第10回 辞めていく人を「薄情者」だと思いますか?

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第10回 辞めていく人を「薄情者」だと思いますか?

安田

ワイキューブで新卒の採用コンサルをしている頃は、「人材に定着してもらいたいなら新卒から育てないと」という世界だったんですね。でもここ最近は、大企業の新卒でも3年くらいで辞めちゃう人が多いみたいで。


西崎

ああ、そうみたいですね。

安田

社会人経験のない自分を育ててくれた会社なのに、あっさり辞めていってしまう。ある意味すごくドライなわけですよ。西崎さんはそのあたり、どう思います? 「そんな恩義のない奴はけしからん!」っていうスタンスですか?


西崎

いやいや(笑)。全然そんな風には思わないです。

安田

本当ですか? だって西崎さん、「一度採用したらずっと一緒に働きたい」っていう人じゃないですか。


西崎

それはそうなんですけど、本人がそう決めたなら仕方がないですよ。時代の流れもあるし、働き方の価値観も変わってきているし。

安田

でも、できれば辞めてほしくない。


西崎

そりゃもちろん(笑)。辞めてしまう子も中にはいるだろうけど、一方で情や義理を大事にしてくれる子もいるわけで。

安田

なるほど。個人的には、せっかく会社が投資して育ててあげてるのに、何の後ろめたさも感じず辞めていくのってどうなんだろうって思うんです。ただその一方で、その情とか義理とかを働く動機にしていいのかな、とも思うんです。


西崎

と言いますと?

安田

私の知り合いに介護の仕事をしてる子がいるんですけど、年末年始に休めるのは普段頑張ってる人らしいんです。つまりご褒美として休める。で、その子は頑張っていたからお休みになったんですって。


西崎

うんうん。

安田

でも、シフトに入ってた人が急に休んじゃって、代わりに出勤しなきゃならなくなっちゃった。それがすごく嫌だったみたいなんですけど、これもある意味「情と義理」に頼った仕組みなんですよ。


西崎

どのあたりがですか?

安田

だって、「年末年始は時給を倍にします!」ってやれば、きっとシフトはすぐに埋まるんです。でも経営者はそういうことしたがらないですよね。やっぱりどこかで、情や義理に頼った運営をしてしまう。


西崎

ああ、なるほどなぁ。そういう側面は確かにあるかもしれませんね。

安田

ね。そういう経営者に限って口ではキレイなことを言いますよ。でも実情は、「情や義理に頼ったほうが低コストだから」そうしているに過ぎない。だったら社員側も割り切った対応させてもらいますよ、となるのも当然かなと。


西崎

いわゆる「やりがい搾取」みたいな話ですよね。口では「お金よりやりがいが大事だよ」と言いながら、社員を安く使うことしか考えていない。そうじゃなくて、両方大事なんですよ。お金もやりがいも大事。

安田

仰るとおりですね。西崎さんもXで「社員のコストを下げて利益を上げる、というのは間違っている」と書いてましたけど、経営者はその両方をいかに上げるかを考えるべきで。


西崎

そうですね。本当にそうだと思います。

安田

とはいえね、例えば上場企業の社長になったら、株主とか消費者の目線を気にせざるを得なくなりますよね。そうなったら、なかなか社員の待遇のことばかりを考えてもいられない。


西崎

そうですね。だから僕は上場とか興味ないんですよ。

安田

ああ、なるほど。そういう西崎さんとしては、社員に定着してもらうために何に気をつけているんですか?


西崎

一言で言えば、「刺激とワクワク感」を与えるってことですよね。もちろん給与とか待遇とかはちゃんと整備した上で、たとえば今回の「社員食堂無料」みたいなことをどんどんやっていく。言い方を変えれば、「定着する理由、辞めない理由」を用意するってことですよね。

安田

なるほどなぁ。ただ、水を差すようで申し訳ないんですが、人間ってすぐ慣れてしまう生き物で。私もワイキューブ時代、ものすごく豪華なオフィスを作ったんです。最初は社員皆が喜んでましたけど、あっという間に慣れちゃって(笑)。


西崎

仰る通りだと思っていて、ですから「与え続ける」っていうところが重要なんでしょうね。うちの社員食堂もすぐに当たり前になってしまうと思いますし。

安田

そうか、逆に言えば、そのワクワクの提供が足りないと感じた人が、辞めていってしまうんだと。


西崎

ええ。だからこそ、辞めていく社員に対して「なんて薄情なんだ」とか「ここまでやってやったのに」とは全く思わないんです。むしろこちらの取り組みが足りなかったんだ、改善しなければ、と思うだけで。

安田

ふーむ、なるほど。でも例えば、仮に西崎さんが100%ワクワクを提供できたとしても、「起業するので辞めます」みたいな人は出てくるわけじゃないですか。正直、起業に勝るワクワクを提供するって難しいんじゃないかなと。


西崎

まぁ、私自身も起業した人間なので、よくわかります(笑)。実際、前の会社もすごく好きだったし、ワクワクしたのに辞めたわけで。だからそういう方が一定数出てくるのは仕方がないと思ってます。

安田

ということは、「起業します」より「転職します」の方がショックですか。


西崎

ああ~、確かに、転職のほうがショックかもしれない(笑)。転職先の会社の方が魅力的だと思われちゃった、ってことですもんね。

安田

じゃあ西崎さんは、転職者が出ないようにワクワクを提供し続けなきゃいけませんね(笑)。頑張ってください!


対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数18万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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