第287回 厚生年金はたくさん稼ぐともらえない?

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第287回「厚生年金はたくさん稼ぐともらえない?」


安田

日本年金機構で調べたんですけど。厚生年金は収入がある程度以上あるともらえないって書いてありました。これほんとなんですか。

久野

本当です。

安田

月に50万円以上の収入がある人はもらえないって。

久野

細かいルールがあるんですけど。もらえなくなっていきます。

安田

つまり厚生年金を払ってきたのは無駄だったってことでしょうか。

久野

無駄ではありませんよ。

安田

でも受け取れないんですよね?

久野

在職老齢年金という制度がありまして。これなかなか難しいんですけど。

安田

ぜひ教えてください。

久野

給与と賞与の平均標準報酬月額と厚生年金の額を足して、50万円を超えると支給停止がかかってくるんです。

安田

つまりもらえないと。

久野

支給停止がかかっている間はもらえません。

安田

あとでまとめてもらえるってことですか?

久野

いえ。停止期間の分は将来にわたって受け取れません。

安田

なんと。やっぱり払うだけ無駄じゃないですか。

久野

無駄ではないです。いつも言いますけど厚生年金というのは”保険”なので。

安田

そんなこと書いてないですよ。老齢厚生年金とは書いてますけど。保険とは書いてないです。

久野

厚生年金保険という名前なんですよ。その制度の中に老齢厚生年金があるんです。

安田

ややこしい。つまり老齢厚生年金も保険だと。

久野

そうです。元々仕事がない人のための給付なんです。だから仕事があると止まっちゃう。

安田

それ、みんな知ってるんですか。収入があったらもらえないなんて絶対に知らないですよ。つまり「稼いだら損する」ってことじゃないですか。

久野

だから年金を全額もらうために「報酬額をシミュレーションしてくれ」っていう依頼が多いです。

安田

年金から逆算して収入を抑えるってことですか。

久野

結構多いですよ。そういう人は。

安田

まあそうなっちゃいますよね。私なんて「ひとり法人」ですから給料なんていくらでもコントロールできるし。

久野

そういう人はたくさんいると思います。月給を抑えて年金を満額もらってやっていくっていうスタイルの人。

安田

これは世帯収入とは関係ないんですか。

久野

世帯は関係ないですね。役員の方と同一世帯であれば収入分散する人もいます。そんなのダメですけどね。

安田

普通そうなっちゃいますよね。

久野

私の立場ではちょっと言いにくいですけど、そういう人は多いです。本来は仕事に対してきちんと報酬が払われるべきなんですけど。

安田

現実問題としてそうなっちゃいますよ。

久野

そうですね。だから年金を最大限もらうためにシミュレーションするのは別に問題ではないと思います。

安田

家族経営だったら自分の収入を減らして、奥さんの収入を増やすとか。

久野

そういう方も多いですが、あくまでも報酬は仕事で決めるべきです。

安田

そこまで織り込み済みなんですか?この制度は。

久野

いえ。元々そこは想定してないです。繰り返しになりますけど、そもそもこれは保険なので。お仕事がない、収入が減りました、という人のための制度。役員報酬をたくさんもらってるんだったら年金はいらないでしょうと。

安田

ちなみに国民年金は保険じゃないですよね。

久野

国民年金は保険じゃないです。全員もらえます。厚生年金は保険です。

安田

稼いだら「もらえなくなる」なんて絶対に知らないですよ。年金は2階建てで国民年金+厚生年金がもらえると思ってます。

久野

仕事がなくなったら、たくさんもらえるってことです。

安田

逆に言うと50万円以上は稼ぎようがないってことになりますよね。

久野

いえ。50万を超えた分の半分が停止する計算なんです。52万だったら2万の半分の1万円が止まるんです。たとえば年金が10万で給料を50万もらうと60万になりますよね。

安田

はい。

久野

すると10万はみ出る。その半分の5万が止まるわけです。70万もらうと20万出ちゃうので20万の半分で10万止まる。10万止まると、元々10万しかないので0になる。そんな感じ。

安田

ややこしい。そんなの絶対みんな知らないですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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