富士そばの店長が会社を訴えた話。
はい。ありましたね。
富士そばって、社長がすごく社員を大事にしてるイメージなんですけど。
そうなんですか。
だけど店長が会社を訴えて。いっぱい残業させられて、残業代払ってなかった。
やってることだけ見ると、社員を大事にしてると思えませんけどね。
何をやって訴えられたんですか?
長年タイムカードの改ざんをやらされてた。会計上はきっちり精算してるように見せかけて、習慣として社員は短く申告するっていう。
ひどいですね。これって違法ですよね。
もし改ざんしてるとすれば、これは違法ですね。
前回ワタミの話で「上場してる会社が改ざんするなんて有り得ない」っておっしゃってましたけど。
あり得ないことが起きてますね。
残業代を改ざんしないと、安売りではもう成り立たないってことでしょうか。
成り立たないモデルのまま拡大しちゃった、ということでしょうね。
今までもずっとやってたんでしょうか?
意識が高い人ほどやっちゃうんですよ。
自ら残業代を削ってしまうと。
だって「あいつは効率が悪い」と思われるじゃないですか。
まあそうですよね。
だから上場企業ほど、早めにタイムカードを切って隠れて残業するんです。
残業代が減っても評価が高い方がいいってことですか。
「俺はコスパがいいんだぜ」ってことを見せたい。
何のために?
会社から良く思われたい。
昇進して年収を上げたいってことですか。
それもあるでしょうけど。
他にも理由があるんですか?
そういうもんだと新卒の頃から教えられてるから。
洗脳されちゃってると。
はい。
なぜ今になって社員さんは訴えたんでしょうね。洗脳が解けたんでしょうか。
イノベーションなき安売りって、人件費を削るしかないんですよ。
そうでしょうね。
でも今って、バイトやパートにはしっかり時間外手当てを払わなくちゃいけない。その分正社員がとんでもなくわりをくってるはず。
社員にも時間外手当ては払わなくちゃいけないですよ。
だから店長やエリアマネージャーにしわ寄せがいくんです。
なるほど。今回も店長さんが訴えてますね。
そこで吸収するしかないから。
店長やエリアマネージャーはちょっと給料がいい分、休んだふりして働かなくちゃいけないと。
往々にしてそのケースは多いです。
だけどその我慢も限界にきた?
でしょうね。抑えが効かなくなって爆発してるんでしょう。
じゃあ富士そばやワタミに限らず、安売りの外食チェーンではどんどん出てくる?
人件費にしわ寄せがいくモデルは必ずそうなるでしょうね。
タイムカードの改ざんってどう処罰されるんですか。
基本的には残業精算というかたちになります。
今まで働いてた分ぜんぶ払わなきゃいけないと。
はい。
これは訴えた人だけに払えばいいんですか?
いえ。全社員に波及するでしょうね。
なんと!
全社員もう1回調べ直されますから。
そこで改ざんが見つかれば、訴えてない人にも払うことになる?
払うことになります。
莫大な金額になりますね。
大変なことになります。
たとえば「月〇〇時間まではみなし残業で、基本給に入ってます」みたいなケースは?あれは違法じゃないんでしょ。
今は、基本給に交じってたら、極めて違法性が高いです。
マイナビ見たら普通に書いてありますよ。「月〇〇時間までの残業代が含まれます」って。これ本当は駄目なんですか。
駄目ではないんですけど。基本的には固定残業手当として、基本給とは分離すべきだっていうのが今の見解です。
基本給は基本給で、ちゃんと安い金額を「正直に書きなさい」ってことですか。
そうです。すると基本給が17万とか18万になるじゃないですか。
なりますね。
給料が「安い」ということを冷静に見極められるようになるので、トラブルが起きにくくなります。
でもそれじゃあ採用できないですよ。
そもそも採用できない待遇だってことです。
なるほど。ちゃんと給料払えってことですね。
そういうことです。
社員に我慢させてきた会社も、そろそろ限界にきてると。
富士そばは、たぶんコロナの影響が大きいと思います。
コロナですか。
コロナで業績が悪化して、残業代がさらに削られた。
それで堪忍袋の尾が切れたと。
そうですね。「大切にされてないな」って感じたんじゃないですか。
今まで訴えなかったのは「会社に大事にされてる感」とか「会社に対する愛社精神」がそれを上回ってたってことですか。
労使のトラブルってほとんどそうですよ。
そうなんですか?
はい。法律論でごちゃごちゃ言ってくる人もたまにいますけど。基本的にはほぼ感情のもつれです。
じゃあ社員が愛社精神を持ってる会社は大丈夫だと。
これからはもう無理ですね。若い人はドラスティックになってきてるし。愛社精神抜きで利益が出てるかどうか。それが生き残る会社の指標です。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。