第281回 退職代行サービスの是非

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第281回「退職代行サービスの是非」


安田

「退職代行モームリ」というサービスが話題になっていまして。

久野

賛否両論分かれてますよね。

安田

はい。否定派の人は「退職の挨拶ぐらい自分で出来なくてどうする」「そんな奴はどこ行っても通用しない」と言っておられて。

久野

私はべつになんとも思わないですけどね。

安田

プロに任せるのは悪いことではないと? 

久野

自分の会社だったらなんとも思わないです。

安田

お客さんから相談されたりしませんか?

久野

お客さんからめちゃくちゃ相談来ますよ。

安田

そうですよね。

久野

就業規則に「退職代行サービス禁止」と書きたいって。

安田

そんなの書けるんですか?

久野

書くことに問題はないですけど。ただ、そんなの書いたら「うちはブラック企業だ」って言ってるようなもんで。

安田

そうですよね。「残業代が出なくても文句禁止」って書くのと同じですよね。

久野

これはもう時代の流れだと思います。ちょっと前まで「メールで応募してくるやつは使えない」って言われている時期があったじゃないですか。

安田

「応募の電話ぐらいできないのか!」って。

久野

でも今どき電話で応募してくる人なんてほとんどいない。

安田

電話で応募してくる人って逆に感覚がズレてそう。

久野

そうなんですよ。退職代行もそれに似てると思います。

安田

面倒なことはまる投げしたいんでしょうね。引越し屋さんに頼むような感覚で。

久野

プロに頼めば揉めることもないでしょうし。これはもうスタンダードになっていくと思います。

安田

育ててもらった恩とか、お世話になったお礼ぐらい言うべきだとか、そういうのはもう時代錯誤だと。

久野

状況によると思うんです。経営者として反省せざるを得ないケースもあるはずで。

安田

退職代行に依頼されるような関係性しか作れていないことが問題ですよね。

久野

はい。だけど「面倒だ」っていうだけで代行を使って辞めていく人がいるのも現実で。

安田

退職代行を使っている人の7割は入社半年以内だそうです。

久野

「ここじゃないな」と感じたら、あっさり辞めていきますね。

安田

入社半年だったら上司も引き留めようとするでしょうし。そういうのが面倒くさいのかも。

久野

常識が変わりつつありますよね。

安田

早い人は入社した日に辞めるそうです。さすがに自分では言いにくいですよ(笑)

久野

入社前に聞いていた話と「ぜんぜん違う」というケースもあって。辞めた人が悪いとは言えないんですけど。

安田

とは言え入社して1日で辞めるなんて、かなりイメージが悪いですよ。履歴書から消しちゃうんでしょうか。

久野

今は人不足ですから「辞めた人を紹介してほしい」という会社もたくさんあります。

安田

1日で辞めた人でもいいから採りたいと。

久野

それだけ人不足だということでしょうね。

安田

「退職代行を使って辞めた人は採りません」という会社も出てきそうですけど。

久野

そういう会社はブラックだと見なされるでしょうね。経営者はもう時代が変わったと認識した方がいいです。突然いなくなるのを前提に採用するしかない。

安田

入社半年以内に辞める人って完全な採用ミスだと思いますけどね。

久野

面接で見抜くのは難しいと思いますよ。配属先や上司が気に入らないだけで辞めちゃう人もいますから。もう感覚が変わってきたと認めざるを得ない。

安田

それを前提に組織を作っていかなきゃいけないと。

久野

経営者にとってはなかなか辛い時代ですよ。

安田

ちなみに退職代行を使って辞める人って「社会では通用しない」と思いますか?

久野

いや、そんなことはないと思います。だけど勘違いしちゃう人もいるでしょうね。20代は転職すれば給料上がっていくから。それを自分の力だと思ってしまうと30〜40代になった時に大変なことになります。

安田

転職するだけで給料が上がるって、考えてみたらすごい時代ですよね。

久野

はい。経営者はこの事実を受け入れるしかない。退職代行どころか給料の交渉にまで代理人が出てくるようになるかもしれません。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから