第214回 値上げから始まる企業淘汰

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第214回「値上げから始まる企業淘汰」


安田

セガが従業員の月額平均給与を30%を上げるそうです。

久野

トヨタもホンダもベア満額回答ですし。UFJも上がってますね。

安田

みずほも初任給が5万5000円アップします。。

久野

ユニクロを筆頭にガンガン来ました。

安田

やっぱりこれはユニクロ効果ですか。

久野

もともと大企業って、国が出した方向性に従順なんです。女性活躍とか。だから空気を読んで、とくに経団連の上の方の会社は積極的に上げていきます。

安田

でも「給料上げろ」って安倍さんの頃からずっと言われてましたよ。にも関わらず上げなかったじゃないですか。それがここに来て一斉に。

久野

直接の引き金は物価ですね。

安田

物価ですか。

久野

はい。物価連動です。

安田

大手の社員なんて、物価が上がっても食っていけるじゃないですか。

久野

それは経営者の論理であって、従業員の論理ではないです。

安田

確かに。子ども手当の年収制限も大ブーイングですもんね。

久野

年収が800万を超えたからって、いきなり生活が楽になるわけじゃない。

安田

ですよね。じゃあユニクロの影響というわけでもない。

久野

いや、ユニクロの影響はかなり大きいんじゃないですか。大企業は優秀な人材を採ることにコミットしてるので。若い人の給与や初任給にはすごく影響してると思う。

安田

やっぱりユニクロ効果ですか。

久野

上げないと「もう人材獲得競争に勝てない」という判断でしょう。物価で動いたって感じですけど、ユニクロに合わせにきてるというのが現状じゃないですか。

安田

どこまで上げるかの基準をユニクロが示しちゃったと。

久野

そこが基準になっちゃいますよね。あとは背中を押された感じでしょうか。できれば1日でも遅くやりたいんだけど、物価も上がって、ユニクロも来ちゃったから。

安田

もうやるしかないと。

久野

テレビやマスコミに取り上げてもらうってことも大事で。とにかく早くやった方が取り上げてもらいやすいので。

安田

どうせやるなら早いほうがいいと。

久野

出遅れてしまうと取り上げてもらえないので。やると決まってるんだったら、取り上げてもらえる方が広告効果は高い。

安田

10年前にやっておけば確実に取り上げられたと思うんですけど。いい人も集まったと思いますし。

久野

個別の対応だとマスコミはあまり取り上げてくれないです。今は物価が上がって、「給料を上げろ」という世論があって、取り上げられてる。

安田

初任給30万にしたら絶対に取り上げられたと思いますけど。やっぱり先に上げたくなかったんじゃないですか。

久野

もちろん、それもあると思います。先にやっちゃって、もし誰もやらなかったらリスクだけ負うわけで。

安田

「みんながやるぞ」となったら早い方がいいってことですね。

久野

日本の悪いところですけど。みんな横並び発想ですから。

安田

またいつもと同じパターンってことですか。

久野

サイバーエージェントみたいに昔から高いところもあるんです。だけど「ああいうところはちょっと放っとこうぜ」みたいな感じになってしまう。

安田

「変な会社だよね」みたいな。

久野

それで済んでたけど、もうそれでは済まなくなった。

安田

手堅い銀行まで上げ始めちゃうと、もう戻らないですよね。

久野

もう戻せないでしょう。

安田

初任給25万でも少ないぐらいになってきて。

久野

新卒を採ろうと思うなら、もう25〜30万のレンジじゃないですか。

安田

そうですよね。中小企業は最低28万ぐらい出さないと。

久野

「不人気料」みたいのを払わなきゃいけないので。

安田

でも新卒ってなかなか戦力にならないし。3年たってようやくペイするかと思うと辞めていくし。中小企業で新卒はもう採れないんじゃないかって気がします。

久野

余裕のある会社しか無理じゃないですか。

安田

初任給を28万円払って、3年間も給料を払いながら育てて、それで半分ぐらい辞めたとしてもペイする会社じゃないと。

久野

それぐらい余裕がないと無理でしょうね。

安田

そんな中小企業あるんですか。

久野

中にはありますよ。超優良な中小企業。

安田

ちなみに初任給は25〜30万ぐらいで落ち着くんですか。それとも更に上がっていくんでしょうか。

久野

物価の伸びによっては更に上がると思います。ただ恐ろしいのは、今はコストプッシュ型のインフレじゃないですか。

安田

そうですよね。企業の利益が増えてるわけでもない。

久野

本当に力のある会社だけがプライスを上げられる。物価が上がって、初任給も高くなって、追いついていけない会社はかなりきつくなります。

安田

元から利益が出ていた会社はいいですけどね。

久野

自分たちでプライスを決められる人たちは上げていけるんです。

安田

なるほど。

久野

業界の上の方ですよ。

安田

でも仕入れ価格はどんどん上がっていくし。

久野

10%〜15%ぐらい値段を上げないと給与が増やせないです。そのためには付加価値を上げていくしかない。

安田

大企業は仕入れ価格も上げてくれますか?「中小企業への支払いをもっと増やせ」って言われてますけど。

久野

下請けに出す金額ってことですか?

安田

はい。下請けにもっと高い金額で仕事を出す。ここにも大企業は応じていくんでしょうか。

久野

いや、そこまでしないでしょうね。多少は値上げを飲んでくれると思いますけど。その交渉も大変だと思います。

安田

単なる下請け企業はもう厳しいってことですよね。大手が上げてくれるのを待ってるようじゃ、もうダメだと。

久野

下請けによりますね。大企業も自分たちだけで作る機能を失っているので。車を見てもよく分かると思うんですけど、半導体がないとか。

安田

なるほど。

久野

強い下請けから「上げてくれ」って言われたら飲まざるを得ない。そういう強い企業になれているかどうかが試される時です。

安田

強いの定義は何ですか。売り上げ規模ですか。

久野

複数の販路があることと、独自の技術があること。あとは今の時代、量を作れることですね。「人がそろっている」というのもすごく大事です。

安田

量が作れて、クオリティーも高くて、技術もあるんだけど、1社に頼り切ってる会社はどうですか。

久野

8割ぐらい依存してるところって、ほぼグループ会社なんですよ。依存度が3割ぐらいのところが一番危ないです。

安田

そうなんですね。

久野

依存度が3割もあると「切られたらやばい」ってことが相手にも分かるし。特殊な技術でもない限り厳しいと思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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