「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。
第53回 困難な状況でも「人生詰んだ」にならなかった理由
最近、ネットを中心に「人生詰んだ」と言っている若者が増えていると思いませんか? 自分の人生を見限ってしまっているというか。
確かにそうかもしれないですね。「親ガチャ」なんて言葉もよく聞きますしね。なんとなく「自分ではどうしようもないんだ」っていう諦めを感じます。
そうそう。でもそういう意味では、中辻さんこそ「それって人生詰んだよね」と言いたくなるようなエピソードが多いんじゃないかと(笑)。
まあ確かに(笑)。小学生の時から不良になったり、15歳で妊娠したり、最初の結婚相手がとんでもない借金を抱えていたり…そんな話ばかりですからね(笑)。
笑。やはりそういう時って、ご自身でも「あ、人生詰んだな」って思っていたんですか?
いえ、全く思わなかったですね。
え、一度もない?
はい、ないです(笑)。
そうなんですか。「人生詰んだ」をなんとか乗り越えてきたわけではなく、そもそも「人生詰んだ」と感じたことがない、と。
ええ。出産も結婚も離婚も、すべて自分で決めたことですから。「自分で決めたからには頑張らなきゃ」とは思いましたが、それを「人生終わりだー!」と悲観することは一度もなかったです。
なるほど。とは言え、自分ではどうしようもないことも多かったと思うんです。一般的な家庭に生まれていたら10代で子どもを産むこともなかったかもしれないし、旦那の借金を背負うこともなかったかもしれない。
確かにそうですね(笑)。
ほとんどの人は「なんで私はこんな運命なんだ…」って悲観すると思うんですけどね。どうして中辻さんはそうならなかったんでしょうか。
うーん、なんでなのかなぁ。いまあらためて振り返ると、確かに「人生詰んだ」って思っててもおかしくないですよね(笑)。
そうですよ。でもそういえば中辻さんは、あまり悲観的に物事を捉えないタイプでしたもんね。
そうですね。というかそもそもの話、望まずして子どもを産んだわけではないんですよ。妊娠がわかった瞬間から「産みたいから産む」と決めていて。
親御さんには反対されなかったんですか?
もちろん反対されましたよ。当時の夫にも「頼むから今回は諦めてくれ」というようなことを言っていたみたいですし。でも私にとって、15歳で妊娠して16歳で出産するということが、全然マイナス要素ではなかったんですよね。
ふ〜む。ちなみに妊娠しているのがわかった時はどういう気持ちでした?
もちろん戸惑いが全くなかったわけではありません。でもそれ以上に、「これでようやく私が生きる理由ができた」と感じたんですよね。たぶん当時の私は「自分が守らなくてはいけない存在」が欲しかったんだと思います。
ははぁ、15歳にしてもうそんなことを考えていたんですか? すごいですね。
もっとも、出産後にどういう母親になってどういう子育てをしたいか…なんて具体的なことは一切考えてなかったんですけど(笑)。とりあえず「子どもを産む」。それだけで。
うーむ、とは言え、10代そこそこの子が子どもを産むということは、いくらご自身が望んだとはいえ、多くのことを諦めなきゃいけませんよね。そこについて不満はなかったんですか?
むしろ当時の私が一番願っていたことが「家を出る」ということで。だから彼氏と一緒に住むことで、その目標が無事に達成できたわけです。
なるほど、むしろ結婚や出産が不満を消してくれたわけだ。ちなみにその前は普通に中学に通っていたんですか?
え〜と、ほとんど行ってなかったです(笑)。学校をサボってフラフラしていた時に妊娠がわかって。「自分が守るべきものができたんだから、これから人生が変わっていくかもしれない」と。
なるほど。「辛かった人生がやっと変わっていくかも」と。
仰るとおりです。落ち込むどころか、むしろ目の前が開けるような感覚で。
「学生」から「社会人」になった時のような感覚に近いんですかね。制約ばかりの窮屈な状態から、ようやく自由になれるという雰囲気というか。
ああ、そうかもしれません。もちろん責任感も感じましたけど、そのぶん自由も感じられるというか。
ふむふむ。ということは、10代で出産することに不安はなかったわけですか。
いやいや、そうでもないです(笑)。ただでさえ妊娠出産には不安がつきものなのに、出産の1ヶ月くらい前に旦那に借金があることが発覚して(笑)。
1ヶ月前?! え、その借金って、結婚してから作ったものだったんですか?
ああ、いえいえ、それは結婚する前のものです。でもほとんど返済していなかったんで、本気で返すつもりは最初からなかったんでしょうね。
いや、ひどい話だ。それにしても、どうやって借金の存在がわかったんですか?
消費者金融の方がお家に直接トントンって来られまして(笑)。で、臨月で自宅にいた私が対応したんですが。「え? 借金?!」って(笑)。
まさに「人生詰んだ」状態じゃないですか(笑)。
確かに(笑)。結局旦那に600万円の借金があることが発覚したんですが、子どもも生まれてくるわけだし、一緒に頑張って返済していくしかないね、と切り替えまして。
中辻さんがアフィリエイトで稼いだお金を、そっくり借金返済にあてていたんでしたよね?
そうですそうです。それでなんとかやりくりしていたんですけど、夫が何度も勝手に仕事を辞めてきちゃうんです。無職になるわけだから、当然借金の返済も滞ってしまって。
聞けば聞くほどひどい人だ(笑)。
ですよねぇ(笑)。で、私もついに「もう無理!」となって離婚しまして。離婚した時には「これでもう借金返済に付き合わなくてすむ!」と清々しい気持ちでした(笑)。
いくら昔のこととは言え、そんな壮絶な話を笑顔でできるのがすごいですよ(笑)。離婚すらポジティブに捉えているような気すらします。
ん、もちろんポジティブな出来事でしたよ? 借金返済が終わったんですから(笑)。
なるほど(笑)。ではそんな中辻さんに、「人生詰んだ」「俺なんて何をどうあがいても無駄なんだ」という人にアドバイスをもらいましょうか。
そうだなぁ…まず第一に「自分を大切にしてください」かな。体さえ元気だったら何回でもやり直せるので。
なるほどなるほど。
あとは「弱音を吐ける人を1人でもいいから見つけてください」かな。そういう人がそばにいればだいぶ違うんじゃないかなと思うので。
当時の中辻さんにもそういう人がいたんですか?
…いえ、いなかったです(笑)。あんまりそういう弱音を吐くのが好きじゃないタイプなので。というか私自身は幸せだったんですよ。
ああ、なるほど。「大変」な状況だからといって、必ずしも「不幸」だというわけではないんだぞ、と?
そうそう、まさにそうです! 私は確かに大変ではありましたが、ずっと幸せだったんです。だから「人生詰んだ」とは思わなかったんだろうと思いますね。
対談している二人
中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役
1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。