第220回 会社員になりたい人たち

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第220回「会社員になりたい人たち」


安田

小学生男子のなりたい職業1位が会社員だそうです。

久野

見ました。ビビりましたね(笑)

安田

女子も3位が会社員。1位がパティシエで2位マンガ家。ところが中学生になると男女ともに1位が会社員。高校生も男女ともに1位が会社員。

久野

そもそも会社員って職業じゃないですから(笑)

安田

ですよね。マンガ家やパティシエは分かるんですけど。

久野

職業じゃなく雇用形態ですから。会社員って。

安田

医師や弁護士でも会社員の人っていますからね。

久野

そうなんです。

安田

小学生はともかく、高校生も「会社員」が職業だって思ってるんですかね。

久野

これ、どういうふうに聞いたんでしょう。

安田

聞き方が偏っているのかもしれませんね。

久野

1位が会社員で2位がプログラマーとか。もう、わけがわからない。

安田

どっちも会社員だろ!って(笑)

久野

ですよね。3位の公務員も会社員みたいなもんだし。

安田

もう洗脳なのか、あるいはユーチューバーに対するカウンターなのか。

久野

会社員といっても、いろんな会社があるし。

安田

「いい会社の会社員」ってことだと思いますよ。有名企業の会社員とか。

久野

なるほど。きっとこれ「大企業の会社員」なんでしょうね。

安田

そういうイメージです。

久野

ハードワークが嫌だってことでしょうね。うちの子どもが私の働き方を見て「もっと楽に働きたい」と言ってました(笑)

安田

経営者は嫌だと(笑)

久野

「大変そうだ」って。

安田

悲しいですね、お父さん。

久野

でも、会社員も結構大変ですよ。悠々自適な窓際族なんて、なかなかなれないです。これからの時代はとくに。

安田

ですよね。なぜ会社員がこんなに大人気なのか。

久野

2位以下はどんな仕事でしたっけ?

安田

1位が会社員、2位が公務員、3位がプログラマー、4位が教師、5位が学者・研究者。会社員と公務員を除くと全部スペシャリストですね。

久野

確かにそうですね。

安田

これってジョブ型の会社員になりたいってことですか?

久野

いや反対じゃないですか。大手のゼネラリストになりたいのかも。

安田

パートナーシップ型のいわゆる終身雇用の会社員になりたいと。

久野

私が小学校のときは、夢を聞かれたらジョブを答えないとだめでしたけど。

安田

普通はジョブを答えますよね。なぜ会社員なのか。

久野

仕事はなんでもいいんだけど、「大手のちゃんとした会社で処遇のいいところ」ってことでしょうね。

安田

ジョブ型に対するカウンターでしょうか。

久野

ジョブ型とか専門職とかフリーランスに対するカウンター。

安田

なるほど。

久野

「ひとつの追求より何でもやる」「その方が安定してる」ってことでしょう。

安田

つまり「雇われゼネラリストになりたい」ってことですね。

久野

そのまとめ方が正しいかどうかは分かりませんけど(笑)

安田

小学生がなりたい1位が「雇われゼネラリスト」って、ちょっと虚しい。

久野

僕らの頃は、無理だとわかっていても「プロ野球選手」と書いておく雰囲気があって。

安田

ありましたね。そんな雰囲気が。「お金持ち」とか。

久野

そんな人はいなかったです(笑)

安田

いなかったですか?「なりたい職業 お金持ち」って人。

久野

いなかったですよ。サッカー選手と野球選手の争いでしたね。「公務員」って書く小学生もいなかった。

安田

親が子供に言うんでしょうね。「公務員になれ」って。

久野

先が見えない時代ですから。

安田

公務員だって先が見えないですよ。

久野

会社員よりは安定してるイメージなんでしょうね。

安田

だけど1位は会社員ですから。

久野

やっぱり大手の会社員は安泰だって感じるんでしょう。

安田

公務員よりも?

久野

大手は今どんどん給与を上げてきてますから。公務員だとそんなに増えないし。

安田

中小企業との差がますます開いていきそうですね。

久野

中小企業なんて全くイメージしていないと思います。

安田

トヨタやソニーぐらいしか知らないかも。

久野

小中学生は大手しか知らないと思いますよ。

安田

だったら「トヨタの正社員」と書いてほしいです。その方がわかりやすい。

久野

なりたい職業1位がトヨタの社員ってことですか?それはないでしょう(笑)

安田

いや、実際そうかもしれませんよ。なりたいのはトヨタの正社員。

久野

そうかもしれないですね。

安田

トヨタは「会社員になりたい」というような安定思考の人を欲しがってませんけど。

久野

欲しくないでしょうね。

安田

チャレンジ思考の人とか、専門性を追求したいスペシャリストが欲しいわけで。

久野

そうですね。たぶん教育現場と企業の現場でズレがあるんでしょうね。

安田

ズレてますよ。教育現場では「会社員になりたい」という人を育てている。だけど企業の現場ではもう欲しがっていない。

久野

かつての教育としては大成功しているわけですよ。「エリート会社員になりたい」って人が増えて。

安田

それって大成功なんですか?

久野

昔はそれで大成功だったんでしょう。企業もイエスマンが欲しかったから。

安田

そうか。企業だけが変わっちゃったわけですね。

久野

そう。ゴールが動いてしまった。

安田

だけど教育現場はそこに気がついてない。

久野

教育の仕組みを考える人が昔と同じ思考なんでしょう。このままだと本当にマズいです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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