第34回 議員の定年制が、社会を世代交代させる

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第34回 議員の定年制が、社会を世代交代させる

安田
我々も「老害」と言われる年齢になってきました。鈴木さんは、老害ってどういうイメージをお持ちですか。

鈴木
そうですねぇ…。今パッと思いついたのは「長く社長をやり続けること」ですかね。
安田
なるほど(笑)。私は他にも、なかなか免許返納しないで事故を起こす人とか、居眠りばっかりしている80歳過ぎの政治家とかが思い浮かびます。

鈴木
あぁ、わかります(笑)。
安田
最近はもう、「自分はまだ若い」と思っている人は全員老害なんじゃないかと思うようになりました。

鈴木
そうなると、世の中老害だらけだということになりそうだ(笑)。
安田
笑。突然話は変わりますが、氷河期に恐竜が絶滅しましたよね。一方で哺乳類は生き残った。その理由って何だと思いますか?

鈴木
え、なんでしょう。恐竜は寒さに適応できなかったからとか? 哺乳類の方が適応力が高かった。
安田
そう、環境に適応できなかったんです。それは恐竜の寿命がものすごく長くて、なかなか進化しなかったからだと言われています。反対に、当時の哺乳類は平均寿命が短くどんどん世代交代していた。だから進化、つまり環境への適応が早かったそうです。

鈴木
一世代が早く死ぬことで、適応スピードが上がるというわけですか。へぇ、面白いなぁ。
安田
いま、人間も寿命がどんどん延びていますよね。つまり恐竜のように、なかなか進化しない種になりつつある。結果、人間の作る社会自体も進化が止まってしまうのではないかと。

鈴木
あぁ、わかってきました。なかなか死なない老人たちが、自分たちにとって居心地の良い社会を作って、しかもそれを維持し続けている。それが社会の進化を妨げていると仰るわけですね。
安田
仰る通りです。最近ではテレビでも、昭和から平成に流行った懐メロを振り返る番組が、毎週のように放送されているんです。

鈴木
なるほど。それもまた「老人たちに居心地のいい社会」のあり方ってことですね。
安田
ええ。「若者のテレビ離れ」なんて言葉をよく聞きますが、当然ですよ。老人たち向けの番組しか流れていないんですから。そういうことも含めて世代交代できていないのが、今の日本に閉塞感をもたらしている一番の理由なんだろうと思うわけです。

鈴木
なるほどなぁ。
安田
特に社長や政治家など、いわゆる権力者の人たちは、自分の意思でいつまでもそのポジションに居続けられちゃいますよね。

鈴木
確かにそうですね。スポーツ選手だったら「体力の限界がきて引退」という、わかりやすいタイミングがありますけれど。
安田
ええ。でも政治家はいつまでも政治家でいることができる。なぜかというと、選挙があるからです。

鈴木
ああ、なるほど。それこそ「若者の選挙離れ」が進む今では、選挙に注目するのは老人ばかりですもんね。
安田
まさにそこです。真面目に選挙に行って投票するのって、老人だけなんですよ。で、彼らは当然、「自分たちにとって理想的な政策」を掲げてくれる人に票を入れる。結果、老人が老人候補を当選させてしまう。

鈴木
まさに老人帝国ですね(笑)。最近は若い人の立候補も増えていますけど、彼らだって当選するためには老人向けの政策を打たないといけないわけで。
安田
そうなんですよ。若い候補者が「明るい未来のため、老人は姥捨て山に捨てます」なんて言ったら、絶対に当選できませんから(笑)。

鈴木
本音ではそう考えていたとしても、絶対言えませんよ。落選しちゃうから(笑)。
安田
笑。そういうどうしようもない状況を変えるため、50歳を過ぎたら1人あたりの投票力を下げるのはどうかと思うんです。50歳までは1人1票というカウント。でもそれ以降は徐々に0.9票、0.8票と下がっていき、60歳以降は0.1票としかカウントしないんです。

鈴木
ああ、60歳以降は10人集まってようやく1票分としてカウントされるわけですね。おもしろいアイデアですが、めちゃくちゃブーイングが出そうですね(笑)。
安田
でしょうねぇ(笑)。でも日本の若返りを狙うならば、これくらいの荒治療をしないと無理ですよ。上の世代が引退してくれないなら、半ば強制的にどいていただかないと。

鈴木
確かに自分から退任を決める人って、そう多くないですもんね。
安田
そうなんです。でも極端な話、「自分が死なないと孫が生まれない」という仕組みだったとしたらどうでしょう。きっと「自分がいたら孫が生まれないならさっさと逝くか」ってなると思いません?

鈴木
う〜ん、じゃあ上の世代の人は早く死ななきゃいけないということですか(笑)。
安田
まぁ、これはある種の例えで。生物学的に死ぬ必要はないけれど、社会的に死ぬ、つまり下の世代にポジションを譲るということは大事だと思います。先ほどの投票力の話で言えば、政治的に死ぬ、ということですね。

鈴木
なるほど。私なんかはもっとシンプルに、会社にも定年制があるんだから、政治家も60歳で定年にすればいいと思っちゃいますけどね。会社員は定年後に再雇用されたら給料が下がる。だから「定年後も政治家でいるなら給料は10分の1になります」と言えば、意外とみんなすぐ辞めるかも(笑)。
安田
それもいいですね(笑)。でも悲しいかな、それを決めるのもお年寄りなんですよねぇ。だから結局は何も変わらない。誰だって自分に不利になるような仕組みにはしたくないですから。

鈴木
確かに。自分で自分の首を絞めるようなことはしないでしょうね(笑)。
安田
それでもやっぱり政治家も社長も株主も、全部ひっくるめて定年制を作るべきですよ。そうしないと日本の先行きは真っ暗になってしまう。

鈴木
そうですね。いつまでも権力や地位にしがみついてもしょうがないですよ。私も60歳になったら社長から退くつもりですし。
安田
まぁこういうことをやると「まるで姥捨て山だ」「私たち老人を殺す気か」とか言われそうですが(笑)。ただ我々も捨てられる方の立場になってきたんで、こういう主張を言いやすくなりましたね(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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