第189回「足元に迫るクライシス」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第188回「恫喝で、もう人は動かない」

 第189回「足元に迫るクライシス」 


安田

ドコモが「社員に賃下げを提案」って。

石塚

はい。組合員以外の管理職に「ちょっと申し訳ないけれど、手当てとか給与の仕組みを変えますよ」と。つまり「賃下げします」と。

安田

これって月10万ですか?年間10万ですよね。

石塚

いえ。月10万です。

安田

え!月10万って大きいですよ。

石塚

いや、大きいですよ。

安田

そんなことできるんですか?いまの日本の法律で。給料じゃなく、手当てだから可能ってことですか。

石塚

そうそう。

安田

ドコモは儲かってそうですけどね。

石塚

いや、厳しいでしょ、もう。

安田

そうなんですか。

石塚

菅さんが「通話料金下げろ」って言ったでしょ。そのぶん利益が減りますし、かつての勢いはもうないですよ。

安田

総理大臣に「料金下げろ」って言われたら、やっぱり下げなきゃいけないんですか。

石塚

もともと「日本の携帯料金は高すぎる」って言われてたので。じっさい国際比較では高いから。

安田

言うこと聞かないとどうなるんですか。

石塚

許認可業種なので。総務省の許可がないと成り立たない。

安田

「資格取り消すぞ」って話になるんですか。お上の言うことは聞かざるをえない?

石塚

そりゃそうですよ。

安田

せっかく利益を出すためにNTTも頑張ってきたのに。

石塚

まあ仕方ないでしょうね。

安田

「料金を下げろ」の一声で利益がなくなっちゃうわけですか。

石塚

だからNTTは人件費を詰めることを選択したってことですよ。

安田

なるほど。利益を確保するために。

石塚

いままで高すぎた人件費にメスを入れる。要するに固定費になっている人件費を変動費化したい。

安田

労働法的に可能なんでしょうか。

石塚

もちろんプロに相談してるでしょう。「手当てをこう変えれば、これは仮に訴訟になっても勝てるね」って確証があるはず。

安田

労働法の縛りがなかったら、給料を下げたい会社はいっぱいあるんでしょうね。

石塚

もう全社そうじゃないですか(笑)

安田

全社ですか(笑)

石塚

少なくとも40代以上はそうでしょう。いまの賃金設計って、上がること前提になってるから。

安田

これから先は、もう上げなきゃいいじゃないですか。上げ幅を少なくするとか。

石塚

上がるかどうかより、評価の差がつかないことが問題なんです。みんな同じようにちょっとずつ上がっていくから。しかも大企業はその平均が高いから。

安田

ちゃんと評価して上げる分には問題ないと。

石塚

総額人件費が固定費化してしまうことが問題なんです。学卒が40になるまでと40から定年までって、ほぼ同じじゃないですか。いわばサラリーマンの前半と後半で。

安田

そうですね。

石塚

前半はまあ人件費安くよく働いてくれると。でも後半は人件費が高いのにパフォーマンスが悪い。単純にこの話なわけですよ。

安田

前半の貯金では後半は乗り切れないですか。

石塚

今はもう乗り切れない。

安田

ということは前半が安いわけじゃなくて、それが妥当な金額だと。

石塚

おっしゃる通り。

安田

40歳まで上がって、そこを過ぎたら下がっていくのが正しい。

石塚

パフォーマンスには合ってますね。

安田

まあ人によるんでしょうけど。

石塚

全体で見たらそうなってしまうわけです。ビジネスの寿命がこんなに短くなると、労働寿命の長さと合わないわけです。

安田

全体を上げ続けるのはもう無理でしょうね。

石塚

1社に終身雇用させるっていう考え自体が、もう時代に合っていないです。

安田

40歳から給料が下がり続ける前提なら可能ですよね。

石塚

だけどそれは法律が許さない。となれば手当てをいじっていくしかない。NTTドコモの精一杯な施策なんじゃないですか。

安田

なるほど。

石塚

かねがね言ってるように、日本は全員有期雇用にして、最長10年にするべき。そしたら正規だ非正規だという、くだらん話もなくなるし。

安田

国としては働く人の給料を増やしたいんですよね。

石塚

増やしたいでしょうね。

安田

でも会社は給料を増やしたくない。

石塚

全体の人件費は抑えたい。だから希望退職を実施してるわけで。

安田

できる人の給料を増やそうと思ったら、それしか方法ないですよね。

石塚

だから国も、雇用を流動化させようと必死になってるんです。

安田

1回市場に出して鍛え直してもらって、増えるように頑張れと。

石塚

ひとつの会社に20年以上勤務すると、間違いなく劣化が始まります。

安田

終身雇用によって、逆に生涯賃金を下げてしまうと。

石塚

そうなんです。「1社からサラリーを貰い続けるのはリスクだ」って、そろそろみんな気づかないといけない。

安田

常識的に考えたら人間の能力って、どこかで頭打ちになりますもんね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

外資だと、できる人は30代ぐらいで一気に稼ぎが増えて、そこから先はだいたい横ばいになっていきますよね。

石塚

若いうちにスキルを高めていかに長く維持するかです。

安田

なぜ日本企業は上げ続ける決断をしたんでしょうね。いつか破綻するに決まってるのに。

石塚

もはや破綻してますけど。

安田

だけど働いてる人はそう思ってないですよね。正規雇用がいちばん安泰だといまだに信じていて。

石塚

戦後の洗脳があまりにも強烈だったので。「1社で勤め上げることこそが美徳だ」って、今でも40代以上は確信してますから。

安田

だから自分の子供にも受験を頑張らせるんでしょうね。

石塚

いい会社に入って、一戸建ての家を建てて。いまだにその洗脳が解けてないんですよ。

安田

もうそういう時代じゃないのに。

石塚

どんなに業績が好調な会社でも、すぐ足元にまでクライシスが迫ってきてます。

安田

そんな状態でも、自分の子供に同じことをさせるんですか。

石塚

足元が見えてないんですよ。洗脳が強すぎて見えなくなってるんです。

安田

もう崩れ始めてるのに。

石塚

もうグラグラなんですけどね。それでも自分は落ちないって信じてるんです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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