さよなら採用ビジネス 第51回「序列と格と上下関係」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第50回『食いっぱぐれない仕事』

 第51回「序列と格と上下関係」 


安田

研修会社の人に聞いたんですけど。

石塚

何ですか?

安田

大企業って、部署をまたいだ提案を嫌がるんですか?

石塚

嫌がりますね。そもそもが、気づかないですし。

安田

気づかない?

石塚

部署を越えた取り組みが必要だってことに、気がつかない。

安田

どうして気がつかないんですか?

石塚

俯瞰的視野みたいなものが欠けているからです。

安田

部署の中だけを見て生きている感じ?

石塚

はい。それと他部署との横ぐし調整は誰もやりたがらない。

安田

それはどうして。

石塚

「なに余計なことまでやってるんだ」って言われてしまうから。

安田

自分の部署の役割を超えちゃいけないってことですか?

石塚

そうです。厄介な話になってしまうので。

安田

厄介な話?

石塚

「誰に許可とってやってるんだ?」とか「お前にそんな権限あるのか?」とか「生意気なこというな」とか。

安田

それは縄張り意識ですか。

石塚

要するに横ぐしさすと、パンドラの箱がどんどん開いていくわけですよ。

安田

何ですか?パンドラの箱って。

石塚

開けちゃいけない、踏んじゃいけない暗黙の了解とか。いろいろあるわけですよ。

安田

その部署だけのルールとか?

石塚

そう。あるいは特定の個人の強い影響力だとか。ちょっとおかしいんだけど、長年それで来てしまってる。

安田

ややこしいですね。

石塚

はい。

安田

じゃあ、その部署の人はみんなそのルールを守ってるわけですか?

石塚

異動しない限りはそこの村人ですから。村人は村の掟を守らないといけない。

安田

掟ですか。

石塚

その掟もはっきりと壁とかに書いてないわけですよ。日本人らしいというか、暗黙知、暗黙の了解なわけです。

安田

じゃあ他の部署の人には絶対に分からないですね。

石塚

だから嫌がるんですよ。踏んじゃいけないものを踏むということは、厄介な調整をしないといけない。

安田

調整される方も嫌がるんですか?

石塚

それぞれが部門最適で動いてますから。いきなり隣の部署から「それは違う」とか言われると壊れちゃう。

安田

何が壊れるんですか。

石塚

だから部門最適のバランスが壊れるんですよ。「ここまで仕上げるのに、どれほどエネルギーかけてると思ってるんだ」っていう。

安田

よく分かりませんね。部門最適ってそんなに大事なんですか。

石塚

限られた時間的リソースや人的リソースの中で、求められる数値があるので。

安田

そっちの方が大事だと。

石塚

もちろんそうですよ。横ぐし刺されるってことは、余計な時間がとられるってこと。

安田

でも会社全体の利益はもっと大事なはずでしょ。

石塚

そこは彼らの評価には入ってないので。

安田

だからやりたがらないと。

石塚

はい。共同プロジェクトになれば人を出さないといけないし、営業成績追いたいのに余計なことに時間を取られるし。

安田
じゃあ、部署を横断したプロジェクトは誰が仕切るんですか?
石塚

誰も虎の尾を踏みたくないから、結局はコンサルティングファームを使います。マッキンゼーとかBCGとか。

安田

じゃあ外部の人に調整してもらうってことですか?

石塚

おっしゃる通り。社内は俯瞰的な思考とは真逆なので。

安田

普通だったら、自分の職務を超えて全体最適で仕事する人って、上司の目に留まって出世して行くじゃないですか。

石塚

中小企業ではそうですね。社長の目に留まったら一気に上まで行ける。

安田

大企業でそれをやると出世できないんですか?

石塚

序列と格と上下関係。それが何よりも優先されますから。

安田

まだ平に近い人が、すごいアイデアを部長のところに持って行くとか。そんなのは評価されない?

石塚

「早く君の持ち場に戻れ」って言われます。

安田

いまだにですか?

石塚

「お前入社何年だ?」「2年生のヒヨっこがオレにそういうこと言うの」って。

安田

大企業も変わりつつあると思ってましたけど。年次関係なくバンバン意見が言えるとか。

石塚

まさか!上下関係、格、序列。大企業は相変わらず体育会系採用が好きでしょ?それって従順だからですよ。

安田

ベンチャーだったら「経営トップに直接提案ができる」っていうのが売りだったりしますけど。

石塚

大企業がおかしいと思うから、カウンターでそういうのが受けるわけですよ。

安田

でも今の時代って、革新的なアイデアが必要じゃないですか。

石塚

ですね。

安田

だったら大企業もやればいいのに。

石塚

たとえば大企業の社長が「社長室のドアをいつも開けておくからいつでも来てくれ」とか言っても、誰もいかないと思います。

安田

なぜ行かないんですか?出世のチャンスなのに。

石塚

行ったら「お前はオレの頭越しに行くのか」って必ずなるから。

安田

上司が邪魔するってことですか。

石塚

間に挟まる部長や本部長、役員が良い顔しない。とにかく頭越しを嫌うんですよ。

安田

別にいいじゃないですか。社長に認められればそれで。

石塚

そうは行かないのが大企業なんですよ。話を勝手に通させないための決め台詞がありまして。

安田

決めゼリフ?

石塚

勝手な提案をさせない。それを邪魔したい場合、役職者がある一言をいうと非常に効果がある。

安田

「出世できないぞ」みたいな。

石塚

いや、違います。「オレは聞いていない」です。

安田

そりゃそうでしょ。だって言ってないんですから。

石塚

でもこれを言われたら、大企業ではもう調整失敗なんですよ。面倒くさいんですけど、こういうのは事前に根回ししておかないといけない。

安田

根回しですか。

石塚

「安田部長、この件かくかくしかじか、釈迦に説法でございますが、こうでこうで全体最適から考えますと、安田部長所管のこの部署にご協力をいただけませんか?」って事前に。

安田

ぜんぜん社長室のドアは開いてないじゃないですか。

石塚

開いていても辿り着けないんですよ。それが大企業という世界。

安田

私の知ってる世界とは全然違いますね。

石塚

これがうまいかどうかが全てなんですよ。大企業で仕事が出来る人っていうのは。

安田

企画力とかプレゼン力ではなく?

石塚

企画をプレゼンする前に、もう全部根回しが済んでいて、結論は決まってるんですよ。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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