2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第124回「採用と利益の関係」
第125回「使える人材の境目」
小さなゼネラリスト?
はい。何でもできる人。
そういう人のニーズがこれから増えてくると。
サービス業とか、ホテルとかって、いま業績が厳しいじゃないですか。
でしょうね。コロナで。
そういう業界ってただ人を削るだけじゃなく、“マルチジョブ化”を進めてるんですよ。
マルチジョブ化?
つまり、ひとりで何役もできる人。仕事の幅が広ければ広いほどいい。
ひとりで3人分働くとか。
そういうことです。優秀な人をひとり置いておけば、3人でやってた仕事がひとりになる。下手すると5人ぐらいでやってた仕事がひとりになる。
そんな都合のいい人がいますか?
もちろん報酬は高く設定しなくちゃいけない。それでも十分元が取れます。
つまりはリストラですか。
組織のサイズダウンですね。
言い方が違うだけですよ(笑)
マルチに仕事ができないと、これからは厳しいってことです。
それは業種に関わらず?
はい。これからは何でもできる人が生き残る時代。
でも時代の流れはジョブ型でしょ?つまり何らかの専門性を磨いて特化していく時代。
会社の大きさにもよります。
指示された業務を何でもやる“メンバーシップ型”では、食っていけないと言われてます。矛盾してないですか?
たとえば研究開発でも「洗濯機だけやってきました」じゃなく、「トースターでも美容家電でも何でもやります」って人が残る。
「経理でも総務でもやります」って人とか?
似てますね。
いわゆるゼネラリストですよね。
ちょっと違います。「これしかできない」というスペシャリストではなく、マルチタスクのスペシャリストを目指したほうがいいってことです。
なるほど。
マルチタスクっていうか、マルチジョブっていうか。
そのほうが企業は使いやすいってことですね。
複数の経験を持ってる人を企業は欲しがる傾向にあります。だから状況がどうなっても食っていける。
なるほど。
キャリアを複線化させることが、とても大きなリスクヘッジになります。
企業もひとつの事業だけでは厳しい時代ですもんね。
おっしゃるとおりです。
スペシャリストになるとしても一本足打法はだめだと。
“ひとりで起業すること”を想定すると分かりやすいです。
確かに。いろんなことが出来ないといけないですからね。
そうなると結局、マルチタスクを社内でやってた人がいちばん強い。
「できる人に外注する」ってのはダメですか?
いざとなった時に自分でやれる分野が多ければ多いほど、有利です。外注するにしてもパートナー選定で間違えないじゃないですか。レベルが測れるから。
確かに。
なんだかんだ言って、安田さんも自分でなんでもやるじゃないですか。
そう心がけてます。社長じゃなくなったときに頭を打ちましたから。
いやいや。
ホントなんですよ。自分じゃ何にもできない。その反省から自分でできることは極力やるようにしてます。じゃないと人間としてだめになりそうで。
それをあっさり言ってやってのけるあたりが本当に凄いです。だから生き残れるわけじゃないですか。
ひとつのスキルだけでは生き残れないですね。確かにマルチスキルは必要。
そうでしょ。
お笑いタレントでも司会やったり、ドラマに出たり、マルチな人が生き残ってますね。
おっしゃるとおりです。
「俺はこれしかやらない!」って人は、いつの間にかテレビの世界から消えちゃったり。
クイズの解答者もできるとか。NHKのEテレに呼ばれてもしゃべれるとか。
「お笑いしかできない」ってのは、これから生き残っていくには弱いですか。
そういう人はなんばグランド花月しかいないっていう。
オール阪神・巨人みたいな“トップ・オブ・ザ・トップ”の人しか食っていけないかも。
オール阪神・巨人というのは本当トップですけど。阪神・巨人すらバラエティに出たりするじゃないですか、NHKの。
確かにそうですね。
あの大御所でさえ、そういう裾野を広げてるんですよ。
なるほど。
あのレベルに行かないのであれば、司会、ドラマ、バラエティ、クイズ、あるいは食レポ、旅もの、タウン番組とか、いろいろマルチにやっとかないと。
ちなみに「いいマルチジョブ」と「悪いマルチジョブ」の違いみたいなのってありますか?
とにかく1回、自分ひとりでやってみる。自分ひとりで起業する姿を浮かべて実践してみる。
やってみないと分からないと。
たとえばホテルをやろうと思ったら、調理もやるし、玄関まで出向いて「いらっしゃいませ」って言うだろうし、受付もするし、部屋まで荷物も運ぶだろうし。
一度は自分でやってみるでしょうね。
それができる人は強いです。
会社がなくなるまで私は気がつきませんでした。でもその通りですね。やってみないことにはわからないですから。
とにかく自分の仕事のチャネルを広げる。上空から見るんじゃなく、そこに降りて歩いてみる。
私もそれがいいと思います。どんな現場にも一度は降りてみること。
金払って「アウトソースだ」って早々に言う人はダメ。1回はちゃんと全部自分でやってみて、触ってみる。そこが境目だと思います。
それは昔の私ですね(笑)これまた頭が痛いです。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。