7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第62回「ズレの根源」
石塚さん、言ってましたよね。「IQが20違うと会話がかみ合わない」って。
はい。その通りです。
もうちょっと詳しく教えてほしいんですけど。患者さんとコミュニケーションするのが下手なドクターとか、関係があるんですか?
もう、それが原因ですよ。
やっぱりそうですか。
IQが20〜25違うと、そもそもコミュニケーションが成り立たないんですよ。
それは使ってる単語が違うとか、そういうことですか?
うーん、何に例えればいいかなあ。たとえば3,000ccの大排気量の車と660の軽自動車が「よーいドン」で全力疾走したら、差ができる一方じゃないですか。
そうですね。
こっちは普通に走ってるつもりでも「来ねえなあ」「いや、こっちは一生懸命走ってます」っていう、そういう差ですよ。絶対的な能力が違うから。
理解力に差があるっていうことですか?
理解力にも差がある。こっちはパッパッとスピーディーに話をしたいのに、最初の1ストローク目で「そもそも言ってることがよくわからない」みたいな。
早い方が遅い方に合わせればいいのでは?
それが難しいんですよ。使っている語彙も違うし、展開のスピードも違うし、合わせようにも合わせられない。
大企業出身の人が中小企業で浮いちゃうのも同じ理由ですか?
そのとおりです。池上彰さんみたいな人が重宝される理由と同じ。
池上さんは、なぜこんなに重宝されるんですか?
池上さんって、特別に物知りなわけではないんですよ。
もっと専門的な人はたくさんいますもんね。
いくらでもいるんですよ。ただそういう人たちは、一般の人相手のコミュニケーションができない。
大企業の社員も同じだと?
大企業って、本社のレベルと子会社のレベルがぜんぜん違うわけですよ。だから本社の人が子会社の製造現場に行っても、ぜんぜん指示が伝わらない。
それだけ頭がいい人なわけですから、「分かりやすく指示してあげないと話通じないよね」って考えないんですかね。
IQの高い集団って独特の快感・快楽がありまして。
快感?
同じフレームワークで議論できたり、スピーディーなコミュニケーションがテンポよくできるって、快感・快楽なんですよ。
へえ。
大企業で「おまえ、頭いいな」っていうのは、言い換えると「ストレスのないコミュニケーションができて楽だよ」という意味なんです。
なるほど。
逆に言うと、コミュニケーションがテンポよくないと「ああ!オレの言ってること分かんねえかなあ」って非常にストレスになってしまう。
イライラすると。
実は頭のいい人たちって、似たようなレベルの人とコミュニケーションするのは得意なんですけど。知的レベルに隔たりがある人とコミュニケーションをするのはものすごくヘタなんですよ。
遅い球だとうまくキャッチボールできないってことですね。
戦略コンサルティングファームに長くいた人が事業会社に行って失敗するのは、コミュニケーションができないからなんですよ。
能力は高いのにコミュニケーションが苦手だと。
それも重要な能力なんですけどね。大企業の人が出向先でいじめられたり、のけ者にされたりするのは、コミュニケーションを埋めるだけの能力がないから。
「IQが高い」イコール「頭がいい」とは限らないってことですか?
「頭がいい」の定義っていろいろあると思うんですけど。コミュニケーションに関しては安田さんの言うとおりです。頭がよくないんです。
プライドが高くて「IQが低い人間に合わせてられるか」って感じですか?それともコミュニケーションできてないことに気づいてないんですか?
後者ですね。
そうなんですか。
はい。自分では気がついてない。
思ってるんですよ。
たしかにお医者さんもそんな感じですよね。
お医者さんも高IQのビジネスマンも、必ずこう思ってるんですよ。「なんでわかんないだろう?」って。
じゃあ大手をリストラされた人は今後どうなるんですか?コミュニケーションできないとしたら中小企業には行けないですよね。
二極化すると思いますね。IQの幅があってもコミュニケーションができる人と、高IQ同士でグループを形成する人。
コミュニケーションできる人もいると。
すごい少数派でしょうけど。低IQの人とのコミュニケーションをマスターする人は出てくるでしょうね。
それ以外は高IQ同士でくっついていく?
はい。前にも話しましたけど、それってすごく気持ちいいんですよ。「あなたもどこどこ会社でしたか!」みたいな(笑)
そこで固まった人たちって、新たな価値を生み出せるんですかね?
無理でしょうね。稼げないエリート集団になっていくと思います。
池上彰さんを批判してる専門家みたいな。「大して知らないくせに。あんな誰でも知ってることを話して」って。
そこじゃないんですけどね、池上さんの価値は。「今でしょ」の林さんもそう。
林さんも東大卒だからもちろん頭いいんでしょうけど。相手のレベルに合わせて解説してあげるのが上手ですよね。
そこに莫大なマーケットがあるんですよ。
それが分かってないってことですか?
分かっててもできないと思います。これは技術だから。
なるほど。逆に低IQの人だけの組織って、今後どうなるんですか?生き残っていけるんですか。
むしろ成功してる会社のほうが多いですね。
それはどうして?
IQが高くない人の中には、勉強は苦手だけれど「コミュニケーションは天才的にうまい人」とか「普通の人が考えないようなことを考える人」とかがいるんですよ。
学校の勉強と仕事で求められる要素って、違いますからね。
80年代までの工業社会ではIQの高い人材が必要だったんです。でも今は逆に振れちゃって「考えたことないようなことを考えろ」とか「抽象度の高いことに取り組め」とか。
求められる能力が変わっちゃったと。
そういうことです。高IQの人って、そういう仕事にはすごく不向きなんですよ。
答えを覚えるとか、答えに早く行き着くとかっていうのが得意分野ですよね。
そうなんですけど。そういう人材はだんだん求められなくなってます。
ということはIQで判断すること自体が、もうズレてるってことですか?
かなりズレてるんですよ。にもかかわらず、新卒一括採用では学校偏差値でふるい分けてるじゃないですか。
そこがズレの根源だと。
そのズレが社会全体のズレを生み出してる。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。