第129回 売れない体験がくれたもの

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

「自分で稼ぐのは、こんなに難しいのか」
開業してからしばらくの間、私はこんな事を実感していました。

企業に所属しながら営業をしていた頃は、主に新規顧客の開拓が仕事だったため、「顧客を作る」という経験があれば自分で商売をやっても上手くいくだろうと考えていましたが、現実はとても厳しいものでした。

でも、今から振り返ってみると、つくづく思うのです。
「開業したばかりの頃、楽に売れなくて良かった」と。


自分で商売を始めることを考えた時、誰もがすぐに商売が軌道に乗ることを望むでしょう。
事実、私自身もそういう願望を持っていたからこそ、今から見返せば驚くほど楽観的な売上見込みを事業計画に盛り込んでしまったのだと思います。

結果、事業計画の半分にも届かない売上が長い間続くこととなり、冒頭に挙げた「自分で稼ぐのは、こんなに難しいのか」という実感に至った訳です。

商売を始めてみたものの、なかなか思うように稼げない。
こんな現実を目の当たりにした時、私たちは自分の置かれている立場を悲観的に捉えてしまいがちな気がします。

営業しているにも関わらず、何時間経ってもお客さんが来ない。
お店の電話も一切鳴らない。

こんな状況が何ヶ月も続くと、自分自身が世の中から否定されているような気にもなる訳です。ただ、それでもやはり今から振り返って考えた時に「楽に売れなくて良かった」と感じる理由。

それは、売れない時期があったからこそ、「売り方を考える癖」が身についたと思えるからであり、もし私が根拠も分からずに偶然売れてしまっていたら、売り方を考える癖を身につけることはできなかったと思うのです。

そう考えれば、根拠の分からないまま偶然売れてしまうことの方がむしろ危険であり、逆に決して楽ではないものの、創業して早い段階で売り方を考えざるを得ない状況を経験することこそが、その後の商売に役立つと言えるのではないでしょうか。

売れるためにいくつもの仮説を立てて、試行錯誤を繰り返すから売り方を考える癖がつく。
売り方を考える癖こそが、困難な状況を乗り越えられる強い商売を作る。

過去の記憶が美化されている部分もあるかも知れませんが、今の私の考え方を作った要因は間違いなく開業時の売れなかった体験であり、その体験があったから今も商売を続けることができていると考えると、やはり「楽に売れない」という状況は無駄ではなく、むしろ売る思考を広げてくれた貴重な期間だったと思えるのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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