第249回 ヤマトから見る宅配便の未来

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第249回「ヤマトから見る宅配便の未来」


安田

ヤマトが配達の業務委託3万人との契約を終了するそうです。

久野

はい。今後は郵政に仕事を振っていくみたいです。

安田

つまり外注するってことですか?

久野

そうですね。多分インボイスの問題もあると思います。個人の管理が煩雑になっていくので郵政に出そうって話だと思います。

安田

郵政も状況は同じじゃないですか。業務委託の人と契約してますよね。

久野

そうですね。つまりヤマトは「管理しない」という決断をしたんでしょう。「人を大事にするヤマトが人を大事にしていない」ってネットで叩かれてます。

安田

ヤマトって人を大事にする会社なんですか?

久野

そう思っている人が多いみたいですね。ネットにはそう書かれてましたから。

安田

ヤマトの業務委託って、本当は社員になりたいけどなれない人たちなんですか。

久野

そういう人もいると思います。だから問題になるわけです。個人事業主の「身売り」と言われてますから。

安田

今回の3万人のうち、インボイスに登録してちゃんと消費税を払ってた人ってどれくらいいるんでしょう。

久野

売上1000万円以下の人は払っていないはずなので、ほとんど払ってないと思います。

安田

なるほど。そういう人たちが今後、日本郵政と契約することになるわけですか。

久野

おそらくそうなるでしょうね。郵政も人は絶対に足りないはずなので。

安田

つまりヤマトは3万人の管理を郵政に丸投げしたいってことですよね。

久野

2024年問題があって、労働時間の上限規制が厳しくなるわけです。個人事業主が休むと社員が動かなくちゃいけない。そこも考えた上での結論でしょうね。

安田

ユーザーもヤマトから日本郵政に乗り換えるんでしょうか。

久野

いや。たぶんヤマトの利便性には勝てないと思います。

安田

ヤマトの利便性って「人によって成り立っているサービス」ですよね。

久野

そうですね。

安田

だったら今までのような利便性は維持できないのでは?

久野

それも含めての合理化だと思います。一部の業務は捨てるんでしょうね。

安田

今後は儲かる仕事だけに集中していくと。

久野

ヤマトはロジスティクスが優れていて、顧客の発注管理も請け負ってるんです。なので、そういう付加価値の高い業務に集中していくんでしょう。

安田

個人宅にヤマトが届ける仕事は激減するかもしれないってことですか。

久野

あり得ますね。

安田

即日配達とかもなくなっていくんでしょうか。

久野

そうなる可能性はあると思います。少なくとも料金が上がっていくでしょうね。

安田

宅配便から撤退していくってことですか。

久野

撤退はしないと思います。ただ個人の荷物に軸足は置かないでしょうね。倉庫を抱えている企業のほうが大きなお金が動くので。そこに注力していくんじゃないですか。

安田

業務委託で受けている個人はどうなっていくんでしょう。

久野

値上げするしかないでしょうね。再配達料を取ったり翌日配送はプラス料金にしたり。ただ個人より企業のほうが値上げ交渉はしやすいので。だからそこを切り離したのかなと。

安田

ヤマトはAmazonにも値上げを要求するんでしょうか。

久野

実際ヤマトはAmazonに値上げ要求したことがあって、一度それで喧嘩したんです。

安田

Amazonが「じゃあ自分で配る」ってなりませんでした?

久野

自分で配るって言ったんだけど配れなくて。アメリカと違ってお客さんの要望がすごすぎて。何時に届けるとか。それでヤマトに戻ってるんです。

安田

そうなんですね。じゃあヤマト頼み。

久野

もう1回チャレンジするみたいです。個人事業主を集めまくって「脱ヤマト」に向かってます。でも無理だと思います。日本人ユーザーは安くて至れり尽くせりに慣れちゃってるので。

安田

再配達でもドライバーに電話したらすぐに持ってきてくれますから。

久野

アメリカだったら玄関に置いて帰っちゃうじゃないですか。荷物も投げられたりするし。日本人は絶対そんなことしないし、中身が腐りそうかとか全部判断してやってくれる。

安田

「クール便なので早めにお取りくださいね」とか言ってくれますもんね。

久野

はい。だけどどこかで崩壊すると思います。ユーザーが値上げを許容しない限り、構造的にもう無理なんですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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