第204回 時間で稼ぐことの限界

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第204回「時間で稼ぐことの限界」


安田

「残業=頑張ってる」という時代から「残業=無能」という時代になってきました。

久野

いや、もう終わったと感じます。

安田

え!「残業=無能」の時代はもう終わり?

久野

はい。働き方改革を経て、今は「ちょこっと残業」で済む会社が増えてきてます。

安田

「ちょっこっと残業」する人は無能ではないと。

久野

逆ですね。普通に考えたら経営者は「生産性の高い社員」に残業してほしい。

安田

そりゃそうですね。

久野

つまり、いい会社ほど優秀な人が残業してるわけですよ。

安田

なるほど。

久野

「労働時間が長い人=無能」みたいな図式はもう終わってます。

安田

残業しない人はどうなんですか?

久野

むしろ残業してない人の方が、「そんなに重要な仕事を任されていない人」という時代に変わりつつある。

安田

残業せずに業務をやり遂げたら「さらに優秀」ってことにはなりませんか?

久野

仕事が増えていない会社なら、その論理が成り立つと思います。

安田

伸び盛りの会社では無理だと。

久野

無理せざるを得なくなったとき、企業が採る選択肢としては「なるべく生産性の高い人」に残業させること。

安田

でも残業の上限は決まってますよね。労働法で。

久野

決まってます。ただ上限までやらせるって、今はもうないですよ(笑)

安田

そうなんですか。

久野

働かないですよ。80時間も。

安田

そんなに仕事がないってことですか?

久野

いや、仕事は多いんですけど。そこまで残業させると辞めちゃうじゃないですか。

安田

なるほど。「優秀=ガンガン働きたい人」ではないってことですね。

久野

そうなって来てます。

安田

優秀だけどそこそこの収入で、自由な時間があった方がいいと。

久野

経営者がそこをきちんと考えて手を打っておかないと。

安田

優秀な人が辞めちゃったら取り返しがつかないですもんね。

久野

採用にも力入れないといけないし、人が集まるいい会社にしていかないといけない。

安田

能力が低い人に関してはどうしたらいいんでしょう?

久野

雇ってしまったら頑張ってもらうしかないです。

安田

能力が低い人って仕事が遅いですよね。

久野

はい。コスパは悪いと思います。

安田

働く側からしたら「あまり仕事をせずに稼げる」ってことになる。つまり仕事ができない人の方がコスパがいい。

久野

そうならないようにしなくちゃいけないです。「やってくれた人に高く払う」というところが前提なので。

安田

そんなことが出来るんですか。

久野

ちゃんと仕組み化すれば出来ます。たとえば長時間残業してる人って、一見社員が悪そうに見えるけど、明らかに会社が悪くって。

安田

会社が悪いんですか。

久野

だって、能力が低い人に残業させてるわけじゃないですか。ものすごく非効率なことをやってるわけですよ。

安田

確かにそうですけど。「仕事が終わってから帰れよ」って思いませんか?「できてないのにもう帰るのかよ」みたいな。

久野

それは、僕も思ってますよ。

安田

ですよね。

久野

だけど残業されると、さらにマイナスが増えていくわけで。

安田

定時になったら「私、能力が低いんで、これで失礼します」みたいな。それはそれで腹が立ちそうですけど。

久野

でも働き方改革ってそういう改革なので。けっこう残酷なんですよ。「短い時間で成果を上げろって」のが基本なので。

安田

短い時間で成果を上げられない人はどうなるんですか?

久野

時給単価も下がるし、残業すらさせてもらえない。それが原理原則ですね。

安田

能力が低い人は残業もできないし、当然スキルアップも望めないから、どこまでいってもできる人に追いつけないってことですね。

久野

そうです。

安田

確かに残酷ですね。

久野

プライベートな時間に頑張って勉強するしかないですね。

安田

それは労働にはならないんですか。

久野

そこは労働じゃないですね。

安田

たとえば営業で成果を出すために、家に帰ってリストアップするとか。DMで送る文面を考えるとか。これは労働じゃないんですか。

久野

それは労働かもしれないです。

安田

成果を出そうと思えば、当然そうなると思うんですけど。

久野

そんなことないと思います。ビジネス書を読んだり、セミナーに参加したり。

安田

それで営業成績が上がりますかね。

久野

上げてもらわないと困ります。

安田

会社は困るでしょうけど。本人は別に困ってないかも。会社では一生懸命頑張るから、プライベートはそっとしておいてほしい。「給料の3倍働け」とか言われても困る。

久野

3倍とは言わないけど2.5倍ぐらいは稼いでもらわなきゃ。会社は回らないですよ。

安田

20万円の給料で「なぜ60万円分働かなくちゃいけないんだ」ってなりませんか。

久野

維持コストがかかりますからね。社会保険料だって乗ってくるし。

安田

私も経営者なので理屈はよく分かります。だけど働く側からしたら、なぜ給料以上に働かなくちゃいけないのか。ばかばかしさを感じ始めてる気がします。

久野

だから頑張った人にはちゃんと報いていかないと。

安田

とは言え、一旦給料を増やしちゃうと下げられないじゃないですか。

久野

そんなことないです。仕組み化すれば下げることは出来ます。

安田

でも急激には下げられないですよね。

久野

それは難しいですね。

安田

だけど上げる時は一気に上げるわけでしょ?

久野

できる人・頑張る人の報酬は増やしていかないと。

安田

会社として成り立ちますか?

久野

払って、下げられるようにする。それしか方法はないと思います。

安田

基本給を上げずに賞与で出すとか。

久野

賞与で出すのもひとつの方法です。だけど基本的には評価制度をきっちり作って給料を上げていかないと。

安田

上げた後に頑張らなくなるかもしれないのに。

久野

そこは信じてあげていくしかない。でないと優秀な人は確保できないです。まずは頑張ってる人にちゃんと報いること。そして採用にも力を入れること。

安田

なかなか大変な時代ですね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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