第298回 静かな退職が意味する変化

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第298回「静かな退職が意味する変化」


安田

「静かな退職」という言葉を聞いたことがありますか?

久野

いえ。知らないです。静かに会社を辞めていくイメージですけど。

安田

そういうイメージですよね。でも違うんです。実際には辞めてないんだけど、あまり仕事を頑張る気はないっていう。 

久野

え!仕事する気がないのに会社にいるんですか?

安田

そうなんですよ。これが今の主流だそうです。

久野

主流!?もう勘弁して。

安田

静かな退職には2種類あるらしくて。ひとつ目はもらってる給料分も働かないケース。これはさすがにダメだろうと言われています。

久野

そりゃそうですよ。会社が潰れてしまいます。

安田

二つ目は給料分の仕事はやるけどそれ以上はやりませんっていうケース。

久野

それ宣言しちゃうんですか。強気ですね。

安田

自分の仕事が終わってもみんなが忙しそうだったら「手伝います」というのが当たり前だったじゃないですか。

久野

そうですよね。

安田

だけど今は「やるべきことはやってるんだから問題ない」「それ以上やる気出す必要ないんじゃないか」という風潮なわけです。

久野

いや経営者としては心が折れちゃいますね。

安田

退職してくれた方がマシっていう。

久野

そりゃ、そうでしょうね。「やる気ないです」ってもう無理ですよ、そんなの。

安田

やる気がないわけじゃないんです。ただ給料以上には頑張らないだけ。

久野

何が違うのかちょっと分からないんですけど。給料以上の成果を出す気はないってことですよね?

安田

そう。給料以上に頑張る気はない。でもこのパターンはまだいい方で。悪い方のパターンは「給料は決まってるから、できるだけ楽させてもらって費用対効果を上げよう」っていう。

久野

コスパですか!

安田

そうなんです。会社から見たらよろしくないんですけど。働く側からしたらコスパが上がる。

久野

確かにそうですけど。

安田

経営側はこれまで「給料以上にどれだけ頑張ってもらうか」を考えてきたじゃないですか。

久野

そうですね。

安田

働く側がその正反対のことを求め始めたってことですね。

久野

もう心臓が止まりそうなぐらいカルチャーショックを受けてます。これはちょっとまずいですよ。

安田

いやいや久野さん。こんなの普通ですよ。働く側からしたら「何が間違ってるんですか?」みたいな感じで。

久野

ほんとですか?

安田

以前は同調圧力も強くて、帰る前に上司に「残ってる仕事ないですか?」とか聞かなくちゃいけない空気があった。 でも今は自分の仕事が終わったらとっとと帰るのが当たり前。

久野

給料分の仕事ってギリギリ最低ラインじゃないですか。

安田

そのラインまでしか仕事はしないってことですね。経営者としては許せないですか?

久野

許せないというか会社がもたないですよ。仕組みで解決するしかないですね。

安田

久野さんは会社員時代から残業も厭わない人ですからね。

久野

残業を厭わないっていうか仕事をやる気はありますよ。少なくとも。

安田

私は会社員時代に納得いかないと思ってました。営業所の成績が悪いと全員30分早く出社するとか。上司に言いましたもん。売れてない人だけでやってもらえませんか?って。

久野

安田さんは未来から来た人なので(笑)令和の次ぐらいのタイプだと思います。

安田

上司にすごく怒られましたけど今なら当たり前かもしれませんね。

久野

僕は安田さんを使いこなせる自信はないですね。社長として。

安田

「お前みたいなやつは組織にいらん」って言われました。

久野

でも安田さんも経営者になって変わったでしょ?

安田

そうなんです。経営者としたら給料の何倍も働いてほしい。その気持ちはよくわかります。ただ社員が給料以上に働きたくない気持ちもわかる。

久野

何割ぐらいの人がこんな感じなんですか?

安田

数値は出てませんけど私の肌感覚では8割ぐらいじゃないですか。だって冷静に考えたら1000円しか払ってないのに2000円分働けっていうのは無理がありますよ。

久野

裏でいろんなコストがかかってますから。2倍ぐらいは稼いでもらわないと困ります。

安田

そういう理屈が成り立つ時代はもう終わりだと思います。言ったことを言った通り、言った時間内だけ、きちんとやってくれれば儲かるようにしないと。もう人が来ないです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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