第315回 現場から人が消える日

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第315回「現場から人が消える日」


安田

大阪万博の警備スタッフ募集、15人必要なのに2人しか来なかったそうです。時給2000円ですよ。

久野

建設関係はほんと厳しくて。東京中野の駅前ビルも人がいなくて工事が止まってます。

安田

中野サンプラザがあったところですよね。当初予算の1.5倍ぐらいかかるってことで工事ができないみたいです。

久野

現場で急激に人件費が上がっているので。2000円程度では集まらないってことでしょうね。

安田

もっと時給を上げないと無理でしょうか。

久野

そうですね。ただ時給を上げても完全に充足するのは無理だと思います。労働人口が減っていく一方なので。

安田

労働人口はこれから本格的に減っていくみたいですね。

久野

はい。これからです。定年が伸びたりパート主婦が増えたりで、何とか補ってきたんですけど。

安田

それももう限界ってことですね。

久野

限界ですね。外国人にも来てもらえなくなって。

安田

この先、建設現場に人が戻ることは期待できないですか。

久野

まず人件費をきちんと払えない現場は無理です。払えたとしても厳しいと思います。現場って夏は暑いし冬は寒いし大変じゃないですか。

安田

そうですよね。でも建設の仕事って国民の生活に直結してるじゃないですか。

久野

建設、警備、物流、配送、すべて生活に直結してます。だけど人不足の会社はもう採用できないと思います。

安田

道路の陥没が日本中で起こってますけど。予算もないけど仮に予算があっても人がいないですよね。

久野

いないです。いずれ宅急便も届かなくなるでしょうし、ちょっとずつ不便になっていくと思います。ホスピタリティみたいなものがなくなっていく。

安田

そういえばAmazonの配達が遅くなった気がします。

久野

仕事はいくらでもあるんですがドライバーを確保できないんですよ。時間指定も有料サービスになっていくかもしれません。

安田

午前中に届けて欲しいならプラス1000円かかるとか。再配達もプラス1000円とか。

久野

Uberとかもめちゃくちゃ高くなっていくと思います。

安田

1500円で買ったケンタッキーを持ってきてもらうのに2000円かかるとか。

久野

どう考えても計算したら人件費と合わないですもん。今のウーバーの値段は。

安田

これから目に見えて労働力が減っていくんでしょうね。暑い、寒い、重たい、しんどい現場からどんどん抜けていく。

久野

まず稼げないところから抜けていきます。エッセンシャルワーカーとかインフラ系の仕事はめちゃくちゃ高くなると思います。

安田

建設現場もめちゃくちゃ上がるんでしょうね。それこそ大阪万博の警備の仕事が時給5000円とか。

久野

万博をやらないわけにはいかないし。特に緊急性が高い仕事は跳ね上がるでしょうね。日本ってあんまりそういう感覚がないですけど。

安田

ついこの間まで「人間がやったほうが安い」って言われていたのに。

久野

常識が変わると思います。それが分かっているから大手はどんどん20代を囲い込んでいるわけで。

安田

ユニクロなんて初任給33万ですからね。

久野

20代はとにかくどんどん上がる。それと同時に大手は現場仕事を省人化、無人化していくと思います。

安田

飲食チェーンなんてそんなに時給払えないですもんね。調理はもちろん接客も配膳も無人化するんでしょうね。

久野

ビルの警備とかもロボット化していってます。

安田

建設現場も遠隔操作のロボットになってきてますよね。家にいながら現場のショベルカーを動かすみたいな。

久野

どんどんそうなっていくでしょう。

安田

求める人材もガラッと変わるでしょうね。体力がなくても操作がうまければOKなわけで。

久野

農業とかもそうなっていくかもしれません。あらゆる分野でAI化とロボット化が進むと思います。あとはインフラの絞り込みみたいなのも出てくるでしょうね。

安田

インフラの絞り込み?

久野

もうこの地域は開発しないとか。現実的にお金が回らないので選択と集中をやらざるを得ない。

安田

確かにそうですね。今のインフラは人口が増える前提で作ってきたわけで。

久野

とんでもないことになると思いますよ。

安田

多治見も危ないんじゃないですか。

久野

そうなんですよ。

安田

現実的に考えると、各都道府県でいくつかの街に集中して人を集めるようになるんでしょうね。

久野

海外はそうですからね。

安田

確かにそうですね。アメリカなんて街と街の間に人が住んでいない場所がたくさんあります。

久野

よく映画で見ますもんね。荒野みたいなところ。

安田

日本もああなっていくんでしょうか。

久野

間違いなく無人地帯が増えていくと思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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