第110回 AIにも忖度する文化

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第110回「AIにも忖度する文化」


安田

官僚に残業代を払う?

久野

はい。河野太郎大臣が提唱してまして。テレワークを含め労働時間をすべて記録する。残業手当も全額支払う。

安田

世間の反応はどうなんでしょう。

久野

「無駄がどうか精査もせず残業代を払うってどうなんだ」って意見ですね。とんでもない人件費になるので。

安田

すごい金額でしょうね。

久野

支出がかなり大きいから9割の国民は反対というか、心配してますね。

安田

「公務員の給料を下げろ」という民意は常にありますから。ろくに働いてないのに取りすぎじゃないかって。

久野

そうですね。

安田

とは言え公務員も労働者なわけで。税金だって払ってますし。

久野

誰かが仕事の中身をチェックする必要はあると思います。ただ残業に関しては精算する覚悟が必要でしょうね。

安田

チェックするだけですごいお金がかかりそう。

久野

それをやらないと削減もできないです。新しいテクノロジーもイノベーションも絶対に生まれない。

安田

まずは精査するべきだと。

久野

いったん全額払ってみるんです。そしたら暴動が起きるじゃないですか。

安田

暴動?

久野

今でも「報酬が高い」って言ってるわけですよ。さらに増えたら国民が黙ってないでしょう。

安田

確かに。でもかわいそうですよね。優秀な人たちにすごい残業までさせて。そのわりに大した報酬も払ってなくて。

久野

そうなんですよ。民間企業や外資に行けばもっと稼げる人がいくらでもいます。

安田

難しいところですよね。「もっと払うべきじゃないの?」とも思いますし、「無駄な仕事ばかりやりすぎ」という気もするし。

久野

ですね。

安田

政治家の答弁を考えるとか。そんな無駄なことに時間を使っていいのかと思います。

久野

わかります。ただし「報酬の問題」と「残業の問題」は分けて考えないといけない。

安田

残業してるんだから報酬は払うべきだろうと。

久野

方法論としてまず残業代を払う。その上で無駄をあぶり出して仕事を圧縮する。

安田

民間ならそれが正論ですね。じっさい働かせているんだから、とりあえず払えと。

久野

それをやらないと逆に延々と垂れ流すような気がします。

安田

国民にも問題がありますけど。

久野

私もそう思います。

安田

コロナ対策も「とにかく早くやれ」って国民は言うわけで。でも早くやろうと思ったら残業なり、徹夜なりしないと終わらない。

久野

根回しもしないといけないですしね。

安田

そんなことを国民が要求しといて「無駄が多い」なんてよく言えるなと思う。

久野

「明日までにやっとけ」みたいな感じですもんね。

安田

直接指示するのは上司でしょうけど。民意としてやらせてる気がします。

久野

公務員って種類が多いですから。人によって事情が違いますけどね。

安田

確かに。官僚と市役所の職員ではぜんぜん違いますね。

久野

普通の公務員はまず残業なんてしません。

安田

霞が関のビルはずーっと電気が付いてますけど。しかも帰りのタクシー代も出なくて。自腹で帰ってるんでしょうね。

久野

そういう人もたくさんいると思います。

安田

学校の先生みたいになり手がいなくなりそう。

久野

普通に考えたらIT企業に入ったほうが稼げますから。起業したっていいし。

安田

損得で考えたらそうなりますよね。国民から尊敬もされないし。

久野

昔は格好いい仕事だったんですけど。今は「大変だね」って言われて、同情されて終わり。

安田

それでも官僚になるわけですから。やりがいがあるんでしょうか。

久野

すごい使命感でやってると思います。

安田

残業代よりも「もっと意義のある仕事をさせろ」って感じでしょうね。

久野

そうですね。でもそうなるためには順番が大事なんです。

安田

まずは残業代を払えと。

久野

まず払わないことには無駄な仕事が見えてこない。

安田

無駄な仕事は誰がやらせてるんですか。

久野

そこは大企業と似たところがあって。日本って官僚も含めてメンバーシップ型なんですよ。

安田

え!官僚もメンバーシップ型なんですか?

久野

はい。だから、そこらへんの掃除とかも含めて下っ端がやんなきゃいけない。すごく部活的な組織なんですよ。

安田

大企業の新人みたいなことを、官僚の人たちもやらされてるってことですか。

久野

やらされてる。

安田

なんという国家頭脳の無駄遣い。それが一番の無駄ですよ。

久野

ホントそう思います。官僚には秘書ぐらい付けたらいいんですよ。

安田

付けたら生意気だとか言われるんでしょうね。国民から叩かれて。

久野

だから逆に無駄が多くなるんですよ。

安田

国家を運営するための膨大な仕事もありますし。

久野

そうなんですよ。誰かがそれをやらなくちゃいけない。しかも優秀な人がやらないといけない。

安田

いっそのことAIかなんか導入して。

久野

いやいや、そこは人間が決めたいですよ。取りあえず優秀な人には頑張って働いてもらうしかない。

安田

だけど無駄な仕事も多いわけでしょ。

久野

そうなんですよ。だから1回整理した方がいい。

安田

思いきって時短したらどうですか。8時間以上は絶対に働いちゃいけないルールで。必要ないことはやめざるを得ない。

久野

それでもやめないでしょうね。忖度の文化ですから。

安田

上司への忖度はなくなりませんか。

久野

そう思います。

安田

上司のほうから「俺の書類は用意しなくていい」とか言わないですか。

久野

言わないでしょうね。そこは一般企業とまったく同じ。

安田

やっぱAIしかないですね。医療だってAIに移っていくんですから。行政だってできるはずですよ。

久野

医療は目的が決まってますから。人の命を救うことが最優先で。行政の場合は難しいですよ。何をAIに学習させるべきなのか。

安田

そこから忖度が始まりそうですね。

久野

そうなんですよ。だから結局変わらない。

 

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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