育休中に手取りを100%保証する制度になると。前におっしゃっていた話ですよね。
はい。イオンがそれを先取りして自主的にやり始めるみたいです。
自主的にやり始める?
そう、これはすごいですよ。1歳まで手取りを100%保証するんです。
イオンが100%払うってことですか?
いえ。現在の育休制度との差額分だけですね。
今の制度だと66%の手取り保証でしたっけ?
67%ですね。それが半年経つと50%になります。だけど会社が負担すると全部止まっちゃうんですよ。
え?全部止まっちゃうって、どういうことですか?
制度上、同じタイミングで払うと減額されちゃうんです。
なぜ減額されちゃうんですか?
これは国の制度で、会社が負担するんだったら「社会保障いらないよね」ってことで。
めちゃくちゃですね(笑)つまり100か0かだと。
はい。だから同じタイミングで払わないで、育休が終わった後に「実質の差額分」を精算するスタイル。
なるほど。まず社会保障分を受け取っておいて、100%に届かない分を「後から会社が補填します」っていう。それはOKなんですか。
「法律の抜け穴じゃないか」という気もします。
ですよね。でも国としては育休を応援する立場だから。
だから黙認でしょうね。これは他の大手も追随せざるを得ないでしょう。
イオンは何が狙いなんですか。やっぱり採用力ですか。
採用ですね。
でも1年も休ませたら大変ですよ。それでなくても人不足なのに。
短期的にはしんどいけど長期戦略でやってるんだと思います。イオンは昨年末に従業員40万人の賃金を7%引き上げてますから。
すごい投資ですね。
「労働条件をどんどんよくしていくよ」っていう。他の小売で働くなら「絶対イオンの方がいいよね」となるように。小売業って人気はあるけど労働条件が伴わない職場が多いので。
同じ小売業界からどんどん人を引っ張ってこようと。
そういう施策なのだと思います。これだけメディアが取り上げると宣伝効果もすごいから。すごく上手だと思いますね。
後から追随するなら先にやった方がいいと。
追跡してもメディアは取り上げない。最初に大きくやるという決断がすごいですよ。
無料でブランディングできるわけですからね。
はい。無料で全国に「いい会社だ」と宣伝してもらえる。
すしざんまいの「正月のマグロの競り」と一緒ですね。
メディアの使い方が上手いです。どうせやらなきゃいけないんだから「1年前倒しでやる」と決断して。
他の大手小売業者もイオンに追随せざるを得ないですか。
やると思いますね。現場は慢性的な人不足なので。「資本の力でどんどん差をつけていこう」という傾向になってます。生産性の高い会社はどんどん投資していきますよ。
中小の小売業はどうなっていくんでしょうか。
この流れに「ついていく」と決めるか、もう諦めるか。大変な時代になっていきます。
小売や接客業ってほとんど中小だと思うんですけど。
資本の力で「そこから人材を吸い上げよう」ということですね。
他業界から引っ張るのは難しいので「小さな同業者から引き抜こう」と。これは確かに大変なことになりそうですね。
それでなくても人不足な業界なので。めちゃくちゃ影響しますよ。恐ろしいです。
久野さんだったら中小の事業者にどうアドバイスしますか?
勝負に行くか独自の路線で工夫するか。それしかないでしょうね。それそこ安田さんみたいな人に独自化をサポートしてもらうとか。
規模にもよりますけどね。小さな個人店は確かに独自路線で行ける可能性はあります。
そう。いちばん大変なのは100人、200人の会社なんです。中途半端なサイズのところが最も危険な立ち位置に来てます。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。