第47回 「オンリーワン」を見つけられれば、全て解決

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第47回 「オンリーワン」を見つけられれば、全て解決

安田
これまでに鈴木さんがやられている『相続不動産テラス』についていろいろお聞きしてきましたが、最近ますます「空き家と求人は似ているな」と思うようになったんです。

鈴木
先日のメルマガにもそんなことを書かれていましたね。「空き家も求人も解決方法は同じなんじゃないか」って。
安田
ええ。増え続ける空き家問題を解決したいなら「新築の数を規制する」とか「外国から人を連れてきて安く住まわせる」。若い労働者が不足していることに対しては、「出生率を上げる」とか「外国人労働者を受け入れる」とかしか方法がないと思うんですよ。

鈴木
なるほど。国内にある全体の数を調整するか、国外から受け入れることで不足分を補うのか。そう考えると確かに状況は似ていますね。
安田
ええ。だけど目の前のこの「1軒の空き家」「1つの求人」だけを解決しようとするならば「そこに住みたい」「その仕事をしたい」という「たった1人」を見つけることさえできれば良いわけです。

鈴木
確かに空き家も求人も、基本的には1人分のポジションしか受け入れられないですもんね。
安田
そういうことです。以前、すごく田舎の物件に都心部から3組も内見希望者が来て、最終的には売却できたというお話をされていましたよね。あれこそまさに「たった1人、気に入ってくれた人がいた」という好例だと思います。

鈴木
僕ら地元の人間からしたら何の面白みもないような景色と物件で、これは絶対売れないぞと思っていたのに、都会の人には魅力的に思われていたみたいっていう話ですよね(笑)。
安田
そうそう(笑)。実は求人の世界でも、「業界経験者の人はやりたがらない仕事」なんだけど、業界未経験者にとっては「こういう仕事がやりたかったんです!」っていうこと、よくあるんですよ。

鈴木
へぇ。中にいる人間には普通すぎて気づかないようなことが、外から見ると良く見えるんですかね。確かにウチが新卒採用をした時も、結構な学生さんが興味を持ってくれていました。美濃加茂市にあるイチ葬儀屋のどこに惹かれたのかな(笑)。
安田
中には他府県からわざわざ引越ししてまで『のうひ葬祭』さんに入社される方もいるわけですよね。

鈴木
そうなんですよ。決して人気の業界でもないし、アクセスの良い都心部にあるわけでもない。給料だってものすごく高いわけでもないのに(笑)、それでもありがたいことにウチを選んでくれる方がいらっしゃる。
安田
鈴木さんは1人ひとりに合わせて丁寧なスカウトメール送られていると仰っていましたが、きっと学生さんも、中で働いている人の様子が想像しやすくて「この人となら働きたい」って思ってくれるのかもしれないですね。

鈴木
業種や給料は、二の次三の次ってことなんですかね。
安田
それが全てではないということでしょうね。それは空き家の買い手探しも同じだと思うんです。1軒1軒の特徴を「たった1人のターゲット」にいかに詳しく伝えられるかが大事なのではないかと。

鈴木

確かに行政の「空き家バンク」のサイトをいろいろ見ていると、空き家がうまく動かせている行政のところは、家の説明がうまく書かれているんですよ。

安田
やっぱりそうですか!

鈴木
はい。八百津町の空き家バンクなんかは、見出しに「細い坂道を上ったところにある眺めのいい家」とかって書いてあるんです(笑)。
安田
いいですねぇ。まさにそれです。そういう具体的な情報がある方が、ターゲットになり得る人にうまくアプローチできるんですよ。逆に「誰が見ても良いと思われる条件」を並べてしまうと失敗しがちです(笑)。

鈴木
へぇ。紹介する側としては、たくさんの人に受け入れてもらえるように、メリットをたくさん詰め込んで書きたくなりそうなものですけど…ダメですか(笑)。
安田
ダメですね(笑)。給料が高いとか休みが多いとか先輩が優しいとか社長と距離が近いとか。そんなの誰でも書けるから、みんな同じような求人情報になってしまって、その他大勢の求人に埋もれてしまう。

鈴木
あぁ…確かに(笑)。
安田
空き家も同じですよ。「きれいな家」だとか「駅から近い」とか「庭がある」とか。そういうありふれた情報はいらない。それよりも、10人中9人はなんとも思わないであろう内容だけど「たった1人にはものすごく響くこと」を書くべきなんです。

鈴木
なるほど。例えば「広大な敷地内には納屋もある」という情報だったら、大半の人は「そんなのいらんわ」と思うかもしれないけど、「DIYが大好きで道具をいっぱい収納したかった!」という人には超魅力的な情報ですね(笑)。
安田
まさにそういうことです。で、「たった1人にとっての魅力的な情報」というのは、往々にして「これってデメリットになるんじゃないの?」といった賛否がわかれる情報だと思います。でもそれを判断するのは、読み手が決めることなので。

鈴木
そう考えると、行政の空き家サイトの運営にも僕らが介入させてもらって、家の紹介を詳しく書いたりもっと様子が伝わる写真をたくさん載せたりすれば、空き家もどんどん動かせるかもしれないですね。やってみようかなぁ!
安田
ぜひやってみてください! あと、空き家問題の解決に向けてもう1つ言うならば、空き家を手放すタイミングをもう少し早めることを推奨してもいいかもしれないとも思っていて。

鈴木
ほぉ。手放すタイミングによって、もっと早く買い手がつくかもしれないということですか?
安田
そうですそうです。以前のお話だと、固定資産税の通知が来たタイミングでようやく空き家を手放す方が多いということでしたよね。でもあえてそこまで待たないんです。

鈴木
え、それはまだ完全に手放す決心がつく前から売りに出した方がいいということですか?
安田
はい。相続した空き家ってほとんどが実家だと思うんです。そうすると自分も住んでいたからこそわかる、その家の「ストーリー」みたいなものがあるじゃないですか。その記憶が色褪せてしまう前に、わかりやすく文章にして発信してあげるんです。

鈴木
なるほど。ボロボロに朽ちて、もうこんな家、いらないとなってから売るのではなく、まだ愛着がたくさん残っているうちに…ってことですね。
安田
ええ。しかもそういう時のほうが、その家にピッタリな住人も見つかりやすい気がするんです。「これは孫が初めて壁に描いた落書きの跡です」とか「子どもの頃に兄弟で背比べした時の柱の傷です」とか、そういう説明があると途端にその空き家に親近感がわきませんか?

鈴木
いいですねぇ。そういう視点はなかったです。なんだか空き家販売の良いヒントをいただいた感じがします。
安田
それは良かったです。私は求人の現場で「求人ポジションをオンリーワン化」していく仕事をしているので、それと同じことを空き家募集でやったら楽しいだろうなって思っているんです。なのでもし今後、そういう課題が出てきたら、ぜひ一緒に考えさせてください!

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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