第188回 スキルアップは実現するのか

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第188回「スキルアップは実現するのか」


安田

ソニーなど100社が連携?

久野

はい。

安田

100社で集まって何をやるんですか。

久野

いま流行ってるリスキリングですね。

安田

リスキリング?

久野

リ(Re)スキル。再びスキルを学び直しみたいな。

安田

なるほど。それを100社でやるんですか。

久野

これを副業と言っていいのか微妙なんですけど。要するに「大手企業同士で人材を交流させましょうね」ってことだと思います。

安田

大手100社で人材を行き来させつつ社員を鍛え直そうと。つまり100社の中で人材を流動化させようってことですね。

久野

そういうことだと思います。

安田

すごい画期的に見えますけど。100社もあったら、いろんな仕事があるでしょうし。燻っていた人材が活躍するチャンスかもしれませんね。

久野

でも結局リスクを負ってないじゃないですか。

安田

それはどちらが?

久野

社員さんたちが。これで本質的に力が付くのか疑問です。

安田

100社のどこかで副業ができればハッピーじゃないですか。本業の報酬も下げられるし、受け入れる側も安い金額で仕事を頼めるし。

久野

企業にはメリットがあるかもしれません。

安田

お互いメリットがありそうに見えますけど。それとも、これはリストラの一環ですか。

久野

いえ、純粋に学び直しという観点でやってると思います。

安田

なぜ100社で連携しようと思ったんですかね。自社だけじゃ無理ってことですか。

久野

結局は自由にさせたくないんだと思います。

安田

副業は許可するけど「この100社限定だよ」ってことですか。

久野

そう。ちゃんとガバナンスが取れたところだったら、情報漏洩の問題も起きづらい。お互いにコンプライアンスの問題もあるし。

安田

安全を期してということでしょうか。

久野

極めて日本的な発想だなって思います。

安田

夜中に訳のわからないバイトされるよりいいですよね。

久野

そういうことだと思いますけど。

安田

目的としては、社員をレベルアップさせたいんですか。それとも副業で稼がせて給料を減らしたいんですか。

久野

本気で稼ぐ人材にしたいんだと思います。

安田

へえ〜。

久野

だけど流動化はさせたくない。

安田

流動化は起こるような気がしますけど。

久野

それをさせないための100社連携じゃないですか。

安田

そうなんですか。

久野

副業の何を恐れているかっていうと、そのまま引き抜かれちゃうところなんですよ。

安田

いい人材だったらあり得ますよね。

久野

はい。本当にできる人材だったら、来た瞬間に「めっちゃこいついいな」「そのままこっち本業にしたら」みたいなことが起きるわけです。

安田

ということは「引き抜きは禁止」みたいな裏約束があるんですか。今回の連携は。

久野

そういったことも含めて枠組みを決めたいんでしょうね。

安田

引き抜かれたら困るような「できる社員」も参加させるんでしょうか。

久野

そう思います。

安田

なぜそんな危険なことをするんですか。

久野

やっぱり学び直しという観点が大きいと思います。

安田

優秀な人材でも学び直しが必要ですか。

久野

人的資本みたいなことを株主にも公開していかなきゃいけない時代なので。

安田

人的資本?

久野

どういうスキルアップを従業員にやらせているのか。株価にも影響するんですよ。

安田

大変な時代ですね。

久野

そうなんです。

安田

100社もあれば、今まで駄目だった人が活躍するケースも出てくるかも。そういう人が増えていけば社会全体の生産性も上がるし。

久野

すごく上手くいけば、そうなる可能性はもちろんあります。

安田

可能性は低いですか。

久野

「合う合わない」はあるでしょうけど。突然できるようになるイメージはちょっと湧かないです。

安田

「今の会社ではやる気が出ない」って人もいるんじゃないですか。

久野

その確認作業みたいな部分はあるかもしれないですね。

安田

「どこでも同じなんだ」ということを理解してほしいと。

久野

「自分はいい会社にいたんだ」と気がついてくれるかもしれないし。

安田

夢みたいな会社があるわけじゃないですもんね。

久野

そうなんです。大手は新卒ばかりなので他の会社を見たことがないので。

安田

普通に考えれば「こいつは抜群だ」という人材は、行かせたくないんじゃないですか。

久野

本音はそうでしょうね。でも実際にこれをやり出したら、意欲のある人が手挙げると思いますよ。

安田

確かに。できる人材って意欲が高いですからね。

久野

そうなる可能性が高いと思います。

安田

こういう制度って法的には問題ないんですか。

久野

ないですね。

安田

新しいリストラみたいにも見えますけど。いろんな会社をたらい回しにして辞める方向に持っていくとか。

久野

それはちょっと穿った見方だと思います。

安田

銀行なんて昔からそんな感じですよ。グループの中での移動ですけど。出向させて、そのままさよならみたいな。

久野

確かに国は流動化も推奨してますけど、一番強いのはスキルアップ圧力だと思います。

安田

もっと生産性を高めろと。

久野

国はそれを求め続けてます。

安田

これで大企業が副業OKとなると、中小企業も必然的にOKにせざるを得なくなりますよね。

久野

間違いないと思います。政府としては副業解禁させようとしてますから。

安田

なぜそんなに副業させたいんでしょう。

久野

やっぱり学び直しと所得の低下ですよ。働き方改革を進め過ぎちゃって、残業できないじゃないですか。二足のわらじを履かないと生活が成り立たない。

安田

つまり「よその会社で残業して稼ぎなさい」ってことですか。

久野

だって本業でしっかり働いて稼いでたら、副業する時間も必要もないはずじゃないですか。

安田

確かに。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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