第104回 人生で味わえる「感動の総量」は決まっている?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第104回 人生で味わえる「感動の総量」は決まっている?

安田

「人生で心臓が動く回数は決まっている」っていう話、聞いたことあります? あんまりたくさん激しい運動すると早く死んじゃうみたいな。


スギタ

ありますあります。動物の種類によって心拍数が何万回とか決まっているっていう話ですよね。

安田

そうそう。それと同じで、人生で味わえる「感動の総量」も決まってるんじゃないのかなって最近思ったんです。


スギタ

へぇ、また面白いことを考えますね。具体的にはどういうことなんですか?

安田

例えばたまにすごく美味しいお寿司を食べに行くと感動するじゃないですか。でも毎日毎日同じことしてるとだんだん感動しなくなる。


スギタ

確かにそれが日常になってしまうと、毎回感動はしませんよね。僕はそれを単に「慣れてきた」っていうだけだと思っていたんですけど、そうじゃないんですか?

安田

これは「感動を浪費してる」んじゃないかと思うんですよ。そう考えると、「感動は総量が決まっている」ということを前提に、小出しにしていく必要がある気がして。


スギタ

ははぁ、なるほど。感動の総量は決まっているのだから、毎日高価なお寿司を食べちゃいけないと(笑)。そこまで考えたことなかったなぁ。

安田

いかにして人生の感動値を高めていくかみたいなことを考えると、「毎日あまり感動的なことをやらない」っていう逆説的な答えが出ちゃうんです(笑)。とはいえ全く感動がない日々に慣れてしまえば、それはそれで感動センサーが錆びちゃいそうですけど。


スギタ

そう考えると、お金持ちの人がギャンブルやドラッグに走ってしまうのってそういうことなのかもしれませんね。感動を使い果たしてしまった状態だから、普通のことでは脳が喜んでくれなくなってしまう。

安田

ああ、まさにそうかもしれません。だからやっぱり、普段慎ましい生活をしているところに、たまにすごい感動的な出来事が入るっていうのが、人生の感動量を最大にするための秘訣なんじゃないかと思うんですよ。


スギタ

ふ〜む、なるほど。そういえば、「食べログ4.2だから絶対美味しいだろうと期待して入ったら、意外とそうでもなかった」みたいな事、ありますもんね(笑)。逆に何も期待せずに入ったお店がすごくよかったりするとめちゃくちゃ感動する。

安田

でもそれは、逆に感動センサーが精密だということかもしれませんよ。普通の人は食べログ4.2とか値段が高いとかっていう情報だけで感動できちゃうんですから。味自体はどうでもいいというか、情報に感動しているだけ。つまり感動センサーが狂っているわけです。


スギタ

評判や値段という情報だけで感動した気になっている人が多いってことですよね。

安田

そうそう。だから自分のセンサーを磨いていくことがすごく大事で。そのためにも普段から感動を浪費せず、些細なことにも感動できるようにしていくことが必要なんじゃないかと。


スギタ

ふ〜む、それでいうと僕の奥さんがすごく感動屋なんです。他の学年の子どもの運動会を見て泣いたり、犬を飼い出したら他の動物も全部かわいく思えたりと、感受性がどんどん上がっていっていく。僕なんかはそれを見て羨ましくて。何でもかんでも感動できるのってすごいなと。

安田

女性の方が感情移入が上手というか、共感力が高いから感動の総量も多いのかもしれませんね。感動ってやっぱある意味共感ですから。一方で、「わびさび」みたいなものに感動できる感覚も持っていたいですよね。

スギタ

ああ、それこそ値段の高い安いじゃない部分で感動できるかということですよね。世間一般的なセンサーじゃなくて、自分の中のセンサーが機能しているか。

安田

そういうことです。昔の日本人は、虫が鳴いただけで感動したり、ススキが夕焼けに揺れてるだけで詩を詠んだりするような「儚いものに対する繊細な感性」を持っていたわけですよ。そういう情緒豊かな部分が現代では薄れちゃっている気がします。


スギタ

確かに、水に映っている月を見て感動できるような、そういう情緒豊かな自分でありたいですよね。そのためには、感動センサーを狂わせないようにしないといけない。

安田

そうなんですよ。「これは感動的だ!」っていうものを色々やっていると、感動がだだ漏れになっちゃって繊細な感動ができなくなる。想像力を持って、「なんか今生きてるって感動するな」みたいに、ありのままの小さなことに感動できる感受性が大事なんです。

スギタ

感動って「期待を超えたときに感じるもの」だと思っていたんですが、今日のお話だとそれとは違うベクトルなんでしょうね。

安田

そうですね。もっと想像力を使うものというか。神様がそこら中に置いてくれた小さな感動の種を、ちゃんと拾えるかどうかだと思います。

スギタ

ははぁ、それは面白いな。ぜひその感覚をもって生きていきたいですね。華美な感動を求めすぎず、小さな感動を重ねていくのが大事なんでしょう。

安田

有名なレストランに行くとか、世界遺産を見に行くような大きな感動もいいんですけどね。そちらだけに染まらずに、目の前で葉っぱが1枚落ちたことにも同じように感動できる自分でいたいですね。

スギタ

素晴らしい。僕もそんな感受性を持った50代、60代になりたいと心から思います。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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