本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 |
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。 |
「注文を待つのではなく、お店側から積極的に提案をしていく」
「注文を受けて商品を出すだけの受け身の営業はやらない」
創業する前に私が作成した事業計画書には、こんな内容が書いてあります。
当時の私がバーを開業する上でお客さんに提供したかった価値は「新しいお酒との出会い」。お客さんがまだ飲んだことのないドリンクを体験する機会をお店側から提供することで、自分のお店に価値を感じてほしいと考えていたのです。
今から振り返ってみると、この提供したかった価値自体が間違っていたとは思いません。
ただ、問題だったのは価値そのものではなく、「提供したい価値の伝え方」であり、当時の私は店舗商売が持っている大きな強みに気づかず、間違った伝え方をしてしまっていたと思うのです。
「接客業で自分が提供したい価値をどう伝えるか?」
このお題に対して当時の私が出した答え。
それが「接客のトークを磨くことで商品を提案する」という選択。
前職が営業だったこともあって、トークに変な自信を持ってしまっていた私は、接客トークの向上こそが提供したい価値を伝える最高の方法であると同時に、接客トークの向上こそが売上のアップに繋がると信じていたのです。
でも、結果はこのコラムで何度も書いてきた通りの苦戦続き。
じゃあ、この取り組みのどこが間違っていたのかと考えると、それが「店舗商売が持っている強み」に気づかず、自身の営業経験に固執したトークで売上を伸ばそうとしていたこと。
相手先に出向いていく営業にはなく、店舗に来てもらう営業にある強みとは何か。
それは店舗商売は自分から売り込まなくても、お客さんの方から注文したくなる仕組みを自由に考えられること。ここに店舗商売が持つ強みと面白さがあると思うのです。
店内でお客さんが目にするものはたくさんあります。
メニュー、POP、ボトル、ポスター。
私はこうした店舗商売の強みに気づかず、商品名と価格しか書いていないメニューだけをお客さんに渡してトークで売ろうとしていました。そして私と同様に、このような店舗商売が持つ強みや面白さに気づかず、売上に頭を悩ませているお店は意外と多いのではないでしょうか。
店舗商売はお客さんがお店に滞在している時間を通じて価値を感じてもらうことができる商売だということ。
そう考えるのであれば、当時の私が力を注ぐべきだったのは「売り込むトークを磨く努力」ではなく、「お客さんがワクワクするような仕組みを作る努力」だったと言えるのです。
著者/辻本 誠(つじもと まこと)
<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/