「採用と利益の関係」さよなら採用ビジネス 第124回

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第123回「終わってるのは誰?」

 第124回「採用と利益の関係」 


安田

人を減らして利益を出す経営の時代?

石塚

はい。もう安田さんの言うとおりになりますよね、世の中が。

安田

そんなことはないです(笑)でも石塚さんもそう感じますか?これからは“人を増やして利益を増やす”時代じゃなく、いかに“人を最低限にして利益を出すか”っていう。

石塚

そのとおりだと思います。

安田

経営の常識もかなり変わっちゃいますね。

石塚

経営学の基本書といわれるような本があるじゃないですか。

安田

はい。

石塚

あれはもう8割ぐらい当てはまらないです。

安田

へえ。8割も。

石塚

だって基本が「マーケットをどんどん大きくしよう。すればするほど儲かるよ」って理屈で。「ほんとにそう?」って話じゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

たとえば小売・外食業の神様と言われる渥美俊一さんの本なんて、10年ぐらい前からぜんぜん当てはまらなくなってます。チェーンストア・オペレーションとか。

安田

チェーン店はキツそうですよね。安売りは避けて通れないですし。

石塚

「お店を増やすほどレバレッジが利いて儲かる」って話だけど、「あ、間違ってるな」と思う。

安田

そういう時代はもう終わった感ありますよね。

石塚

あとはビッグストアね。小売も外食も「とにかく大きい店をつくれ」って。昭和40〜50年代には渥美さんの理論は合ってたと思うけど。時代がズレちゃった。

安田

理論が間違ってたわけじゃなく、その理論が当てはまる時代が終わったってことですね。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

新しい時代はどういう理屈になるんですか。儲かるスモールマーケットだけを狙うべきなんでしょうか。

石塚

“両利き”の時代になるのかなと思っていて。大きなリソースを持っていることを生かしつつ、小さなことを器用にやれる会社。

安田

セブンイレブンみたいな?

石塚

セブンもここまでは正解ですね。でも出店、出店っていうのがもう理論上成り立たない。今度は出店しないで儲ける方法を考えなきゃいけないですよ。

安田

大変な時代ですね。

石塚

いままでは「足し算」と「かけ算」で儲けを出していた。「当たり前だろう石塚。足し算とかけ算以外でどうやって黒字になるんだ」って。でもこれからは「引き算」と「割り算」で儲けを出す時代。

安田

何となくわかります。

石塚

とにかく小さくしろと。サイズを小さく、マーケットを小さく、開発チームを小さく。で、キーになるスタープレーヤーには、たくさん人件費を払っても構わない。

安田

高くて少ない人材ですよね。私もそういう方向だと感じています。

石塚

おっしゃるとおり。能力が高い人にたくさん給料を払い人数を絞る。

安田

30人いる営業部隊を5人で同じ売上にするために、ものすごく優秀なマーケッターをひとり雇うとか。

石塚

採用にもその発想が必要です。

安田

単に人を増やすんじゃなく?

石塚

そう。ビジネスモデルを作り替えるための採用。M&Aと採用を組み合わせるとか。雇用しない仕組みをつくるとか。

安田

やっぱりそうなりますよね。

石塚

だって能力の高い人って独立するわけですよ。ひとりでやりたがるし。

安田

はい。

石塚

それを100%じゃなく「35%分だけこっちにくれ」っていう。「短時間正社員をやってくれませんか」とか。

安田

短時間正社員?

石塚

「週1リモート勤務で結構です。700万払います」みたいな。よく安田さんが言ってる「余暇の奪い合い」と一緒で、優秀な人の時間リソースをどうやって取っていくのか。

安田

なるほど。

石塚

M&Aっていうと、資本を握って上から「こうやれ」みたいなイメージだけど、優秀な人材にはリソースを自由に使わせる。

安田

リソースを自由に?

石塚

「ウチの人間を2人使っていいから」「オフィスも自由にどうぞ」「販売チャネルも使ってもいい」「そのかわり、あなたのドメインのここをウチに接続したい」っていう。

安田

なるほど。リソースと能力のトレードですね。

石塚

そう。独占するんじゃなく「うちのグループになりませんか?」って。採用とM&Aを足して2で割ったような動きが、これから出てくると思う。

安田

単に人を増やすことが、利益につながらなくなったってことですよね。

石塚

おっしゃる通りです。

安田

でもいまだに「利益が減ったから、もっと人を増やせ」っていう会社もありますよ。

石塚

発想が旧すぎますね。

安田

1人あたりの利益が減った理由って何だと思いますか?人件費が高くなったから?給料は上がってませんけど。

石塚

単純に「本業が儲かってない」ってことですよ。

安田

儲からない仕事をやり続けてるってことですか?

石塚

そうです。本業の収益率が下がった。ここに尽きる。

安田

なるほど。

石塚

とくに大手は“収益率の高いビジネス”が本業になっている方が稀。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。本業で儲けてる会社は少ない。2番目3番目の事業が収益の柱になってます。

安田

銀行もそうだとおっしゃってましたよね。

石塚

はい。大手は本業では儲からなくなった。

安田

ちなみに「人を減らして利益を出す」という戦略は、中小企業でも当てはまりますか。

石塚

現業系に関しては逆ですね。人をたくさん抱えているほうが有利。だから現業系は人を増やすことを考えなきゃいけない。

安田

現業系というのは、つまり「人がいないと回らない現場」ってことですか?

石塚

そのとおりです。

安田

そういう現場って、これから先もなくならないんですか?

石塚

なくならないんです、これが。

安田

でも、そういう仕事につきたい人は減ってます。収入もあまり望めないし。

石塚

二極化するでしょうね。経営が安定してる会社にどんどん人が集まるようになる。

安田

給料が高い会社ってことですか?

石塚

給料だけじゃないです。社歴が長くて、給料の遅配なんか1回もないような安定した会社。短期的な報酬よりも長期的に安心できる会社に人が集まってます。

安田

なるほど。そういう会社にいい人が集まって、お客さんの評判もよくなって、仕事も集中してさらに儲かるようになっていくと。

石塚

そうです。二極化です。現業系は退場する会社が続々出てくる。最終的にはエリアごとに「このジャンルならこの会社」という具合に寡占化するでしょうね。

安田

それはいつ頃のイメージですか?

石塚

10年以内。たとえば「このエリアで水道工事といったら石塚水道しかねえよ」って感じ。それが日本中で進むと僕は予想してます。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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