方「崩れ積み」は、土だけで積んでいく工法です。
安田
ほう、土だけで。なんでそんなことができるんですか?
中島

まず根入れ(土に埋まる部分)を50センチ取った上で、まわりの石とすべての面で噛み合うように積んでいくんです。全面噛み合わせることで、大きな一枚の壁のようになります。以前施工させていただいた現場は、東日本大震災でもビクともしませんでした。

安田
へぇ! そう言われれば平らに積んでいくよりもガッシリはまってそうな感じがします。技術的には「崩れ積み」の方が難しいんですか?

中島
どちらもそれぞれ技術がいりますね。「野面積み」は、石の見極めにも経験が必要ですし、加工技術も求められます。コンクリートを使わない「空積み」というものもあるんですが、かなり特殊な技術が必要なので、私にはできません。
安田

へえ! 上には上がいるんですねぇ。


中島
一方「崩れ積み」の方は、石同士をキッチリ噛み合わせながら垂直に積んでいくのが難しくて、積みが高くなればなるほど難易度が上がります。
安田
ふ〜む、やっぱりそういう技術には個人差があるんですか?
中島
一般の方からすると差がわからないかもしれませんが、同業者が見れば上手い下手はわかりますね。
安田
なるほど、プロの目で見ればわかるんですね。ちなみに中島さんはどちらの積み方がおすすめなんですか?

中島
「崩れ積み」の方がより自然に見えるので、自然を再現したいという私のイメージには近いかなと思います。「野面積み」も整っていて美しいですけどね。
安田

それぞれの良さがあるわけですね。石の話は奥が深そうなので、次回さらに深掘りしていきたいと思います。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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