第283回 雇用保険から見る終身雇用の終焉

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第283回「雇用保険から見る終身雇用の終焉」


安田

雇用保険の加入条件が変わるそうですね。

久野

はい。主に2つ。1つは2028年(令和10年)10月1日から、雇用保険の加入義務が10時間以上(今は20時間以上)に変更されます。

安田

週に10時間以上働く人は雇用保険の加入が必須になると。

久野

そうです。これによって雇用保険に入る人がめちゃくちゃ増える。もう一つ大きな変更があって、これが本丸だと思います。

安田

ほう。何でしょう?

久野

2025年(令和7年)の4月1日から失業手当の給付制限が変わります。安田さんは失業保険をもらったことありますか。

安田

ないです(笑)一応、社長だったので。

久野

ないですよね(笑)今までは、自己都合で会社を辞めると給付制限がかかってたんですよ。

安田

何ヶ月間かもらえないってやつですね。

久野

そうです。2ヶ月の給付制限があったんですけど、これがとりあえず1ヶ月に変わる。実は昔は3ヶ月だったんです。

安田

長いですね。

久野

「お前が勝手に辞めたんだから、すぐには失業保険は渡さないぞ」というルールだった。それが3ヶ月から2ヶ月になって、次は1ヶ月になる。

安田

つまり「どんどん辞めやすくなってる」ってことですよね。

久野

めちゃくちゃ辞めやすくなっていってます。一応、3回以上繰り返すと「制限期間3ヶ月にしますよ」というペナルティはあるんですけど。

安田

失業保険目当てに退職し続けられても困りますもんね。

久野

そうなんですよ。

安田

つまり国の意図としては、辞めやすくして人材をもっと流動化したいと。

久野

今ものすごい勢いで給与相場って上がってるんですけど、転職を繰り返すことで給料が増えるんです。

安田

若い子は転職するだけで増えていきますからね。

久野

そうそう。だからとにかく移動させれば相場が上がっていくだろうと。国はあまり細かいところは見てないので。

安田

安く労働者をキープしていた経営者は大変ですね。

久野

そうなんです。それと、まだ決まってないですけど退職所得控除というのもあって。

安田

退職所得控除って何ですか?

久野

退職金をもらう時に税金が安くなる仕組みです。日本の税制は終身雇用を前提にしているので、お金を後にもらえばもらうほど税金が安くなるルールなんです。

安田

そうなんですね。

久野

20年ルールというのがありまして。在職20年を超えると退職所得控除の額がどんと上がるんです。昔はとにかく国が社員をやめさせないようにしていたので。「20年以上勤めるのは素晴らしいよ、だから税金も安くするよ」っていう。

安田

そこも変わっていくと。

久野

20年ルールも廃止しようという流れになってきてます。要は「あまり長くいるな、早く見切れ」と。

安田

手のひら返しがすごいですね(笑)でも年配の方はそう簡単に転職できないですよ。どんどん辞めさせて大丈夫でしょうか。

久野

国はマクロの観点でしか見ていないので。20年ルールをなくすだけで若い子にはインパクトがあるじゃないないですか。後ろはあまり見てないと思います。

安田

なんと。ちなみに確定拠出年金も退職金の一種なんですか?

久野

確定年金も退職金の扱いなんですけど、これが画期的なところは持っていけることろですね。

安田

持っていける?

久野

はい。次の会社に持っていけるんですよ。普通の退職金は持っていけないですから。

安田

なるほど。でも退職金といっても、これは自分で積み立てたものですからね。

久野

会社が積み立ててくれてるケースもあります。退職金みたいにして。

安田

それは給料から天引きではなく?

久野

給料プラスアルファで積み立ててます。給料を増やしても手取りが全然増えない時代なので。それよりも確定拠出年金の積立を増やしてあげる。退職金っていくら貰えるかわからないけど、こちらは金額が決まってるし次の会社にも持っていけるから。

安田

辞めてほしくないのに、辞めても持っていける退職金を増やすんですか。

久野

これをやることで定着率も採用力も上がります。中小企業は初任給を上げるばかりじゃなく、こういう部分に力を入れた方がいいです。1万円ぐらい昇給してもみんなすぐに忘れてしまうし。でもほとんどの経営者は知らないですね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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