第123回 円の切れ目が、国の切れ目

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第123回「円の切れ目が、国の切れ目」


安田

給料のデジタル化?

久野

はい。これは恐ろしいですね。

安田

恐ろしいんですか?給料のデジタル化って。

久野

私はそう思います。PayPayまで認めるような動きですから。

安田

なぜ国はこういうことをやろうとしてるんですか?

久野

ひとつには外国人の問題が大きいと思います。

安田

外国人?

久野

コロナであまりクローズアップされていないですけど。日本の人口統計を見ていくと、どうしても外国人を入れなきゃいけない。

安田

労働人口が足りないってことですよね。

久野

そう。だけど外国人にとって日本の金融のシステムは大変なんですよ。

安田

何が大変なんですか。

久野

金融口座を作ること自体がもう大変。そのオペレーションだけでものすごく手間がかかるんです。

安田

日本の書類って面倒ですもんね。ハンコとかわけ分かんないし。

久野

そこが大きな問題になってます。もうひとつは国がお金を管理したいこと。

安田

デジタル化しないほうが管理しやすそうですけど。

久野

安田さんは現金使ってますか?

安田

いえ。使わなくなりました。現金しか使えない店のために、わざわざ現金を下ろしにいく感じ。

久野

ですよね。私も財布の中にほとんど現金が入ってないです。

安田

コロナの影響もあるんでしょうか。

久野

コロナで加速しましたね。現金を受け取るとちょっと嫌な気持ちになりますもん。

安田

確かに現金ってすごく汚そう。誰が触ってるか分からないし。電子マネーでピッ!とやってほしいです。

久野

間違いなく電子マネーの追い風になります。

安田

おつりに汚い札を渡されたりしますもんね。あんなの財布に入れたくない。

久野

お金だけど受け取るのが嫌ですよね。デジタルだったら素直に喜べるでしょ?

安田

すべてのお店が電子マネーを導入してくれれば、もう現金はいらないですね。

久野

そうなる可能性はあると思います。

安田

ありますか?現金がなくなる日。

久野

デジタル通貨ってもう既に、世界で勝負が始まってるんですよ。デジタル人民元とか。日本は完全に出遅れてますけど。

安田

いつも日本は出遅れますね。これってテクノロジーの問題ですか。

久野

価値観の問題でしょうね。このタイミングで新紙幣を発行しようとしてますから。

安田

デジタル円みたいなものも出てきますか?

久野

間違いなく出てくると思います。

安田

みんな使いますかね。

久野

はい。世界で使えるようになるはずなので。通貨交換って大変じゃないですか。

安田

面倒ですよね。

久野

デジタル円ならオーストラリアでも使える。非常に利便性が良くなるので、ドルのような通貨になる可能性もある。

安田

なんと!世界中でドルのように使われるようになる?

久野

その可能性もあるってことです。だからどの国もそこを狙ってる。

安田

その覇権を取りたいから中国もデジタル元をやってると。

久野

もちろん。

安田

PayPayも中国ですよね。

久野

そうですね。

安田

じゃあPayPayの端末が世界中で使えるようになったら、円よりすごいことになる?

久野

なります。Amazonも同じことが言えます。ポイントがほぼお金なので。

安田

そうなったら、もはや国の後ろ盾は必要ないですね。

久野

国がもっとも恐れているのは、通貨が国家を超えることです。だからビットコインとか、国家の管理外でお金が生まれることに関して世界が規制に走ってます。

安田

世界中の人がビットコインやPayPayで決済するようになったら、円やドルは必要なくなりますもんね。

久野

そうなる可能性もありますから。

安田

金融を握るのが国ではなく企業になると。

久野

企業が国みたいになっていくかもしれません。PayPay国みたいに。

安田

PayPay国?

久野

はい。PayPay使う人はPayPay国の住民になっていく。PayPay人ですね。

安田

国家ではなく通貨に対してアイデンティティを持つようになると。

久野

そうなる可能性もあると思います。

安田

それは国としてはまずいでしょう。

久野

かなりまずいですね。

安田

だったら電子マネーなんて認めなきゃいいのに。なぜ国が給料のデジタル化なんてやろうとするのか。

久野

大きな流れはもう止められませんから。規制を設けて管理する方向でしょうね。

安田

どうやって?

久野

たとえばPayPayはただの通貨なので、国が認めないと給料として使えない。そのあたりの規制をかけつつやっていく。

安田

なるほど。PayPayをお金だと認めるのは日本国だと。

久野

そういうことですね。

安田

いずれは給料をPayPayで払う会社も出てきますか。

久野

出てくると思います。手数料が安いので。

安田

現金支給にこだわる社長さんはどうなるんでしょう。いまだにボーナスを現金支給してたり。

久野

賞与の時期になったら社員を並ばせて、社長が携帯端末をかざして払うとか。

安田

全然ありがたくないですね(笑)

久野

現金支給にこだわってる社長さんなら、やりかねないです(笑)

安田

お金というものが、だんだんと肌触りのないものになっていきますね。物々交換に近いっていうか。単なる暗号みたいになっていく。

久野

そうですね。手数料が要らなくなれば、日払いの仕事はもっと発展していくと思います。

安田

日払いの仕事ですか。

久野

日払いや時間払い。たとえばパソコンを動かしてる間に、表示されてるデジタル通貨が増えていく。未来の働き方として大いにあり得ます。

安田

リモートワークも増えましたからね。いずれ銀行口座なんてなくなるかも。会社をつくるときに銀行口座がなかなか開けないらしくって。もうセブン銀行でいいやみたいな。

久野

QRコードを貼り付ける時代になるかもしれないです。「ここに振り込んでおいてください」みたいな。

安田

お金の価値が激変しそうですね。

久野

「お金だ」とみんなが思ってるからお金なだけで。円のすごいところはまさにそこですよ。日本人が心から円を信じてる。それがなくなったらこの国はもう終わりです。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから