第168回 キャッシュレスの境目

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第168回「キャッシュレスの境目」


安田

ゆうちょのニュース見ましたか?

久野

小銭のニュースですよね。

安田

はい。小銭をATMで預けたらお金がかかるっていう。

久野

これはゆうちょに限らないと思うんですけど。どこもそうなっていくと思います。

安田

子どもの頃、郵便局に小銭を持っていくと褒められたんです。「頑張りましたね」とか言われて(笑)

久野

もう、そういう時代じゃないです(笑)小銭はすごく手間がかかるので。

安田

でも飲食店なんて小銭がないと商売できませんよ。

久野

はい。そこに手数料がかかるとなると大変です。

安田

「やっていけないよ」みたいな話が巷に溢れてます。

久野

海外では普通のことですけどね。貯金してるだけで手数料を取られるとか。日本人は何でもタダが染み付いてるので。

安田

つまり「普通の姿に戻っただけ」ってことですか。

久野

極めて普通だと思いますけど。ATMは機械だけど後ろで必ず人がオペレーションしてるので。とくに硬貨なんて大変ですよ。

安田

確かに。誰かが運んでるんでしょうね。

久野

お金を預けるだけなのに色々聞いてくる人もいるじゃないですか。

安田

ATMの使い方がわからない高齢の方とか。

久野

そう。そんなことまで考えたら絶対お金取るべきだと思います。

安田

1円つくるのに3円かかるって聞いたんですけど。1円玉なんて必要なんでしょうか。

久野

硬貨自体をもうなくしていかないと。

安田

1000円以下はデジタル通貨のみにするとか。

久野

日本は逆に行ってます。手数料を取られることがすごく嫌な文化だから。PayPayの業者に手数料を抜かれるのは嫌だとか。

安田

だからキャッシュレスが進まないんですか。

久野

「誰かが介入したらお金かかるよ」ってことを、もっと全員が理解すべきです。

安田

サービスはタダではないですからね。

久野

タダはないですよ。友達でもタダで仕事とか頼んじゃいけないと思う。

安田

銀行窓口から人もいなくなって、ATMもどんどんなくなっていく感じです。これが時代の流れでしょうか。

久野

間違いないです。法人でも現金はもう使わないですし。ウチなんて年に1回ぐらいしかおろさない。しかも数十万。

安田

小銭が必要な人たちはどうしたらいいんですか。

久野

両替屋さんみたいなサービスが増えてます。近所のスーパーにも入ってますよ。

安田

それはタダなんですか。

久野

タダじゃないです。手数料は結構高い。確か10%ぐらい。

安田

だったら銀行に行ったほうがいいじゃないですか。

久野

銀行の窓口やATMはどんどん減っていくので。

安田

元が取れないんでしょうね。銀行も。

久野

絶対無理でしょう。今でも手数料が高いって言われてますから。

安田

端数を切り捨てたいけど「消費税があるからできない」という意見もあって。消費税を取るなら両替は国がやるべきじゃないですか。

久野

電子マネー化するしかないです。

安田

なぜ電子マネーは普及しないんでしょう。端末が高すぎるんですか。

久野

端末と言ってもQRコードを紙で置くだけですよ。やっぱり手数料をむちゃくちゃ嫌いますよ。

安田

サービスはタダだと思ってますもんね。

久野

PayPayが「手数料取ります」って言ったら大騒ぎになって。「解約するぞ」って。

安田

PayPayだって慈善事業じゃないんですから。

久野

神社のお賽銭が「大変なことになる」って騒いでました。

安田

お賽銭はほとんど小銭ですもんね。

久野

でも大変だと言ってるわりにはPayPayも導入してるところが少ない。

安田

神社でPayPayは難しいですよ。ありがたみがないっていうか(笑)

久野

でも最近出て来ましたよ。PayPay賽銭箱。

安田

なんと。あるんですか。

久野

お線香やローソクもPayPayで買えます。たしか広島の神社でした。

安田

そこまでやると神社に行く意味がなくなりませんか。「オンラインで拝んどきゃいいや」みたいに。存在意義がなくなるというか。

久野

価値を持ち続けてもらう工夫が必要でしょうね。

安田

デジタル化しにくい業種ってあると思いますけど。

久野

でも最終的には絶対なくなりますよ。とくに小銭は。

安田

個人的にはなくなってほしいです。現金オンリーの店がある限り、小銭や現金を持ち歩かなくちゃいけない。近所の肉屋とパン屋がそうなんです。

久野

歯医者さんも多いですよ。

安田

確かに。保険診療だと現金しか駄目って言われます。

久野

やるなら完全にキャッシュレスにしてほしいですよね。現金持ってないと不安ですもんね。

安田

もし完全キャッシュレスになるとしたら、どういう手順ですか。国として「もう小銭は発行しません」って決めればいいんですか。

久野

まず小銭に変わるものをつくらなきゃいけない。中国だったらデジタル人民元とか。今やってますよ。

安田

日本はつくらないんですか。デジタル円。

久野

三菱UFJがつくろうとしてます。でも難しいでしょうね。日本ではやらせてもらえない。

安田

それはなぜ?

久野

デジタル通貨が世界の覇権を握ると言われてまして。アメリカがデジタルドルをつくるので日本はやらせてもらえない気がします。

安田

じゃあSuicaみたいな電子マネーを普及させるのはどうですか。

久野

難しいでしょうね。普及させるには国がインセンティブ与えないと。

安田

どんなインセンティブですか。

久野

たとえば税金を安くするとか。

安田

ペナルティーじゃダメですか。キャッシュを使ったら手数料がかかるとか。

久野

今はまさにそういう方向ですね。「レジ袋の有料化」と同じ理屈。

安田

こういう戦略って誰が考えるんですか。

久野

黒幕がいるかもしれませんね。

安田

金融庁の人が圧力をかけてるとか?「両替を有料にしろ」とか。

久野

どちらにしても世界の流れは必ずキャッシュレスになります。中国はもうほとんどキャッシュレスですし。

安田

世界はそちらに向かってるんですね。

久野

日本でも若い子はもう財布持ってないです。

安田

私も近所に行くだけならSuica1枚持って出かけちゃいます。

久野

現金持ってないと不安じゃないですか。

安田

最初は不安だったんですけど。だんだん慣れてきました。

久野

キャッシュレスはそうやって進んでいくんでしょうね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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