適正価格の境目

この先も人不足が解消されることはない。人件費は間違いなく上がり続けていくだろう。原材料費の高騰も続き、値上げできない企業はここで淘汰されると言われている。家族経営で何とか凌いできた店や会社も、どこかで必ず限界が来る。

安かろう悪かろうでは売れないし、安くて良いものを提供し続けることは不可能だ。どう考えても答えはひとつしかない。値上げである。価格を上げて、従業員の労働条件を改善し、持続可能な経営へと舵を切るのだ。

もちろんただ値上げすればいいというものではない。「原材料費が上がったから」「社員にちゃんとした給料を払いたいから」という理屈は、残念ながら通用しない。顧客がその理由を納得してくれるのは、「このお店や会社を絶対になくしたくない」という想いがあるからだ。

あくまでも提供する商品やサービスが主であって、お店や社員の苦境は二次的なものでしかない。ビッグモーターのような会社が困っても、顧客は助けてくれないのである。商品やサービスの価値、仕事に対する姿勢、顧客への接し方。普段それを感じているからこそ、値上げの理由にも「それなら仕方ないよね」と納得してくれるのである。

まずは価格以上の価値を提供すること。ここが重要であることは言うまでもない。問題は次のステップである。なぜか日本人は良いものを「少しでも安く」提供することを善と考えてしまう。ここがすべての問題の起点となっているのである。

真に顧客を大切にしたいと思うのなら、まず社員を大切にすること。良いものをずっと提供していきたいなら、まず持続可能な状態にすること。そのためにはきちんと利益を確保しなくてはならない。そして利益を確保するためには「少しでも安く」という発想を捨てなくてはならない。

考えるべきは「少しだけ高く」である。ほんの少しでいい、ちゃんと利益が出るように、頑張った社員が報われるように、高く売ること。そして価格に見合う商品とサービスを提供し続けること。それが持続可能な経営の根幹なのである。

他社が千円で売っているものを「少しでも安く」売るのか。それとも「少しだけ高く」買ってもらうのか。ほんの少しの価格差が未来を決定づけている。「安いから買う」という商品と顧客で成り立つビジネスと、「高いけど買いたい」という商品と顧客で成り立つビジネス。その境い目はほんの少しの価格差なのである。

 

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