さよなら採用ビジネス 第8回「採用時代の終焉」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい ①採用活動に対する先入観、②プレーイングマネジャーが増え、マネジメントの質低下により必要になってきた新たな仕事 第7回「欲しい人は目の前にいる」


安田

この過激な対談も、8回目になりました。

石塚

周りは、いまのところ肯定派が多いです(笑)。

安田

否定派もいるでしょうけど。

石塚

否定派は直接言ってこないでしょうからね。常識を一度疑ってみる、否定してみる、というアプローチが出来る方は、割と肯定的な反応をしてくれます。

安田

なるほど。で、今回は石塚さんのお仕事についてです。「さよなら採用ビジネス」と言いつつ、石塚さんの会社は「株式会社求人」ですよね。「採用やめたと言いつつ、やってるじゃん」というのが普通の反応だと思うんですけど。採用と求人は違うんですか?

石塚

一言でいうと「採用業者ではなく、教育会社である」ということ。それが一番の違いですね。

安田

教育会社?えらい飛躍しましたね。ちょっと分かりませんが。

石塚

はい。何を教えるかというと、求人募集の仕方を教える。自分たちが会いたいなと思える候補者との出合い方、仕組みの作り方を教えて差し上げる。

安田

求人のノウハウを教えるということですね。採用とどう違うんですか?

石塚

採用って、会社側が使う言葉じゃないですか。例えば求職者で、検索キーワードに「新橋 カフェ バイト 採用」って入れる人は少ないんです。

安田

なるほど。

石塚

「新橋 カフェ バイト 募集」もしくは「求人」っていうのがデータ解析すると圧倒的に多い。

安田

はい。

石塚

採用するっていうのは、主語が会社。「求人出てるかな」とか「募集されてるかな」というのが求職者の目線。

安田

でも求職者からではなく、企業からお金をもらって教えてるんですよね。求職者から見たら求人なんでしょうけど、企業から見たら「採用のノウハウを教えてもらう」ということじゃないんですか?言葉を変えただけに思えますが。

石塚

私が明確に違うと言ってるのは、人材を紹介して手数料をもらうのが今までの事業でそれはもう一切やらないということです。人材紹介業にさよならしたんです。さらに人材紹介の限界を誰よりも知っているからそれを逆手に取って、会社側がもっと工夫すればもっと安いコストで人と出会うやり方を教えます、っていうのが今の事業です。さらに中小企業は求職者に選ばれる会社じゃないとやっていけないので求職者に選ばれる会社をつくる、というのが株式会社求人の事業目的です。採用は、会社側から上から目線で見ている感じなので。

安田

「採用してやるぞ!」と上から。

石塚

そうです。「採って用いる」なんで。

安田

なるほど。

石塚

採用って、どちらかというと会社側が「選びます」というニュアンス。これからは人を選ぶのではなく人を求める時代。会社が、本当の意味で自分たちにとって必要で、仲間にしたい人をどう求めるのか。そういう方向に、流れが明確に変わってきている。だから「人を求める」会社のお手伝いをする、という意味で求人と名付けました。

安田

採用が小手先の「どこに広告出すか、いつ説明会するか」だとすると、求人はもっと根本的な「どういう人と出会うか、どうやったら人が働きたくなるか」というところから考える。という事でしょうか。

石塚

その通りです。中小企業向けにセミナーをしてるんですけど、「求職者目線で考えないと」って話すと、今でもみなさんびっくりされます。

安田

え!そんなことにびっくりするんですか?

石塚

勤務時間と給与を決めて、仕事内容を説明しておけば、後は反応が来るのを待つだけでしょ。みたいな発想の会社がものすごく多い。そういう会社さんて、ほぼ間違いなく人が集まらない。だって求職者に選ばれる時代だから。求職者はありとあらゆるツールを使って調べますし、商品や店舗の利用客かもしれないじゃないですか。

安田

そうですよね。SNSもありますし。

石塚

求職者から選ばれる会社は「どんな人が欲しいのか」「どういった理由で欲しいのか」を、きちんと訴求している。そして求職者が見た時に、それが自分に向けたメッセージだと感じてもらえる。ここが一番大事なところですけど、その仕組みを理解していない。だからここを丁寧に説明してあげると、みなさん喜ばれますね。

安田

へえ~。

石塚

先日も浜松町でセミナーやったんですけど、商工会議所主催で80名ほどいらっしゃいました。皆さんものすごく深刻だし真剣なのは伝わって来るんです。ただ根本的に、なぜ人が来ないのかが分かっていない。私の説明を聞いて「なんで来ないかが分かった」「やり方が全然違うんだ」とアンケートに書いて帰られるのが印象的ですね。

安田

なるほど。採用という言葉は「企業が集めて企業が選ぶ」というニュアンス。求人はもうちょっとニュートラルな「出会うための仕組みづくり」というニュアンス。採用という言葉を使っている時点で、立ち位置がズレてますよ、ってことなんですかね。

石塚

はい。その通りです。「採用コンサルティング」という言葉を生み出したのは安田さんですが、当時はその言葉がスッと皆の中に入って来たと思うんですよ。採用成功とは、出来るだけたくさんの人を集めて、その中から良い人材を選別すること。だから母集団形成の方法と、人材の見極め方を教えますよ。それが採用コンサルティングです、と。企業にとって従業員との出会いはすなわち採用だった。だから採用コンサルティングという言葉もすんなり受け入れられた。

安田

まあ、そうですね。採用という言葉自体に疑問を持つ人なんて、いなかったですから。

石塚

しかし、もはや採用の時代じゃないと思うんです。会社が選別して「どこにどう配置するか決めます」ということではなく、「私にぴったりな求人募集ってないだろうか」って探している人との出会いを考える時代。

安田

何となく分かりますが、具体的にはどうしたらいいのですか?

石塚

例えば今日の午前中、お弁当屋さんの相談を受けていました。まず採用ターゲットをあらあら考えるのですが、面白いと思ったのが、主婦の方もいるんですけど、芸人さんやアーティストの方など「朝のお弁当を詰めることだけ15年やってます」という人もいるわけです。そんな様々な登場人物がいるんだなあと、ちょっと衝撃でした。

安田

なるほど。それでどうしたんですか?

石塚

だったらそれをベースに、ターゲットごとに6つ7つ求人作りましょうと提案しました。そしたら社長も頭の回転が早い人で「そりゃあ、確かにそうですよね」とすぐに納得してくれました。そうやって、「こんな風にするともっといいですよ。繋がるべき人とつながれますよ」という提案をします。結果的に、中小企業と求職者が出会ってハッピーになる接点としての求人募集を増やしていきたい。

安田

求人と求職という両方の立場から接点をきっちりと考え、魅力的にしていこうってことなんですかね。

石塚

そうですね。

安田

ちなみにリクルートという社名は、訳すと求人ですか。それとも採用になるんですかね?

石塚

僕が聞いた話では、もともと軍事用語で兵力を動員するって意味らしいですね。

安田

「Crew(クルー・乗組員)」ですもんね(笑)

石塚

そうですね。国家意思が何か大きなベクトルに向けて兵を動員するというのがリクルートの語源みたいです。時代的なものを感じますよね。

安田

石塚さんは、人を採るお手伝いをしているわけではなく、「良い接点をつくる」お手伝いをしている。つまり接点の作り方を教えている人、でしょうか。

石塚

はい。そうです。

安田

それを求人と呼んでいると。なるほど。実は私、10年以上前から予想していたことがありまして。みんなにすごくバカにされるんですけど。

石塚

ほほう。何ですか?

安田

名刺に「営業」という肩書を入れる人が、いずれ居なくなるという予想。

石塚

さすがの先見性ですね!スゲー!!(笑)

安田

そう言ってくれるのは石塚さんだけです(笑)。でも採用という言葉のイメージが良くないのなら、営業というイメージはもっと悪い気がします。だって、営業されたい人なんていないですよ。

石塚

いませんね。お客さんは営業されたい訳ではない。

安田

そうでしょ。なのに「私は売る人です」なんて肩書き、あり得ないでしょ。営業担当とか、採用担当とか、そんな無神経な一方通行の肩書きは、この先きっと消えて行きますよ。

石塚

おっしゃるとおり!

次回第9回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

 

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