第218回 打撃のフォームと商売のマニュアル

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

先日、有名な元プロ野球選手の対談動画を見ました。
その動画は今から40年も前に放送されたもので、撮影当時すでに引退していた選手の年齢が今の私の年齢とほぼ同じという事もあって興味深く見ていたわけですが、そこで私たちの商売にも共通するのではないかという学びがあったので、ここで共有してみたいと思います。


私が見た対談動画。
そこに出演されていた選手はバッティングで有名だったこともあり、対談のお題はバッティングに対する持論についてだったのですが、その中で選手がこんなことを話されていました。

「打撃を考えた時に自分のフォームを固定しようと考える選手が多いように感じるが、打撃フォームの固定に意識が向きすぎると、ボールを打つという本来のバッティングの目的を見失ってしまう」

「だからフォームを固定しようとするよりも、体の各可動部位を自分の意のままに動かせるように意識することの方が大事なのではないか」と。

これを私なりに解釈してみると、「打撃フォーム」はボールを打つための一つの手段のはずなのに、それが目的になってしまっている選手が多く、「ボールを打つ」という目的のためにはもっと大切にすべきことがある、ということだと思うのです。

これは正に商売にも同じことが言えるのではないでしょうか。

商売を始めるとき、自分の顧客に喜んでもらうことを望まないオーナーなんていないでしょう。ただ、顧客が増えていくに従って次第にマニュアルも増えていき、気が付けばマニュアル通りに仕事をこなすことが目的になってしまい、お客さんに喜んでもらうという目的を忘れてしまう。

私自身、直営店舗の運営には結構な量のマニュアルがありますので、マニュアル化を否定するつもりはありませんし、マニュアルなしに利益を生み出すのは難しいと感じます。

じゃあ、私たちが商売をするうえで「マニュアル化とお客さんの喜び」をどう両立させていくのかと考えると、それは選手の言葉の中にあった通り「可動部位を意のままに動かせる」ような柔軟性やあそびをマニュアルの中に持たせておくことではないでしょうか。

マニュアルをどんどん作りこんで仕事を作業化してしまった方が楽かもしれませんが、お客さんの喜びよりも社内や店内の都合を優先したマニュアル化は、ボールを打つという目的を忘れた打撃フォームと同じであるとするならば、柔軟性やあそびのないマニュアルの作りこみこそがお店の売上という打率を下げる原因になりかねないと、対談動画から教えられた気がするのです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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