第224回 なぜ社保は上げやすいのか

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第224回「なぜ社保は上げやすいのか」


安田

雇用保険が上がる?またですか!

久野

もう上がってますね。2023年4月から。

安田

毎年上がってませんか?この前上がったばかりって感じですけど。

久野

上がらない年もあります。

安田

ほぼ上がる?

久野

そうですね。前回10月に上がって、また4月に上がってますから。

安田

値上げって誰が決めるんですか?

久野

社会保険、雇用保険の保険料は、政府が決めるんです。

安田

新型コロナウイルスで雇用調整助成金をいっぱい支出したので、「お金が足りなくなった」って書いてあります。これは本当でしょうか。

久野

それだけじゃないですけど。大きな理由のひとつではありますね。

安田

勝手に政府が配っておきながら、「財源がなかったので徴収します」ってひどい話ですよ。こんなの助成金になってないじゃないですか。

久野

出産の給付とか、子ども手当とかも、ふわっと「社会保険で対応します」みたいな言い方をしますね。

安田

「社会保険で対応します」って言われると、今払ってる社会保険で対応してくれそうな気がするんですけど。

久野

違うと思います(笑)

安田

違うんですね。じゃあ増税するって言えばいいのに。

久野

この国は不思議なんです。増税に対してはめちゃくちゃ厳しいけど、社会保険に関してはやりやすいんです。だから政府の一存で決めちゃえる。

安田

決めちゃえるって(笑)でも確かに不思議ですね。会社が半分負担してるから分かりにくいんですかね。

久野

分かりにくいし、上手なのは毎年定例で変える仕組みになっていること。

安田

そんな仕組みになってるんですか!恐ろしい。全部ひっくるめて税金にしてくれた方がよほど分かりやすいですよ。

久野

そうですね。個人的には1本化してもいいと思いますけど。

安田

1本化したら高いことがバレちゃうから。

久野

そういう側面もあるでしょうね。あとは縦割りにして「誰がどの管轄だ」っていう責任を持たせる側面もありますし。財源の問題があるので。

安田

社会保険料が上がっても怒らないのは気が付いてないからですか。

久野

気付いてるはずなんですけど。不思議ですよね。

安田

給料から天引きだから気付かないとか。

久野

徴税の歴史では「源泉徴収が大発明」ってことになってます。「源泉徴収を考えたやつは天才だ」ってすごく褒め称えられてます。

安田

米俵を納めにいくと、ものすごく損した気がしますもんね。だけど「米がこれだけしか取れませんでした」ってなると、しょうがないねって思っちゃう。

久野

そうなんですよ。だから源泉徴収はすごいと言われるわけです。

安田

国から見ると会社ってすごく優秀な徴収マシーンなんでしょうね。

久野

そう思います。

安田

だから会社員を増やしたいんでしょうか。日本はシステム的に増やそうとしてるじゃないですか。それって徴税がやりやすいからですか。

久野

会社単位で徴収した方が徴収効率は上がりますから。

安田

そりゃそうですよね。徴収にお金もかからないし。会社が天引してまとめて払ってくれるわけですもんね。

久野

雇用を増やしたいっていうのは明確でしょう。年金の財源は厚生年金ですので。正直にいうと国はあまり個人事業主を好きじゃないと思います。

安田

でも、いよいよ個人事業主も消費税を納めなくちゃいけないみたいで。そもそも消費税を受け取ってるのに払ってない人がこんなにいたんだって、驚きですけど。

久野

免税事業者ですね。

安田

払わないんだったら、取らないでくれよって思います。

久野

あれで生活してる人がいるんですよ。10%って大きいですから。

安田

それで生活するっておかしいでしょう。

久野

本来はおかしいんですけど。

安田

ちなみに社会保険はまだまだ上がっていくんですか。

久野

健康保険に関しては間違いなく上がってくでしょう。あとは厚生年金ですね。普通に考えたら高齢化で医療費がどんどん上がり、少子化で年金が上がります。

安田

お先真っ暗ですね。

久野

高齢化によって医療費が上がるのは避けられないです。

安田

おじいちゃん、おばあちゃん、もうちょっと自分で払ってほしいですけど。

久野

私は厚生年金に関してはあまり否定的じゃないんです。厚生年金は保険なので、亡くなったときとか、障害には強いんですよ。

安田

無駄なのは健康保険ですか。

久野

無駄ではないですけど健康保険は大変だと思います。医療をそんなに受けてない人もいる一方で無駄に受けてる人もいるし。

安田

私なんて明らかに赤字ですよ。病院に行く時に満額払った方が絶対に安い。そんなに行かないですもん、病院なんて。

久野

工夫の余地はあるんじゃないかと思いますね。健康保険に関しては。

安田

労働人口が減って老人が増えていくと、どこかで破綻すんじゃないですか。

久野

国民の負担的に限界がくると思います。

安田

ですよね。給料の7〜8割も税金と社保で取られたら生きていけないですよ。

久野

50%を超えると厳しいでしょうね。

安田

年収1億の50%ならいいですけど。400万で50%取られたら手取り200万ですよ。

久野

やっぱり所得を増やすしかないですね。

安田

それで賄えますか?

久野

所得が増えたら結果的に消費税も増える。所得が増えれば保険料を上げなくても保険額も増える。

安田

所得が増えたら年金支給額も増える仕組みじゃなかったですか? 

久野

本来は賃金ベースに合わせて年金も上げていく仕組みです。だけどそこは今ちょっと抑えてます。

安田

そりゃそうでしょうね。これ以上年金を払ったら若者が暴動を起こしますよ。

久野

とにかく、まずは国民の給与を増やすこと。ここさえ増えてくれれば国家財政は回っていくと思います。

安田

どうやって増やすかですよね。

久野

経営者はそこを考えなくちゃいけない。それから国民も70歳までは働く覚悟をしなくちゃいけない。

安田

私も頑張って70歳まで働きます(笑)

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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