第113回 改ざんの裏側

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第113回「改ざんの裏側」


安田

富士そばって、いろんな会社がやってるんですね。

久野

運営会社がいくつかあるみたいです。

安田

その中のダイタングループという会社が、労働組合の幹部を解雇したそうです。

久野

はい。懲戒解雇ですね。書記長と委員長。

安田

どういう理由で解雇したんですか?

久野

もともと未払い残業の訴訟をやってまして。会社からたくさん残業代をもらうために、業務報告書の記録を捏造したという疑惑ですね。

安田

社員がたくさんもらえるように、捏造したってことですか。

久野

そうです。店長の勤怠データも多くもらえるように増やしてた。

安田

それは解雇されても仕方ないですね。

久野

もし事実だとすれば完全に横領なので。

安田

でも横領しても、自分の懐には入らないですよね。

久野

もしかしたら自分の残業代も増やしていたかもしれません。

安田

それなら分かりますけど。なぜ他人の残業代まで増やしたのか。

久野

リーダーっぽくなっちゃったんじゃないですか。みんなに祭り上げられて。

安田

それで捏造までしますか?

久野

それは本当に疑問で。普通に考えれば履歴ですぐバレるし。

安田

これは推測ですけど。「残業代をもっと減らせ」って言われたところを、減らさなかっただけじゃないですか。

久野

僕もそう思いますね。忖度をやめたんだと。

安田

でもそんな理由では解雇できないですよね。

久野

できないです。仮に勤務記録を改ざんしたなら、それは懲戒解雇の事案になる。

安田

無理やりそっちに持っていってる気がしますけど。考えすぎでしょうか。

久野

富士そばって、最近すごくゴタゴタしてまして。雇用調整助成金の不正請求とか。

安田

ですよね。だから余計に勘繰っちゃいます。

久野

コロナの影響もあってビジネス的に厳しいんでしょう。

安田

店長さんが辞めたり、会社を訴えたり。そういうことがしょっちゅうありますよね。

久野

多いです。

安田

何とかして「残業代を払わないように」してるイメージ。

久野

会社全体のモラルがなくなってきてます。休んでないのに休んでることにして助成金を取ろうとか。

安田

ビジネスモデル的に限界なんでしょうね。

久野

立ち食いもコロナで相当厳しいですから。大きな会社の特徴として、売り上げ下がると内に入っていくんです。

安田

経費を押さえにかかるってことですか?

久野

はい。本当は売り上げを回復させなきゃいけないのに、突然経費を削り始める。でも経費削減にはゴールなんてないわけで。

安田

削り続けるしかないですよね。

久野

最後は売上に影響するところまで削って。最悪のケースは悪いことをし始める。

安田

確かに外食はコロナの直撃を受けてますけど。「遅かれ早かれこうなったんじゃないの」って気もします。

久野

コロナの前から厳しかったですね。とくに採用が。

安田

ですよね。

久野

本来きつかったところにコロナが出て、早まっちゃったんでしょう。

安田

今回の裁判はどうなると思いますか。

久野

会社が改ざんしてたってことになれば、社会的な信用はかなり落ちるでしょうね。

安田

社員が改ざんしてた可能性もありますよ。どちらかが嘘をついてる。

久野

外に出た時点で、企業のガバナンスがきいてないんです。

安田

どういう意味ですか?

久野

勝っても負けても、企業イメージを考えたら厳しいってことです。とくに採用には大きく影響すると思う。

安田

集客にも影響しそうですね。

久野

はい。結果がどうであれ今後に響いてきます。労働事件が起きてしまった時点で。

安田

労働組合って「経営陣とズブズブだ」って聞いたことがあるんですけど。

久野

ほとんどの上場企業では組合は出世コースって感じですね。一般社員からは「御用聞き組合」と揶揄されてますし。

安田

ですよね。なぜ今回はこんなことをやったのか。出世からは完全に外れちゃいますよね。

久野

そのまま横滑りで部長になる組合員とか、結構いますから。

安田

普通はそっちを目指しますよ。もう愛社精神そのものがないとか。

久野

会社のことを考えた結果「今変わらなければもう駄目だ」って思ったのかもしれない。

安田

愛社精神の裏返しだと。

久野

そういう部分もあると思います。

安田

う〜ん・・・どうでしょう。上場企業って利益のためには社員も切っちゃうし。「会社のために」なんて気になるんでしょうか。

久野

責任感もあるんじゃないですか。自分がなんとかしなきゃっていう。

安田

そんな気概があるんですかね。

久野

なんとか未来を見せて「みんなで会社を支えよう」みたいな。だから、ちょっとでも待遇を良くしたかったんじゃないですか。

安田

会社の言う通りにコストカットしてたら、もう社員がもたないぞと。

久野

そういう部分もあったと思います。

安田

大企業って懐の深さみたいなのが魅力だったと思うんですけど。

久野

もうそんな余裕はないですね。

安田

釣りバカ日誌のハマちゃんみたいな人は、もう居場所がないんでしょうか。

久野

ないでしょう(笑)

安田

のりしろみたいな部分がなくなってしまいましたね。

久野

ほぼなくなりましたね。社員も割り切って働いてると思います。

安田

残業するなら手当を払えと。

久野

それはもう当たり前の感覚ですね。

安田

滅私奉公を期待するような経営は、もう無理ですか。

久野

無理です。

安田

大企業でも?

久野

はい。

安田

でも大企業って、それを前提に成り立ってた気がするんですけど。

久野

これからは難しいと思います。上場企業ほどシビアになっていくんじゃないですか。

安田

もはや上場企業に入る意味がないですね。上場企業と言っても立ち食いそば屋だし。

久野

それを言ったらマクドナルドもハンバーガー屋ですよ(笑)

安田

確かに(笑)外食はもう全面的に厳しいですね。

久野

外食に限らないと思います。たまたま今回、外食で起こっただけ。

安田

今後、あらゆる業界に広がっていくと。

久野

はい。上場企業といえども、スケールメリットだけで勝負するのは厳しいです。

 

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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