この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
4月からもう始まったんですよね。
始まりました。有給休暇の強制取得。
大企業は残業規制もスタートして、中小企業は来年からでしたっけ?
来年からですね。
来年の4月ですか?
そうです。来年の4月です。
これ、なんで大企業のほうが先なんですか?有給は同じなのに。
本来はいっぺんにやりたいんですよ。ただ、もともと分ける文化がある。「中小企業のほうが大変だろう」みたいな。
「ちょっと猶予してあげるよ」っていう感じですか?
そうです。
でも、有給に関しては同時じゃないですか。これはどうしてですか?
有給に関しては実質、中小企業向けなんですよ。大企業は元から取得率が高いので。
なるほど。
でも大企業を先行させると、中小は逆にきつくなると思うんですよね。
ほう。どうしてですか?
大企業って絶対法律を犯したくないので、きっちりやってくる。そうすると差がどんどん開いていく。
差が広がるとまずいんですか?
ホワイトとブラックの格差がさらに大きくなります
なるほど。大企業は自社の社員には残業をさせられないから、「下請けにやらせとこう」という流れになると。
そうです。で、大企業はどんどんホワイト化していく。
中小企業は「まだ猶予あるから」ってことで受けちゃって、さらにブラック化していくと。
そういうことです。
でも、そんなに仕事を受けられるほど、人が採れないじゃないですか。いま。
いや、もう中を見てると、とんでもないことになってますよ。特に製造業のピラミッドの下のほう。
いちばん下?
3段目ぐらいから大変なことになってます。要は、いちばん上が上場企業じゃないですか。で、2番手も上場企業なんですね、だいたい。
まあ、そうですね。大手グループですよね。
で、3番目ぐらいから従業員4・500人の中堅企業になっていくわけですけど。そのあたりからもう大変。
中堅クラスでも人が採れないということですか?
採れないですね。本当に採れないです。
経営者さんは、何か手を打ったりしてるんですか?
中堅クラスの経営者さんって結構優秀で、自動化とか標準化とかにガンガン投資してますね。ただし、儲かってる会社だけ。
じゃあ、そのさらに下が、いちばんしんどい?4・5番目ぐらいが。
そう思います。結局、機械化できないところが下に降りていくので。
下の会社はそれを受けちゃうわけですか?
はい。50人クラスの下請け企業は受けざるを得ないです。
下請けも当然、人が足りてないわけですよね?
実際は回ってなくて。疲弊した従業員が辞めて、労務トラブルになるケースが増えてます。
そこまで行ってますか!
はい。未払い残業の請求とかも最近ヤバいです。月に何件もあります。
そんなに?
とくにサービス業が多いですね。コンビニとか飲食店とか。
辞めてから未払いの請求に来るんですか?
辞めてからが多いです。
じゃあ、働いてる時は文句も言わず?
だって気まずいじゃないですか。だから内容証明を送っといて、社長の隣でふつうに業務してます(笑)
すごい光景ですね。
辞めた翌日に内容証明が届くんですよ。
なんと!
ある会社では、送別会やった次の日に300万円の請求が来てました。
採用が大変な上に、定着もしなくて、辞めた後には未払いの請求まで。
現実的には、もう成り立ってないんですよ。
潰れる前に「この値段じゃ無理です」って、はっきり言うべきじゃないんですか?
いまは「耐えなきゃいけない時期」かなと思ってまして。
耐えなきゃいけない時期?
シビアな労務管理で、いままで曖昧だったところがはっきりしてきますから。
はっきりすると、どうなりますか?
コストに耐えられなかった会社から、いなくなっていく。
潰れてしまうと。
はい。ここを耐えて残った会社が有利になります。
他に発注先がなくなるからですか?
そうです。「ウチしかやれないでしょ」ってなる。
それってどのタイミングですか?あんまり早く強気になったら干されちゃいそうですけど。
業界の同規模の会社が2割ぐらい潰れた頃。
2割ぐらい減ってきたらチャンスと。
そうです。それ以上耐えると自分のところが保たない。
いま、物流なんかそうですもんね。「この値段じゃないと受けられません」みたいになってきてます。
なってきましたね。それをこれから製造業でも起こさなきゃいけない。
起きますか?
どうでしょう。うまい具合に「自立させないピラミッド」になってますから。
なるほど。「生かさず殺さず」みたいな。
はい。あの関係性は結構大変だなと思います。
1、2社の仕事先に依存してるところは、厳しいでしょうね。
はい。「あっちもこっちも受けてる」っていう会社なら、2割も減れば一気にいけると思いますね。
儲からないお客さんは切り捨てる覚悟で。
そうなる為には、やっぱり売上構成がすごく大事。
ですよね。
よく「脱下請け」とかってむかし言ってたじゃないですか。
はい。
あの頃にちゃんとやってたところは、これから強くなるんじゃないですかね。
じゃあ今のうちに、新規クライアントを増やしたほうがいいですね。
1、2社に頼ってる会社は、かなり厳しいと思います。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。