第188回「恫喝で、もう人は動かない」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第187回「ホントに来ちゃったこの時代」

 第188回「恫喝で、もう人は動かない」 


安田

いきなり!ステーキの一瀬社長がまた叩かれてます。「作業するだけで給料をもらえると思うな」みたいに言っちゃって。

石塚

あの人は経営者に向いてないです。

安田

言ってることは理にかなってるんですけど。今の時代はそれを言っちゃいけない?

石塚

あれは元々社内メッセージで。表に出てくること自体が問題なんですよ。

安田

「前向きじゃない社員は許せません」みたいな。「社員のせいにしてたらだめだろう」ってネットで叩かれてました。

石塚

社長の感覚がズレてるんですよ。いまの時代には合ってない。

安田

昔の経営者さんは、みんなこういうこと言ってましたよね。

石塚

昔は余裕がありましたから。飲食店にも気の利く人がそれなりの人数いたし。

安田

今はそんなこと言ったら辞めちゃいますもんね。

石塚

そもそも、いきなり!ステーキって、社員教育にそんなに力入れてないですから。

安田

「ぜんぜん教育できていないじゃん」って意見が多いですね。だからこそ教育しようとして、厳しく言ってるんでしょうけど。

石塚

上から活を入れるっていうのは、だいぶ時代がズレてる感じがします。

安田

そんなのは社員教育とは言わない?

石塚

社長がただ不満を言っているだけって感じ。

安田

「言われた作業をしているだけで、給料もらえると思ってるのはおかしい」って、賛同する経営者は多いと思うんですけど。

石塚

そもそも自分で仕事を生み出す人の待遇ではないんですよ。

安田

「安い給料しか払ってないのに、それ以上求めるな」ってことですか。

石塚

いきなり!ステーキという業態は、そんなにホスピタリティの高いサービスを、そもそもお客さんが求めてない。

安田

確かに。

石塚

お店がそこそこきれいで、マニュアルにしたがってスムーズにステーキが出れば、僕はそれでいいと思う。

安田

お客さんもそれ以上を求めるな、ってことですね。

石塚

たとえばサイゼリヤでレベルの高いサービスなんて見たことない。けどべつに不満もないわけですよ。お客さんは期待していないから。

安田

いきなり!ステーキの社長さんは、「お客さんをファンに変える努力をしろ」って言っているみたいです。

石塚

ちょっと役割がちがうと思いますけどね。

安田

ファンにするのは誰の役割なんですか。

石塚

まず業務を切り分けしないと。チェーンストアオペレーションが成立しないです。

安田

なるほど。

石塚

言われたとおりのことを、ちゃんとやってくれる人が確保できてる。まずこのこと自体を社員に感謝しなきゃいけない。

安田

お客さんをファンにしなくてもいいと。

石塚

仮に「店長はファンをつくる仕事だ」って言うんだったら、かなり高いレベルを社員に求めないといけない。だったら採用や報酬を根本的に変えないとだめです。

安田

今の待遇では無理ってことですね。

石塚

おっしゃる通り。今の給料じゃ無理。

安田

採用やってた頃よく言われました。「この条件で、このレベルの人材さえ採れれば、うちは儲かるんだ」って。だけど「それ無理でしょ」っていう。

石塚

そうなんですよ。

安田

その給料で能力の高い人が来てくれたら、それは儲かる。でもそれができないから、みんな苦労しているわけで。さすがにいまの時代そんな人いないでしょうけど。

石塚

いや多いですよ。この間もある中小企業さんで、「事務の社員が、社長の俺が言ったこと以上のことをしない。そんな社員ばっかりなんだ」って。

安田

へえ〜。

石塚

「社長の言うことを、きちっとやってくれる社員さんに囲まれて、幸せじゃないですか」って言ったら、すごくムッとしてました(笑)

安田

納得いかないんでしょうね。こっちが金を払ってるのにって。

石塚

要するに、非言語コミュニケーションの高さを求めすぎなんです。

安田

非言語コミュニケーション?

石塚

つまり、「俺が言わなくても察しろ」って言うけど、そんなの無理でしょと。奥さんでさえ無理でしょうって。

安田

家で揉めてそう(笑)

石塚

それって雇っている人の能力によるじゃないですか。

安田

そんな能力の高い人は「今の時給じゃ無理」ってことですね。

石塚

無理無理(笑)言語コミュニケーションをきちっとやってくれる社員が、これだけいたらもう感謝しないと。言われたことを、言われたとおりやってくれるんだから。

安田

コンビニでも「店員の態度が悪い!」「土下座しろ!」みたいな客がいますけど。コンビニでそれを求めてやるなよって思います。

石塚

一流ホテルに泊まってるわけじゃないので。

安田

サービスを提供する側も、ある程度割り切っていると思うんですよね。「コンビニエンス」が売りなので。

石塚

おっしゃる通り。

安田

いきなり!ステーキは安さと早さが売り。それ相応の時給しか払っていないのに、なぜ社長はこういうことを言っちゃうのか。

石塚

社長をいさめる人がいないんだと思う。要するに「裸の王様」なんですよ。人事の人がそんなことを言おうものなら、すぐクビになっちゃうじゃないですか。

安田

そんなのでクビにしていたら誰もいなくなっちゃいますよ。また高いお金をかけて採用しないといけなくなる。

石塚

そうなんですよ。

安田

それをくり返しても、なんの解決にもならないと思うんですけど。

石塚

テーブルサービスを極めたいんだったら、そもそも業態も人も変えないといけない。

安田

そこが売りじゃないですもんね。

石塚

「この肉をこの値段で食えるのか」ってところがいちばんの売りで。業態そのものの問題だから、これは社長の役割だと思います。従業員はよくやってると思いますよ。

安田

変わらなきゃいけないのは「社長」ってことですか。

石塚

そういうことになりますよね。

安田

ある程度の報酬を払う気があれば、この社長が求める人は採れますか?

石塚

いや、報酬だけじゃ無理だと思います。

安田

業態的にそもそも無理ですよね。

石塚

だって感動させるようなことを、べつにお客さんは求めていないので。それを自発的にやるっていうのは超能力みたいな話ですよ。

安田

もっと安く、もっとおいしい肉を出せる体制を、経営陣が考えろと。

石塚

おっしゃる通り。社長がブレすぎなんです。

安田

お客さんに向けて貼ったポスターもズレてましたよね。こういう方は、いまの時代には社長に向いていないってことですか。

石塚

もちろん力はお有りなんだと思う。だけどこの時代とか、人とのズレっていうのが、大きすぎるような気がします。

安田

最もズレているのはどういう部分ですか?

石塚

一瀬社長にかぎった話じゃないんですけど。けっこう多いんですよ。新年早々「おまえら、こんなんでやれると思うなよ」みたいな社長。恫喝系の居酒屋チェーンとか。

安田

恫喝系の居酒屋!

石塚

でもそんなこと言われて、社員さんは誰ひとり楽しくない。もっと楽しく、社員満足度を上げるような施策を打たないと。恫喝で人が動く時代なんてもうとっくに終わってるんです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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