7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第54回『店舗を増やす快感』
第55回「シングルマザーを戦力化する」
求人ターゲットについて教えて欲しいんですけど。
はい。何でしょう?
シングルマザーさんが増えてるんですけど。そこをターゲットにするという求人はありですか?なしですか?
もちろんありです。
でもシングルマザーさんって、結構制約が多いじゃないですか。
制約というのは?
働ける時間がすごく限られているとか。ひとりで子育てしてるんで。
まあそうですね。
でも、ある程度は稼がなきゃいけない。そうなると、なかなか選択肢がないように見えるんですけど。実際どうなんですか?
まず、シングルマザーも含めて働くお母さんの求人は、ハローワークがものすごく応援してるんですよ。
へえ。そうなんですか。
「マザーズハローワーク」という専門コーナーを多くのハローワークで持ってます。
マザーズハローワーク?
たとえばハローワーク品川とかハローワーク池袋はすごく積極的です。
たとえばどんな。
マザーズハローワーク内には子供が遊べるスペースがあって、そこで子どもを遊ばせて相談員の方と話ができる。
おお。それはいいですね。
スペースもかなり贅沢に設けてます。国としてはシングルに限らず、働くお母さんの応援はすごい積極的。
他にも何か特別なサービスがあるんですか?
これはシングルに限らないですけど、即日利用の託児施設が確保できている会社は、かなりの割合で即紹介ができます。
なるほど。
例えばハローワーク品川は「利用可能な託児施設さえあれば、すぐにでも働けます」っていうお母さんが150人ぐらい待機してます。
へえ。募集職種はどういうのが多いんですか?
事務系が多いですね。
事務系の人が不足してるってことですか?
はい。優秀な人がなかなか集まらない。
ちなみに会社の中に託児所がないとダメなんですか?
いえ。近くに契約してる託児施設があれば大丈夫です。
なるほど。
会社の中に託児施設を持ってるって、かなり少ないですから。
シングルマザーさんについて、いくつか聞きたいことがあるんですけど。
はい、どうぞ。
シングルマザーさんって、別れた旦那からあまり養育費をもらえてない人が多くないですか。
それは人によりますよね。
人によりますけど。十分もらってるって人を、あまり見たことがないんですよ。
まあ貰ってても、それだけじゃあ生活できないでしょうね。普通は。
ですよね。だからハングリーっていうか、ガッツがあるというか、「稼がなくちゃいけない」って思いが、結婚する前の女性より強いんじゃないかと。
それ、そのとおりです。やっぱり「子育てしなきゃいけない」っていうお母さんは、報酬に関しては非常にシビアに見てますね。
仕事内容はあまり関係ないってことですか?
いえ、何をするかも非常に重要視してます。
たとえば、どういう仕事が好まれるんですか?
少しずつでも、何か技術なり技能が身についていく仕事。あと、少なくとも子どもが高校卒業するまで続けられる仕事。
そうです。だから求人安定性みたいなものは、すごくシビアに見てます。
たとえば営業的な仕事ってどうなんですか?スキルアップすれば、それこそいっぱい稼げるようになると思うんですけど。
まず、営業自体を経験したことがないマザーが多い。だから未経験OKであってもチャレンジする人は相当少ないです。
そうなんですか。狙い目だと思うんですけどね。企業側はどうなんですか?「やる気あるんだったら採用したい」っていう企業は多いんじゃないですか?
いや、企業もはっきり二つに分かれますね。形式にこだわる会社が多いので。
形式ですか。
はい。「何時に来てもらわないと困る」とか「何日働いてもらわないと困る」みたいな。「結果さえ出してくれればいいよ」っていう会社はまだ少数派。
そうなんですか。これだけ人材不足なのに。
営業職に関してはそうですね。
私だったら、シングルマザーの営業は絶対狙い目だと思うんですけどね。
確かに女性が営業したほうがいいケースは多いです。
ですよね。決裁権も女性に移ってますし。
お客さん、もしくは見込み客と企業をつなぐ仕事。あるいは既存のお客さんに対して何かインフォメーションをする仕事。これはとっても向いてると思います。
そうですよね。
向いてます。それを営業職と呼ぶかどうかは別として。
塗装とかリフォームとか、住宅周りの発注も今は主婦が決裁権を持ってますから。すごく相性がいい気がします。
いいと思いますね。正直、女性のほうが柔らかいし、話聞くのもうまいし。
お客さんと仲良くなって、紹介とかもらうのも上手そう。
技術的にちょっと下手でも、一生懸命やってる女性のほうが応援したくなるんですよ。
「託児施設があれば」って話でしたけど。たとえば5〜6年生とか中学生とか、留守番できるぐらいの子がいるお母さんも狙い目じゃないですか。
確かに。いま「子どもつくるの遅い」って言われてますけど、すごく早い人もいて二極化してますからね。
ですよね。早く結婚して、早く子供を作って、でもその後別れちゃってシングルマザーになってる人。
いわゆる早い段階で子どもを持たれて、要するにヤンママ系というか、そういう方って本当に取り換えがきく単純作業系が多いんですよ。
そういうイメージですね。
どこかで付加価値を生む仕事にスイッチしなきゃいけないんだけど、なかなかできないっていうのが悩み。
だからこそ、そういう仕事を提示してあげれば集まってくると思うんですけど。
はい。“手に職”系の仕事は、やっぱり女性の食いつきがいいですね。
そういう求人は増えてきてるんですか?
う〜ん。そういう会社は、まだまだ少ない気がしますね。
もっと狙っていけばいいのに。反響型のBtoCの販売職とか、お客さんの相談にのる仕事って、すごく向いてる気がしますけど。
間違いなく向いてますね。
石塚さんは提案しないんですか?
提案してます。ただ、いちばん大事なのは育成なんですよ。育成の仕組みを同時に作らないと、シングルマザーさんを活かすことができない。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。