第106回「休みを増やしたその先は?」

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第106回「休みを増やしたその先は?


安田

みずほさんが週休4日を導入した話ですが。

久野

はい。時代を感じますよね。

安田

週休3日か週休4日か。自分で選べるそうです。

久野

その分給料がちょっと減るんですけど。

安田

それって合法なんですか?「あれ、違法だろう」って書き込みもあるんですけど。

久野

本人と合意があれば問題ないですね。時間あたりの単価が変わってるわけじゃないので。単純に週5が週3になっただけ。

安田

なるほど。時給が重要だと。

久野

時間でお金を払う制度はそのままなので。5が3になっただけ。

安田

本人がOKしてれば問題ない?

久野

はい。合意してれば問題ないです。強引にやってはいけない。

安田

私からしたら「週に4日休んで給料7割保証」とか、天国だと思うんですけど。

久野

(笑)。人によりますよね。

安田

「給料を減らされるのは嫌だ。休みは要らない」って人も当然いるわけで。

久野

たくさんいるでしょうね。

安田

まあそれは本人が断ればいいだけで。

久野

「本人と合意が取れている」ということが大前提ですから。

安田

たとえば解雇はダメだけど退職勧奨はOKじゃないですか。

久野

はい。

安田

となると「あなたはもっと休んだほうがいいんじゃないの」という、限りなく退職勧奨に近い「休日勧奨」みたいなことも起こりませんか?

久野

起こり得ますよね。

安田

無理やり休ませたらだめだけど、休日勧奨だったらOKっていう。

久野

そうですね(笑)

安田

それは違法ではない?

久野

合意できれば。ある意味「リストラ的な要素」も含まれてる制度だと思います。

安田

やっぱそうですよね。

久野

はい。

安田

この制度を使って上手く人件費を減らしたい。

久野

そうですね。表向きのメッセージとしては「新しいことにチャレンジしてください」って感じですけど。

安田

裏のメッセージは何ですか?

久野

「どっかで別の食いぶち探してね」というメッセージだと思います。

安田

「給料を減らしたい」というのが先で、「その代わり休みを増やすよ」というのが後付けだと。

久野

そう思います。どこかで「副業でもしてくれ」と。

安田

違法にならないように、うまく考えられてますね。

久野

解雇というのは一方的に「辞めてください」と言って、本人が同意してない状態を解雇っていうんですね。

安田

はい。

久野

退職勧奨というのは「辞めてもらえますか」と言って、本人が「わかりました」と言ったら、これは合意退職になるんです。

安田

「おまえはもうクビだ。明日から来なくていい」って言ったら、これは解雇ですか。

久野

そうですね。

安田

じゃあ会議室に呼んで「悪いけど辞めてくれないか。君の業績ではこの給料を払い続けるのはしんどい」っていうのは、これはOK?

久野

「どうですか」というニュアンスならOKです。

安田

どうですか?

久野

「ちょっと厳しいかもしれないね」「こういうプランもあるよ」というところまでだったらいいんじゃないですかね。

安田

「辞めてくれ」はダメってことですか。

久野

弁護士の向井先生は「辞めてくれ」も問題ないと言ってます。ただ相手から「クビにされた!」って言われる可能性もある。「辞めたほうがいいよ」ぐらいが妥当ですね。

安田

「辞めたほうがいいいよ」なら問題ないと。

久野

頻度が多いと問題になります。5回も6回も繰り返すと「それって解雇ですよね」と取られがち。

安田

裁判で争ったら解雇と見なされる。

久野

そうですね。最終的にはそこを書面にしなきゃいけない。

安田

でも退職勧奨ってむずかしいですよね。「辞めたほうがいいと思うよ」ぐらいで辞めてくれりゃいいんですけど。

久野

はい。しがみつく方もたくさんいます。

安田

「頼むから辞めてもらえませんか」ってお願いするのはダメなんですか?

久野

微妙ですね。こちらの本心というか、メッセージは伝えなきゃいけないんですけど。

安田

心から辞めてほしいと思っていることを、他にどう伝えればいいんですか。

久野

たぶんお金も積まなきゃいけなくなる。

安田

ああ、なるほど。お金で納得させると。

久野

今回のみずほも「合意すれば辞めてもらえる」というのがベースになってます。それなら「時間を短くすることも大丈夫だろう」っていう。

安田

たとえば今回のみずほさんの場合、休んだ日の報酬を「人によって変える」というのはOKですか?

久野

それはいいと思います。本人さえ合意すれば。

安田

へぇ~。

久野

短くなったがために、逆に時間あたりの効率がよくなる人も出てくると思います。

安田

なるほど。逆に時給が逆に上がる人も出てくると。

久野

はい。ただ現実的には下がる人のほうが多いと思います。役職手当の問題もありますし。

安田

「来てもどうせやることないんだから、休んだら?」ぐらいのことはやるでしょうね。実際、来てもやることない人って、いっぱいいそうだし。

久野

そうですね。みずほは「リストラじゃないよ」って言ってますけど。

安田

けど本心は違う。

久野

その裏で、変化できない人に無理やり「変化してくださいね」と言ってる。かなりメッセージは強いですよ。「もう仕事がないよ」っていう。

安田

現場の銀行員って仕事がなくなってますからね。

久野

どんどんシステム化されてます。

安田

数字を打ち込んで『この人にはいくら貸せます』ってシステム通りにやってるだけ。

久野

はい。みんなとは言わないですけど8割ぐらいはそうでしょうね。

安田

高い給料を払ってまで雇ってる必要性がないと。

久野

窓口業務もいまは極端に少ないですし。外回りもコロナだから行けない。となったらやることがない。

安田

全行員の8割ぐらいが週休4日になる可能性もあると思いますか?

久野

銀行業界だったらあり得るんじゃないですか。この2・3年のリストラ具合を見てると。

安田

すごい仕組みを考えましたね。さすが銀行。頭がいい。

久野

合理的に考え込まれた「ものすごく秀逸な制度」だと思います。



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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