第5回 実はバリバリの「ワンマン経営者」でした。

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第5回 実はバリバリの「ワンマン経営者」でした。

安田

先日も話題に出た田端信太郎さんとの動画、あらためて拝見させていただきました。


西崎

あ、そうなんですね。ありがとうございます。

安田

田端さんから「企業なんだから、まずお客さんの満足を考えないと」というようなことを言われていましたよね。でも西崎さんは、田端さんの意見も認めつつ、やっぱり社員の満足の先にお客さんの満足があるんだと譲らない(笑)。


西崎

そうですね(笑)。もちろん田端さんも、僕のそういうこだわりを分かった上でご指摘くださっていると思うんですけどね。

安田

なるほど。ちなみに、社員満足にこだわるようになったのはなぜなんですか?


西崎

そうするようになってから事業がうまくいき始めたんですよね。というのも、うちは創業して14年目なんですが、最初の7~8年食べていくのに必死で売上のことばかり考えてました。それを担保するためにいわゆる「ワンマン経営」をしてたんです。

安田

へぇ~、今の西崎さんからは想像もつかないですけど。


西崎

そうかもしれませんね(笑)。でも実際、営業するのも企画書作るのも全部自分でやって……要するに社員を頼ることができていなかった。

安田

なるほど。ちなみにその時代の業績はどうだったんですか?


西崎

全然ダメでしたね。何とか食べてはいけるけど……という感じで、営業利益も全然残らないし、社員の給与を上げる余裕も全然ないし。

安田

それで「このままじゃダメだ」と、社員満足度を重視するようになり、今のような会社に成長していったと。


西崎

そういうことです。もっとも、僕の中では売上優先から顧客優先にしないと利益が生まれないと感じてました。顧客満足度を高めるためにまずやるべきは、顧客の対応をしてくれている社員の意識や働き方を変え、仕事をオモシロクすること。そのためには会社のビジョンを明確化して、そこに向けた会社創りに共感する社員を集め、ビジョンに向けたアクションを体感させ続ける必要がありました。

安田

なるほど。何を実現したくて仕事をするのか、自分たちのサービスを提供することで社会にどんな価値が生まれるのか、というような部分を可視化したと。


西崎

まさに仰るとおりです。つまりそれができていなかった78年間っていうのは、社員にとっての仕事が「ただの作業」になってしまっていたんですよね。

安田

ははぁ、自分たちは何のために働くのかがわからないまま、ただただ社長の言うまま動いていた。


西崎

そうそう。ですからそこをしっかりと整理し、発信し、そして実行するようにしたんです。その結果、「自分もこのトゥモローゲートという船に乗りたい!」という人材が徐々に集まるようになっていって。

安田

それで事業もうまく回るようになっていったわけですね。なるほど、だから今の成功があるのはそうやって集まってくれた社員たちのおかげだと。


西崎

そうなんです。だからウチのビジョンマップにも、自然と社員向けの項目がたくさん含まれることになったわけです。まぁ、田端さんにはまさにそこを指摘されたんですけどね。

安田

お前らのビジョンマップ、内向きのメッセージばかりじゃないか、と(笑)。


西崎

ええ(笑)。そこについては指摘通りだなと思っています。実際、僕たちが対外的に発信していることって、やっぱり「我がこと」がものすごく多いので。

安田

「オフィスにキッチン作りました」とか、「こんな社内制度つくりました」とか。


西崎

まさにそうです(笑)。逆に言えば、これまでSNSで自分たちの事業のこと、お客さんのことをあまり発信してこなかった。

安田

なるほど。でも、それは理由があってそうされていたわけでしょう?


西崎

もちろんそうです。SNSを伸ばしていこうとなったときに、自社のサービスについて紹介しても、正直あまりニーズはないと思っていて。

安田

確かに、それって結局売り込みになっちゃいますもんね。SNSを見ている人たちは、別に営業されたいわけじゃないのに。


西崎

仰るとおりです。だから、もっとニーズのある、つまり興味のあることを発信していこうと考え、「おもしろい会社」としてオフィスの造りや福利厚生などを優先的に発信していくことにしました。

安田

ええ、私もそう想像していたんですよ。実際そういう手法でトゥモローゲートさんは知名度を得ていったわけですし。だからこそね、田端さんの指摘に「その通りだ。そこは課題だ」と感じているのが不思議で。


西崎

ああ、なるほど。

安田

経営者ってだいたい「うちはこんな商品を作ってます!」「ここにこだわってます!」「買ってください!」みたいなことしか言わないでしょう? でも、誰もそんなのに興味ないから聞いてもらえない(笑)。


西崎

まぁ、わかります(笑)。

安田

ね。だからトゥモローゲートさんがそうじゃないやり方で有名になって、結果業績もよくなっているんだから、大成功じゃないですか。そういう意味では、田端さんの指摘を受け入れる必要なんてないんじゃないかと。


西崎

ありがとうございます。確かに安田さん仰るように、これまでの発信は狙ってやっていました。それで結果も出せたので、確かに成功です。ただ、田端さんのご指摘は僕にはこう聞こえたんです。つまり「今まではそれで良かったけど、もう君たちはそのフェーズじゃないんじゃない?」っていう。

安田

ははぁ、なるほど。


西崎

発信を始めた当初より社員も増えて、取引先の規模も大きくなった。胸を張れる実績もできた。だからこそ、もうサービスや顧客についても発信していっていいんじゃないかと、そういうことだと思っていて。

安田

つまり、先ほどの話ですよね。誰だかわからない経営者が自分たちの商品について語っても誰も聞かないけど、トゥモローゲートの西崎さんの話ならみな聞きたいと思うと。


西崎

ええ、そういう激励の言葉だったと思っていて。お前らがやっているおもしろい事業のこと、ガンガン配信していかないともったいないだろうって。

安田

なるほどなぁ。とはいえ、ですよ。やっぱりトゥモローゲートさんのファンの方たちって、今までの発信のような「ギリギリ」の感じが好きなんじゃないですかね。急に事業のことばかりになると、登録解除されてしまうんじゃ……


西崎

笑。もちろん全部をそういう発信にするわけではないです。安田さん仰るように「ギリギリ」のコンテンツが注目を集めやすいのは事実なので。要するにバランスですよね。少しずつ事業や顧客の発信も入れていこうかな、くらいの感じです。

安田

なるほど。ちなみに今日の話で昔のことを思い出しましてね。私もワイキューブを作って78年は、顧客満足優先でやってたんですよ。でも、全然売上は上がらなくて。


西崎

身につまされます(笑)。

安田

でも、あるとき自分たちの採用の方を優先するようにしたら、なぜか業績が伸び始めたんですね。世間からは「顧客満足より自社の採用を優先するなんてけしからん」と言われましたけど。


西崎

似たような軌跡を辿っているので、すごくよくわかります。

安田

そうでしょうね(笑)。ともあれ、あらためてお聞きしたいんですが、今後は「社員優先」なのか「顧客優先」なのか、どちらでいくんですか?


西崎

二者択一ということであれば、僕は迷わず「社員優先」を選びます。というのも、僕らの事業ってかなり属人性が高くて、いい企画を出すのもいいデザインを作るのも、社員次第なので。

安田

人に依存したビジネスモデルだと。


西崎

仰るとおりです。だからウチで働いてくれる社員が、いかに楽しく仕事に向き合えているかっていうのが何より重要で。そういう意味でまずは「社員優先」。

安田

とはいえ、社員が満足しながら伸び伸び働いてくれた結果、それは顧客に対しての価値提供にも繋がっていく。つまり顧客満足をないがろにしているわけじゃないんだよと。


西崎

まさにその通りです!つまり私は顧客満足を捨てるということじゃなく、社員満足の先に顧客満足があると考えているわけです。

安田

だから誰にどれだけ指摘されても、ビジョンマップを書き換える気はないと(笑)。


西崎

まぁそうですね(笑)。そこはこだわっていきたいと思っています。

 

対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数18万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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