「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。
第57回 離職を防ぐために必要な「社員を大事にする」という考え方
採用した社員がすぐに辞めてしまうことが社会問題になっていますよね。中辻さんは経営者として「社員が辞めること」に対してどういう考えを持っていますか?
うーん…大前提として、「誰がいつ辞めても大丈夫なように会社としての体制を常に整えておくべき」という考えですね。でも実際そういう場面に遭遇したら「辞めないで〜!」って感じだと思いますけど(笑)。
そりゃそうですよね(笑)。とは言え現実として、新卒入社でも3年くらいで辞めてしまう人がめちゃくちゃ多いらしいんですよ。
うーん、それは何が理由なんですかね? 会社の雰囲気が嫌だったとか、仕事内容が思ってたのと違ったとか?
そういう理由もあるかもしれませんが、単純に「次」に行きたいと考える人が多いみたいです。「この会社で学べることは学んだ。だから次の場所で別のスキルを学んで、より稼げるようになりたい」というように。
ああ、なるほど。ステップアップしたいということか。
そうそう。今の若い人たちって基本的に「この会社で永久に働こう」とは思わないみたいで。
そういう話はよく聞きますよね。でもそれは、社員のことをものすごく考えてくれる「いい会社」でも同じなんでしょうか。
それでいうと、もはや「いい会社」というのが存在できなくなっているんですよね。昔は終身雇用が当たり前で、会社が半永久的に社員の面倒を見てくれた。だから社員側もある程度会社にロイヤリティを払っていたわけですけど、今はそんなの無理じゃないですか。
確かにそうですね。急にクビになることはないけど、ものすごく成長できるわけでもないし、給与もそんなに上がっていかないし。
ええ。だから給料をアップさせたければ、自分のスキルを上げる以外に方法がない。もちろん「この会社にいれば着実にスキルアップができる」と思える環境ならいいかもしれませんけどね。
とはいえ、その会社がずっと存続できるかはまた別の問題ですしね。
そうなんですよ。だから「どの会社でもある程度稼げるように、自分自身のレベルアップをさせておかなきゃいけない」っていう発想なんでしょう。そういう意味ではすごく真っ当なんですよ。
なるほど。3年で見切りをつけるなんてドライだなぁとは思いますけど、「自分のキャリア」という視点で考えるなら、ある意味まともな考え方なのかもしれないですね。
一方で、社員がどんどん辞めていくような会社の社長って、何かしら共通点があるんじゃないかとも思っていて。そんなマネジメントしてるから社員が辞めていくんだよ、みたいな(笑)。
あ〜、いますねぇ…(笑)。
やっぱり中辻さん的にも、社員が辞めてしまうのは経営者の責任だと思いますか?
そうですね。辞められないための努力はするべきだとは思います。それは社員のためということ以前に、退職されるってビジネス的にも不利益しかないですもん。採用自体にすごくコストが掛かっているわけで。
そうですよねぇ。ちなみに中辻さんは経営者として、社員が辞めないためにどんな工夫をしています?
「社員の満足度を常に100%以上にしてあげる」ということかな。そのためにも、「こうして欲しい」という改善ポイントがあれば言ってもらうようにしています。
いやぁ、素晴らしいですね。というのも、多くの企業って「採用するための努力」はすごくするんですよ。でも採用後の社員にはわりと冷たかったりする。
釣った魚に餌をやらない、みたいな?(笑)
そうそう(笑)。でも中辻さんは社員1人ひとりをすごく大事にされているのがよく伝わってきますよ。
ありがとうございます。でもやっぱり社員は大事にした方がいいですよ。だって、案外社長って1人じゃなにもできないじゃないですか(笑)。
うんうん、わかります(笑)。
ですよね?(笑) 部下や一緒に働いてくれる仲間の助けがあってこそ、社長は「社長職」に集中できるわけで。だから日々働いてくれている社員のみんなには常に感謝をして、しっかりと会社につなぎとめておかないと。
ちなみに「社員を大事にする」って、具体的にどんなことをしているんですか?
保育園に送っていく時間とか、お子さんの帰宅時間に合わせて変動させられると。
そうですそうです。それから休日も「月に○日」と決めているだけなので、その日数さえ守ってくれれば、いつ休んでもらっても大丈夫です。
へぇ、すごいな。それで会社全体の仕事はちゃんと回るんですか?
全く問題ないですね。もちろんスタッフ間で相談したり助け合ったりはしてくれていますけど。子どもの学校行事とか、子どもが熱を出して急に休まなきゃいけなくなった時とか、みんながすぐにフォローに回ってくれて。
なるほど。それは心強いですね。
それからお給料面も重要ですよね。シングルマザーだからとか子育て中のママだからとか関係なしに、「1人でしっかり生活していけるだけのお給料」をきちんと渡すようにしています。それがないのに「社員を大事にしている」とは言えないので。
ははぁ、なるほど。つまり「社員1人ひとりの事情や状況にちゃんと寄り添う」ということが、「社員を大事にすること」なんですね。
仰るとおりです。もっとも、これはウチの会社が女性スタッフばかりだから、ということもあるかもしれないですけど。
というと?
社員から出る要望は、「子どもがいても働きやすい職場」と「女性1人でも自立できるくらいの給料が欲しい」と、だいたいこの2択なので。
ああ、そうか。でもそれって、そういう要望がありそうな人をわざわざ選んで採用しているんですか?
それもあるかもしれないですね。というのも、私自身がシングルマザーで子供を保育園に預けながら働いていたので、勤務時間や休日の制約があるとすごく働きにくさを感じたんですよ。その苦しい経験があるからこそ、「子育ても仕事も両立しながら自立したい」という女性を率先して採用しているところはあります。
つまり採用する時点から、会社と社員がWin-Winの関係を築き上げられるように考えていると。すると社員は「自分のことを大事にしてもらえている」と感じられるから、結果的に離職率も低下するわけですね。いやぁ、素晴らしいです!
対談している二人
中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役
1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。