さよなら採用ビジネス 第121回「浦島太郎になったのは誰?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第120回「レイヤーをあげる方法」

 第121回「浦島太郎になったのは誰?」 


安田

ワタミの事業って外食から宅食に移ってるらしいですね。

石塚

はい。収益のメインは完全に宅食ですね。

安田

これって、お弁当を介護施設に届ける事業ですよね。

石塚

介護施設だけじゃないです。自宅にも届けてくれます。

安田

配達してるのは社員じゃないみたいですよ。

石塚

お弁当を届けるのは基本的に個人事業主として契約してる人。

安田

1件配ると100円プラス地域手当で200円ぐらいの金額で。「最低賃金を割ってるんじゃないか」という議論もあるんですが。

石塚

ありますね(笑)

安田

ただ問題になったのはそこではなく、個人事業主を束ねていた社員さん。20〜30人が所属する営業所の管理を2つも任されてたみたいで。

石塚

はい。

安田

正社員はその人だけで、お弁当の手配から、宅配の管理から、クレーム処理まで。スタッフが休みのときには代わりに配達までして、とにかく重労働だと。

石塚

ものすごい重労働だと思います。

安田

家に帰っても仕事があり、土日も仕事ありで。「あのまま続けてたら死んでたんじゃないか」って記事に出てました。ワタミはホワイト企業になったはずですけど。

石塚

いや、何も変わってないと思います。

安田

何も変わってない?

石塚

はい。何も変わってないです。古くはアルバイト従業員の夜勤明け飲酒運転での死亡事故とか。たどっていくと90年代からいろんな労務の問題があるんですよ。

安田

でもホワイト企業大賞を取ったじゃないですか。

石塚

極論、モンドセレクションみたいに参加企業は取れる仕組みなので。僕の印象はもう昔から同じ。「遠目の富士山」の一語に尽きる。

安田

「近くで見たらゴミだらけ」ってことですね。

石塚

がれきの山ですね。

安田

国会議員をやってた渡邉さんも戻ってきました。「うちはそういう部分と決別して、ちゃんとやります」って宣言しましたよ。

石塚

宣言してましたね(笑)

安田

にもかかわらず、こういうことが起こってる。これは渡邉さんのあずかり知らぬところで起こってるのか。あるいは確信犯的に指示を出してやらせてるのか。

石塚

もともとの体質が抜けないってのがひとつ。外から見るワタミと中で働くワタミが、かなりギャップがあるってのが2つ。3つ目は会長のカリスマ性が強すぎるから、社員が忖度して本当のことが上にあがらない。

安田

ということは渡邉さんがブラック労働を強いているわけじゃなく、現場が忖度して「やっちゃってる」ってことですか?

石塚

そう思います。もともとが、社員に赤鉛筆を12本1ケースずつ配って「今日やることをぜんぶ手帳に書け」って会社ですから。あそこは社長が手帳派だから。

安田

懐かしいですね。「夢に日付を!」って流行りましたよね。

石塚

当時は手帳も売ってました。社員はまだ全員その手帳を持ってるはずです。

安田

そこに夢を書くんですか?

石塚

今日やることを書くわけですよ。で「終わったら赤鉛筆で消せ。ぜんぶ消すまで帰るな」っていうのが新入社員のときからの刷り込み。

安田

なんと!でも「そういうカルチャーとは決別してホワイト企業になります」って宣言したわけですよね。

石塚

はい。

安田

あれだけカリスマ性のある会長が宣言したんですから。鶴の一声で「これからワタミは変わるぞ」ってなりませんか。

石塚

たぶん、かつての「経営と社員の関係」が変わってしまったことを、創業者はわかってないんでしょう。

安田

どう変わったんですか?

石塚

社員は何でも理解してくれると思ってるんですよ。今でも。

安田

社員から訴えられるとは思ってなかったってことですか?

石塚

思ってないでしょうね。

安田

じゃあ現場でブラックなことをやってる事実はわかってた?

石塚

本人は感覚が飛び超えてますから。そもそもブラックという概念がないと思います。政治やってて現場を離れてた時間も長いし。

安田

だけどこれって牛丼のワンオペよりひどいですよ。土日に「電話を切りたい」って言ったら「うちはお客さん第一なんだ!」って上司に怒られたとか。

石塚

だから変わってないんですよ。昔から。

安田

タイムカードも勝手に改竄されて固定で26万円しか払ってないし。

石塚

そういうビジネスモデルなんですよ。

安田

つまり、労働者から搾取しないと利益が出ない体質ってことですか?ワタミは。

石塚

そのとおりです。

安田

え!そうなんですか。

石塚

だって収益の高い事業なんてひとつもないでしょ。

安田

宅食はコロナで業績が伸びてるらしいですけど。それも社員の犠牲の上に成り立ってる利益ですか?

石塚

だってこれ、労基が入ってるので言い訳しようがないですよ。

安田

今回の訴えに関してはそうですね。

石塚

社員に滅私奉公を強いるのが当たり前なんですよ。長年そうやって育ててきたし、それで育ってきた社員ばかりだから。急に変えろって言われても、なかなか体質は変わらない。

安田

もし仮に、そこが変わったとしたらですよ。滅私奉公がなくなって、きちんと労働時間を計って、ちゃんと給料も払うとなったら、利益は出ないんですか?

石塚

出ないでしょうね。売上から経費を引いたら、最終利益はプラマイゼロみたいな。若干マイナスじゃないですかね。

安田

ほんとうに「滅私奉公=利益」で成り立ってる会社なんですね。

石塚

いい言い方をすれば「社員の頑張り」で儲けが出てた会社。

安田

いまの時代には生き残れないですよ。労働法を守ってやったら。

石塚

あらゆる部分でこの会社は古いです。

安田

あらゆる部分で?

石塚

人に対する考え方も旧い、採用も旧い、事業も旧い、お店も旧い、メニューも旧い・・・って、もうぜんぶ旧い。

安田

「滅私奉公=利益」という事実を、渡邉会長は自覚してるんでしょうか?

石塚

もちろん自覚してると思います。

安田

ということは確信犯じゃないですか。

石塚

たぶん渡邉さんはもう事業も経営も分からないんだと思う。

安田

あんなに凄い経営者なのに?

石塚

分からなくなっちゃったんですよ。

安田

なぜ分からない人を経営に戻したんですか?

石塚

株は自分で持ってるし。自由に戻れますから。

安田

なるほど。周りも大変ですね。

石塚

なまじ過去の成功体験があるから。「なんだかんだいっても、社員が少し頑張ればすぐ戻る」ぐらいに考えてると思う。

安田

それって、つまり「社員が滅私奉公すれば」戻るってことですよね。

石塚

じっさい今回の店長も365日・24時間体制で働いてましたから。何も変わってないってことですよ。

安田

「社員のやる気」という方向に、また梶を切っちゃったと。

石塚

変化が激しい時代に6年も永田町に行ってたから。浦島太郎になっちゃったんです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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