「自分」というフィルター
価格競争に加わってはいけないという理想論と、目の前で起きている価格競争の現実。
悩んだ末に覚悟を決め、率先する形で価格競争に加わった結果、価格競争に負けたというのは、この連載の第1回で書いた通り。
「他のお店もみんな値下げをしているんだから、価格競争をせざるを得ない。」
当時はそう思っていました。
ただ、ここに私が冒頭に書いた「重大な見落とし」があったのです。
私が見落としていたものとは何だったのか?
それは、値下げをしていたのは「みんな」ではなかったという事。
実は値下げをしていないお店もあったのです。
ではなぜ、私は値下げをしていないお店の存在に気づけなかったのか?
それは、私が「自分」というフィルターを通して物事をみている事に気づいていなかったから。
値下げしか集客方法を思いつかなかった当時の私には、安さをアピールしているお店の看板しか見えなかったのです。
そんな事あるのか?と思う方もいらっしゃるかも知れません。
ただ、この過ちは私だけに限った話ではなく、実は多くの経営者が犯してしまっている過ちと同じだと思うのです。
「自分」というフィルターを通して物事を見てしまうこと。
フィルターを通して見ていることに気づかず、現実が正確に把握できなくなっていること。
これはお店の経営でも同じです。
「考えてやってるけど、お店がうまくいかない。」
この原因は何なのか?
それは、「自分」というフィルターに気づかず、現実が正確に把握できていないからかも知れません。
自分が知っていることの中に解決策があると考えてしまう。
自分に見えている物事だけが現実だと思ってしまう。
自分には見えていないものがある可能性に気づかないこと。
これは私の犯した過ちと同じなのではないでしょうか?
理想論と現実。
ビジネス書に書かれている理想論と、私が直面した価格競争をせざる得ないという現実。
現実が見えていなかったのは理想論ではなく、私だったのです。
自分を疑うというのは意外に難しいものだと思います。
ただ、自分には見えていないものがあるのではないか?と自分を疑うこと。
そして、そのフィルターを外して見えないものを見る努力をすること。
これをやらない限りお店の改善策、いやそれ以前に、本当に解決すべきお店の課題すら見つけることはできないのかも知れません。
著者/辻本 誠(つじもと まこと)
<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計28店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。