第25回「守備が弱い会社はもう終わり」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第25回「守備が弱い会社はもう終わり」

安田

未払いの残業代って、実際いくらぐらいあるんですか?

久野

1企業平均2387万円と言われています。

安田

え!すべての会社に2300万も未払い残業があるってことですか。

久野

あくまで平均ですけど。従業員30人だと、そのぐらいにはなりますね。

安田

でも残業代って微妙じゃないですか。会社にいたからって、仕事してたとは限らないですよね。

久野

そうなんですよ。

安田

お菓子食べたり、雑談したり、休憩したりって時間も入ってるじゃないですか。

久野

かと言って、四六時中見てて「菓子食ったな」って10秒労働時間引くなんて、できないじゃないですか。

安田

まあ、できませんよね。やったらネットに書かれるでしょうし。

久野

そんなことしたら働く人が来なくなっちゃう。

安田

営業なんて外で何してるか分かりませんしね。

久野

いや、営業は成果が見えるのでまだマシなんですよ。いちばん難しいのは事務職の費用対効果を管理すること。

安田

確かに難しそうですね。時間でしか管理できないですから。

久野

そうなんです。時間当たりの効果を検証しにくい。

安田

いっその事、事務職もタイムカードなくしてしまうとか。

久野

タイムカードがない会社は最も危ないです。

安田

やっぱりサボり放題になりますか。

久野

いえ、そうじゃなくて、残業代を請求し放題になる。

安田

でもタイムカードなかったら、残業してたって証明できないじゃないですか。

久野

してなかったのも証明できないですよね。

安田

じゃあ、働いてる側の言いたい放題ってことですか。

久野

言いたい放題ですね。

安田

なんと!

久野

そうなんです。だからタイムカードは必須です。

安田

ってことは、企業側は残業させてないって証明を出さないといけない。

久野

そこがポイントですね。いつでも証明できるようにしておくこと。

安田

じゃあ、残業してた証明を出さなくても、労働側は勝てちゃうってことですか。

久野

客観性の高いほうが支持されます。

安田

客観性と言いますと?

久野

たとえば全く何もない状態で、従業員さんが手帳に毎日「来た時間と帰った時間」を記録してたと。それを3年間やってましたと。

安田

なるほど。会社がつけてなくても、社員さんが自分でつけている。

久野

で、裁判が始まって「会社側も何か出してください」となった時に「何もありません」って話になったら、裁判所としてはもう出されたものを信じるしかない。

安田

じゃあタイムカードがなかったら、社員さんのつくりたい放題になっちゃうと。

久野

タイムカードだけでも問題です。会社に来た時間と帰った時間しか記載されていないので。

安田

それだけでは足りませんか。

久野

会社に来た時間と、仕事が始まった時間と、仕事が終わった時間と、会社を出た時間。最低これだけは管理しなきゃいけない。

安田

なるほど。じゃあタイムカードの打刻及び、仕事している時間を把握しないといけない。

久野

逆に言えば、会社にいるけど仕事してない時間もあるじゃないですか。

安田

なるほど。そこまで管理すれば、サボってる時間は報酬を払わなくても済むと。

久野

いや、そこまでやって、ようやく闘えるってことです。じゃないと、やられ放題になります。

安田

ちなみにタイムカードを押した後はどうやって把握するんですか。仕事してるかどうかずっと見てるわけにもいきませんよね。

久野

デジタル管理がオススメです。たとえば8時半に会社に来たら指認証とかカードでピッとやります。すると会社に来た時間が管理できます。

安田

仕事を始めた時間は?

久野

それもデジタルで出来ます。基本的に仕事が始まる時間は決まってるはずなので、時間になったら勝手にカウントしてくれる仕組みがあるんですよ。

安田

時間より早く仕事する人は?

久野

それはその都度、申請する仕組みになってます。

安田

なるほど。

久野

残業も同じで申請できる仕組みにすればいい。すると残業申請していなければ、逆に本人が働いてないと認めたことになるので。

安田

それって基本的に企業の防衛策ですよね。

久野

そうですよ。

安田

残業させてないのに「残業やらされてた」っていう主張だったら、そこでちゃんと証明できると思うんですけど。

久野

はい。出来ますね。

安田

じゃあ、残業させてたけど「残業代払ってなかった」って場合はどうするんですか。そういう場合は、もう「払ってください」としか言いようがないんですか。

久野

それは実際、違法ですからね。働いちゃってますから。

安田

でも、そういう会社って、たくさんあると思うんですよ。

久野

未払い残業ゼロの会社って、多分ないと思いますね。

安田

ですよね。

久野

だって事務仕事とかでも、電源入れたところから仕事なのか、それとも立ち上がったところから仕事なのかって分からないじゃないですか。

安田

確かに。

久野

大体、9時から仕事だって言われたら、15分ぐらい前には常識として来るじゃないですか、会社に。電源、入れるじゃないですか。

安田

9時ぴったりに来る人とか、5時ぴったりに帰る人って、あまりいませんよね実際。

久野

だって5時に帰ろうと思ったら、その前から準備しないといけないですから。

安田

タイムカードを押すために並んでる時間とか。

久野

5時になったら一斉に押せるタイムカードを用意しないと、残業になっちゃう(笑)

安田

そう考えたら、どんな会社でも「未払い残業」って、あるんじゃないかと思うんですけど。

久野

厳密に法律の文だけ読めば、どの会社もあると思います。ただある程度は「しょうがないよね」っていう雰囲気が世の中的にはある。

安田

しょうがない?

久野

言うリスクもあるじゃないですか、出世の道とか。でも中小企業でもう捨て身になられたら、ちょっと危ないですよね。

安田

確かに。別に辞めてもいいですもん、中小企業なんて。

久野

辞めるときに「有給全部取って未払い残業請求して辞める」みたいなのが。

安田

増えてく?

久野

ひとつのパッケージになるかもしれない。

安田

じゃあ有給きっちり取らせて、残業代もきっちり払っておかないと、大変なことになりますね。

久野

しかも2023年からは残業の割増も始まります。

安田

割り増し?

久野

はい。普通は残業すると1.25倍の割増なんですけど、60時間超えるとプラス.25になります。

安田

ってことは1.5倍になる?

久野

そう。1.5倍。有給と残業と割増のトリプルパンチ。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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