さよなら採用ビジネス 第25回「お金ではない報酬とは?」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい 第24回「越えなくてはならない壁」

 第25回 「お金ではない報酬とは」 


安田

これからの採用について、お聞きしたいんですけど。

石塚

はい。

安田

低欲望時代になって「働く人は楽しい職場」を求めるようになったと。

石塚

その通りです。「中小企業も変わらなきゃいけない」ってことです。

安田

単に「給料増やしますよ」では、大きな転換とは言えないわけですよね。

石塚

まったくダメですね。

安田

「中小企業は腹をくくるべきだ」っておっしゃいますけど、何に対して腹をくくるべきなんですか?

石塚

まず「賃金を上げないと社員満足度は得られない」という呪縛から、抜け出せるかどうか。

安田

呪縛ですか?

石塚

「金銭報酬と非金銭報酬」の両方が必要だってことを、僕はいつも言うんですけど。

安田

お金じゃない報酬って、大事ですよね。

石塚

だけど人が集まらない会社の経営者は、人に興味がない。だからすぐ「うちはそんなにお金出せないから」って言うんですよ。

安田

お金じゃないって、言ってるのに?

石塚

お金に関しては日本中の中小企業って、似たり寄ったりじゃないですか。そこで1万円無理して出すことが、果たしてどこまで効くのかって。

安田

まあ劇的な効果は、期待できないですよね。

石塚

だからこそ、お金じゃない非金銭報酬をいくつ用意できるか。それが選んでもらう最大のポイントなんですよ。

安田

じゃあ「いちばんの非金銭報酬は何だ」と聞かれたら、どう答えるんですか?

石塚

居場所を提供することです。

安田

居場所ですか?

石塚

はい。「離職率が低い会社」「定着率のよい会社」には、共通点があるんですよ。

安田

ほう。それは、どんな共通点ですか?

石塚

採用時の選考基準です。

安田

選考基準?

石塚

はい。もちろん能力も見ていますが、最終的には「優秀かどうか」ではなく「ウチに合うかどうか」で決めている。

安田

ウチに合うかどうか?

石塚

つまり、ウチの会社に「この人の居場所があるか」ってことを、考えて採用してるんですよ。

安田

そうなんですか?

石塚

人間って、居場所があって、自分を必要としてくれる人がいて、そして時々「ありがとう」って言われるだけで、嬉しいじゃないですか。

安田

きっと幸せでしょうね。

石塚

そういう居場所が「この会社にあるんだ」って思ってもらえることが、いちばん大事なんですよ。

安田

言われて、思い出したんですけど。

石塚

何ですか?

安田

私は、かつて採用活動を「旅」に例えたことがあるんです。

石塚

旅ですか?

安田

はい。旅行に行くときに「どこに行くか」も大事ですけど、「誰と行くか」はもっと大事だと。

石塚

たしか本にも、書いてましたよね?

安田

書きました。それでその「誰と行くのか」ってとこなんですけど。

石塚

はい。

安田

好きな人と行くというのが、もちろん大事じゃないですか。

石塚

かなり大事ですよね。

安田

それと同時に「自分の役割がある」ってことが、もっと大事なんじゃないかと。

石塚

なるほど。

安田

たとえばチケットの手配とか、みんなの時間管理とか、あるいは「ただ会話を盛り上げるだけ」でもいいんです。

石塚

分かります。そこに自分の役割、つまり居場所があるってことが大事だと。

安田

はい。いくら仲のいい人と旅行しても、そこで自分が「必要とされていなければ」楽しくない。

石塚

おっしゃる通りですね。

安田

自分がいることで誰かが楽になったり、喜んでくれてりするだけで、旅行が何倍にも楽しくなる。

石塚

まさに僕が言いたいのは、そういうことなんですよ。

安田

仕事も、旅行も同じってことですよね。

石塚

同じです。だから僕は、会社の中に「居場所」をつくり続けているんです。

安田

なるほど。石塚さんのやってる求人サポートは「求職者の居場所づくり」なんですね。

石塚

求職者の居場所を作ると同時に、今いる社員の居場所を作ることも大事なんです。

安田

今いる社員の居場所?

石塚

はい。

安田

それが採用に影響すると?

石塚

昔はもてはやした社員を「旬が過ぎたら捨てる」って会社、あるじゃないですか?

安田

ありますね。

石塚

若手だって、そういう会社には行きたくないんですよ。

安田

「旬の社員」って、もてはやし過ぎないほうがいいんですか?

石塚

もてはやすんじゃなく「その人なりの快適な居場所を提供し続ける」ってことが大事なんです。

安田

快適な居場所を提供し続ける。

石塚

はい。いつも言うんですけど、今って中小企業にとってチャンスなんですよ。

安田

そうなんですか?みんな困ってますけど。

石塚

これまでは、どう考えても大手に勝てなかったじゃないですか。福利厚生でも生涯賃金でも。

安田

まあ、そうですよね。

石塚

でも今は低欲望時代。居場所をきちんと提供できれば求職者に選んでもらえる。

安田

大手企業は、そういう方向には舵を切らないと?

石塚

大企業って、小回りが利かないじゃないですか。大型タンカーと小舟みたいなもので、急激に舵を切った時の反応速度がぜんぜん違う。

安田

タンカーは時間がかかるから、小舟の方が有利だと。

石塚

その通りです。

安田

ひとつ聞きたいんですけど。

石塚

何でしょう?

安田

居場所って「会社の中での自分の役割」みたいなもんじゃないですか?

石塚

そうですね。

安田

だったら「売上や利益につながる」ものじゃないとダメですよね。

石塚

どう繋げるかですよね。それを考えなくちゃいけない。

安田

たとえば「売上や利益に直結しない居場所」もありなんですか?

石塚

僕はありだと思ってます。

安田

その人がいることによって「すごく雰囲気が良くなるけど、利益には直結しない」みたいな仕事。

石塚

ぜんぜんありですね。

安田

それ以外の人が、賄ってあげればいいってことですか?

石塚

そう。今は寿命が長くなって、労働する時間も長いですよね。

安田

はい。

石塚

僕ね、いっぱい見たんですよ。かつての20代30代のエースが、50代になり、残念ながらイノベーションや時代の変化に置いていかれる。

安田

私も人ごとじゃないです。

石塚

居場所づくりの上手な会社は、決してそういう人を切らないんですよ。

安田

へえ!そうなんですか。

石塚

たしかに20年前30年前と比べると売上や利益の貢献度は低い。

安田

ですよね。

石塚

でも若手のマネージャーを後ろからフォローしたり、こぼれそうな若手社員をフォローしたり、目に見えない貢献をしてくれるんですよ。

安田

そういう人だったら、いいですよね。

石塚

そういう人以外にも、いろんなパターンあるんですよ。

安田

たとえば?

石塚

たとえば、その人がいるだけで「安さんがいると、なんか和むよな」とか「うちの宴会、石ちゃん欠かせない。もう、夜の社長っ!」みたいな。

安田

え!そんなんで、いいんですか?

石塚

そういう人って歴史があって「実は安さん、30年前トップセールスですよ」「えーっ!?」みたいな。

安田

そういう人の居場所を作ることで、採用力も定着率も上がると?

石塚

その通りです。働く期間が長くなるってことは、みんな良くも悪くも経年変化があるってことじゃないですか。

安田

そりゃそうですね。

石塚

その経年変化を受け入れて、すごく長い軸で居場所をつくりだす。短期間で売上や利益に直結しなくても、その方が「全体の生産性」は上がるんですよ。

安田

なるほど。長期の居場所づくりに中小企業は腹をくくれと。

石塚

今まで聞いた中で「上手いなぁ」と思ったのは、「平気で降格人事はするけど、減給はしない」というケース。

安田

降格したのに減給しないと?

石塚

要するに、かつての水準でお金を払い続けるんですよ。

安田

なぜ、そんなことするんですか?

石塚

僕も聞きました。そしたら「あいつがいなかったら、今のウチはないから。だから定年まで報酬を払い続けるのは間尺に合ってる」と。

安田

だったら降格しなくてもいいじゃないですか。

石塚

下げないと逆に組織の中で浮いちゃうんですよ。そのポジションではもう通用しないから。

安田

なるほど。ポジションを外すことによって、居場所が生まれることもあると。

石塚

はい。組織としてのバランスは保ちつつ、貢献してくれたことには報いる。だから社員は納得する。

安田

なるほど、確かにそういう采配って、小さな会社じゃないとできませんね。

石塚

でしょ。大きな会社でこんなことしたら、収拾がつかなくなる。

安田

じゃあ「釣りバカ日誌のハマちゃん」みたいな人は、大企業ではありえないと。

石塚

あれは中堅のオーナー企業である、鈴木建設だから成り立つ話です。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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