第73回「今だけ」の安売り

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第73回》「今だけ」の安売り

「今だけ半額!」
皆さんも、どこかのお店でこんなポスターやのぼりを見たことがあるんじゃないでしょうか。

儲けを削ってでも商品を安売りするお店の意図は何なのか?

半額で売ることで、商品を多くの人に試して欲しい。
半額で集客することで、その他の商品のついで買いを狙う。
今だけ感を演出することで、来店頻度を上げたい。

その思惑はお店によって様々だと思います。
ただ、こうした期間限定の値下げ販売をするお店の多くが共通して期待しているであろうこと。それが、安売りをすれば「お客さんから感謝される」という期待なのだと思います。

でもこれって、本当に期待通りになるのでしょうか?


「定価は1000円だけど、今だけ500円」
こうした値下げは、お客さんからしてもお店が儲けを削っているのは明らか。
だからお店は儲けと引き換えにお客さんからの感謝を期待する訳です。

確かに買う側のお客さんも、その価格が半額だということは分かっています。
ただ、ここで問題なのは「頭では分かっていること」と「実際に感じること」にズレが起きるということです。

皆さんもお客さん側の立場で感じたことがあるのではないでしょうか?
半額と分かって買ったものの、その商品が定価に戻った時に、とても高くなったと感じたことを。つまりこれは、頭では分かっていたはずの定価が、お客さんの実感で定価が500円に書き換わり、元々の定価はもはや2倍の値上げに見えるということです。

「今だけ安売り」という原因が生み出す結果。

それは、お店側は利益を削ったにも関わらず、お客さん側は値上げに見えるという事実。
いくらお店側が「今だけ」と言ったところで、お客さんの実感で定価が書き換わってしまった時点で、それが定価だということ。

本当にお客さんに喜んでほしいと考えるのであれば、私たち店舗オーナーがやるべきなのは、安易に自らの商品価値を下げる安売りではなく、今ある商品の価値を高め、その価値を理解してもらうことに知恵を絞ることだと私は思うのです。

売る側にとっての「今だけ半額」は、買う側にとっての「今だけ定価」なのです。

 

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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