第10回 サーベイをやるな。顔を見ろ。

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第10回 サーベイをやるな。顔を見ろ。

安田

以前藤原さん、いわゆる「サーベイ(従業員満足度調査)」はあまり役に立たない、むしろ使ってはいけない、と仰っていましたよね。


藤原

使ってはいけないとまでは言いませんが、参考程度にしかならないと思いますね。

安田

あれ? 「百害あって一利なし」って仰っていましたよ(笑)。


藤原

ああ、せっかくオブラートに包んでいるんですから、やめてください(笑)。少し補足するなら、何百人何千人と社員がいる大手企業ならやる意味はあると思います。基本的にサーベイって過去実績をもとに作られているものなので。

安田

ああ、確かに。要は統計ですもんね。だからそれを従業員10人20人の中小企業がやっても意味ないよ、と。


藤原

そうそう。むしろそれくらいの人数なら、サーベイなんて回りくどいことをせず、直接話せばいい。日々の仕事やコミュニケーションの中で、部下が何を求めているか、どんな意識を持って仕事をしているかは分かりますよね。

安田

ああ、そうか。大企業だと人数が多すぎてそういうことが把握できない。だからサーベイのような一斉テストをやって調べるしかないと。


藤原

そういうことです。だから少人数の会社なのにサーベイをやろうって、その発想をしている時点でダメだと思うんです。

安田

なるほど。そもそも人数が少ないと、誰がその意見を書いたのかバレちゃいそうですしね。それが社長に伝わって、結果改善されるならまだしも、「あいつは文句ばかり言う」みたいな印象を与えるだけなら意味がない。むしろデメリットしかないですもんね。


藤原

実際その通りです。だから社員さんも本音を書けない。本音が書けないサーベイに何の意味があるのかって話ですよ。

安田

確かにそうですね。忖度まみれの回答を見て、社長が「よしよし、うちは従業員満足度が高いな」なんて思ってしまったりしたら、それこそ「百害あって一利なし」ですね。


藤原

そう思います。そういう社長ほど、仮に社員さんが本音で意見をぶつけてくれても、まっすぐ向き合わなかったりする。「言っても無駄だな」と社員さんが思ったら、ますます本音は出づらくなる。悪循環ですよ。

安田

なるほど。とはいえですよ、経営の目線で言えば、なんでもかんでも従業員の意見に合わせるわけにもいかないじゃないですか。あるいは改善しようと思っても、ある程度の時間が必要だったり。


藤原

もちろんそうですよね。だから重要なのは、「改善すること」じゃないんですよね。そうではなくて、要望を出してくれた従業員としっかり向き合うことなんです。できないならできない理由を真摯に伝える。時間がかかるならそう言う。

安田

ああ、確かにそれは大切ですね。ちなみに、サーベイに向かない中小企業が、社員満足度を客観的に測る方法はあるんですか? 確か以前藤原さんは、「感性を研ぎ澄ますんだ」と仰っていましたけど(笑)、もう少し具体的に教えてほしいです。


藤原

わかりました(笑)。一つはワンオンワンと言われる個人面談ですね。これは今何に取り組んでいるのか、どんなことに苦労して、どんなことを頑張ったのか、などを話す場です。リアルタイムの話が聞けるので、半期に1回の評価面談などよりずっと解像度の高い、かつ本音に近い話が聞ける。

安田

なるほど。一定期間の数字を見て機械的に評価していくわけじゃなくて、人と人として面と向かって話を聞くことが大切だと。とはいえ、最近はリモート勤務の人も多くなったでしょうし、なかなか難しい場合もありそうですけど。


藤原

オンラインでのワンオンワンでも一定の効果はあると思いますよ。ただむしろ、リモート勤務が増えた現代だからこそ、たまの出勤日にはやっぱり生身の話をしてほしい。

安田

そうですね。オンラインだと気付かないことも多々あるでしょうし。夫婦関係に例えれば、奥さんが髪を切っても気づかないみたいな(笑)。


藤原

まさにそういうことで(笑)。面と向かって話した方がまだ気づきやすいですから。それでいうと、うちは手渡しで給与明細を渡しているんですよね。

安田

えっ、給与が手渡しなんですか?


藤原

あ、いえいえ、給与自体は銀行振り込みなんですが、給料袋に明細と、それからちょっとしたメッセージを書いた一筆箋を入れて渡しているんです。

安田

へえ! 一筆箋にはどんなことを書くんですか?


藤原

その人がいま取り組んでいる課題についてとか、案件についてとかですね。「あの件では頑張ってくれてたね」とか「今度あの件について詳しく教えてね」とか。

安田

ああ、いいですね。とはいえそれって、普段から観察していないとできないことですよね。


藤原

そうですね。逆に言えば、その程度のメッセージも書けないなら、その人をちゃんと見れてないってことですよ。

安田

なるほどなぁ。たとえば年賀状も、確かに手書きなんだけど明らかにテンプレートの文章の場合、多いですもんね(笑)。「この人、何も見ていないなぁ」「興味ないんだろうなぁ」ってバレバレというか。


藤原

はい。「私のことをこんなにも見てくれてるんだなぁ」と思ってくれるようなメッセージでなければ意味がないですから。

安田

ふと思いましたが、なんとなく新聞の読み方に似てますね。新聞って、取り始めてしばらくは何が書いてあるのかよくわからないんです。でも、読み続けていると「あ、これ先週書いてあった事件の続きだ」と繋がっていく。つまり、毎日見ていることで、深い部分までわかるようになっていく。


藤原

ああ、とてもいい例えですね。従業員との関係も、まさにそういうことだと思います。「今日はいい顔してるな」「あ、なんか失敗したのかな」というのは、毎日見てるから気づけるものですからね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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