さよなら採用ビジネス 第122回「耐えられないのは誰?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第121回「浦島太郎になったのは誰?」

 第122回「耐えられないのは誰?」 


安田

みずほ銀行が、窓口の事務職を営業に配属替えしたそうで。

石塚

窓口だけでなく、「2線」や「3線」と呼ばれるバックオフィスの人も含めてですね。

安田

事務職の人を営業職に配置換えしたってことですよね。

石塚

そのとおりです。

安田

銀行では事務職の仕事がなくなっていくってことですか?

石塚

はい。銀行のあらゆるところで省人化が進んでますから。

安田

しょうじんか?

石塚

人を減らすためにあらゆることをやってるってことです。

安田

大企業はみんなその方向ですか。

石塚

明治安田生命もニュースになってましたね。

安田

どんなニュースでしたっけ。

石塚

東京本社に在籍は残すけど実質勤務は地方っていう。

安田

へえ。でも解雇はできないですよね。

石塚

解雇できないので職種や配置を変えて、なんとか採算ベースに乗せようとしてるわけです。

安田

メンバーシップ型雇用ならではって感じですね。

石塚

おっしゃる通りです。

安田

解雇しないかわりに「やれ」と言われた仕事は何でもやる。「行け」と言われた場所はどこでも行く。

石塚

それがメンバーシップ型雇用の本質ですから。「置かれた場所で咲きなさい」って。

安田

雇っちゃったリソースをなんとかして黒字化しなくちゃいけない。

石塚

そういうことです。

安田

事務職で仕事がないんだったら「営業をやれ」と。東京で仕事がないんだったら「地方に行け」と。

石塚

そういうことが当然起こってきます。

安田

国としては、そういう配置換えは「認めます」ってことですよね。

石塚

損保ジャパンの労働裁判で判決が出ました。雇用を維持するための配置転換に関しては裁判所も割と寛容な見解を示してます。

安田

なるほど。

石塚

正規雇用を維持するのであれば「配転命令は広く認める」というのが裁判所の方針です。

安田

給料はある程度維持される?

石塚

まあ一応は。

安田

世間の意見は分かれてます。「給料が保証されるだけいいじゃないか」という意見と、「やりたくもないことをやるのは無理がある」という意見と。

石塚

大企業で働くんだったら「辞令1本でどこでも行く」なんて当然じゃないですか。

安田

当然なんですか?

石塚

当然ですよ。それが嫌だったら辞めなさいって話です。

安田

へえ。

石塚

辞令1本でいろんなとこに行かされる代わりに、手厚く恵まれた待遇を受けてる。

安田

給料も高いし、社会保障も完備されてるし、解雇もされないし。

石塚

そういうことです。

安田

大手の社員さんって、それを承知の上で働いてるんですか。

石塚

もちろんそうです。じっさい実力のある人ほど声がかかるし。

安田

それでも辞めない?

石塚

ごく少数は外に出ますけど。生活の必要性から「続けざるをえない」って人が大多数ですね。

安田

ツイッターに意地悪なことをつぶやいてましたよね。「果たして何%残るでしょうか」みたいな。

石塚

意地悪じゃないですよ(笑)

安田

今回のみずほでは何人ぐらい配置換えになるんですか?

石塚

確か3,000人。

安田

そんなにいるんですか!

石塚

はい。

安田

そのうち何割ぐらいが残って、何割ぐらいが転職しちゃいそうですか。

石塚

ほぼ全員残らないと思います。

安田

そんなに辞められて企業側は困らないんですか?

石塚

計算どおりでしょう。

安田

ということは、つまりはリストラってことですか?

石塚

新手のリストラですね。非常に工夫された人事施策ですよ。

安田

配置転換に見せかけたリストラ?

石塚

表向きは何も違法なことやってないし。研修期間や教育訓練期間も設けるでしょうから。

安田

むかし問題になった「追い出し部屋」とどこが違うんですか?

石塚

あれはやることを与えてなかったので。

安田

今回はちゃんとやることがあると。

石塚

やらせる仕事は「窓口か訪問で生命保険を売りなさい」しかないでしょうけど。

安田

きつそうですね。

石塚

銀行窓販ってじつは収益の柱なんですよ。

安田

融資ではなく?

石塚

いまや融資をして利息を取るより、保険を売って手数料を取るほうが大きい。だから窓口で保険販売をさせられるか、金融商品を提案して売ってきなさいって話になる。

安田

そこなら黒字化できると。

石塚

営業成績は数値化しやすいから。「石塚くん、安田さんはどんどん窓口で販売してるよ。あなたはこれでいいんですか?」みたいな。業績を評価にして給与につなげる。

安田

売れない人はどうなるんですか?

石塚

当然厳しいことになるでしょう。

安田

給料を下げていくってことですか?

石塚

人事評価と報酬制度の範囲内では当然下がりますよね。

安田

そんな極端に下げられないですよね。大企業の場合は。

石塚

そしたらまた「じゃあ、次、もう少し君にふさわしいところに異動してもらうよ」とかいって。

安田

どんどん、しんどい仕事になっていくと。

石塚

しんどい支店とかになってきますよね。

安田

そのうち嫌になって辞めていく?

石塚

本人もしんどいから。そんなに何年も何年も居座れない。

安田

いまの時代であれば割り切って「一切売る気なし。出社して給料だけ受け取る」って人も出てくるんじゃないですか。

石塚

いやあ無理でしょう。

安田

なぜ無理なんですか?

石塚

基本的にみなさん、かつてのエリート人材だから。エリートって見下される状況には耐えられないんですよ。

安田

なるほど。よく練られた戦略ですね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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