2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第193回「買い叩かれるのは誰?」
日立さんが、ジョブ型雇用を加速させてるそうですね。
日立・東芝・ソニーは全部そうです。とくに日立が目立ってますけど。
それはいい人材をとるための施策ですか。
それもあるでしょう。
いわゆる、いままでのパートナーシップ採用ではいい人材が集まらない?
本当に優秀な学生をとるために必死なんでしょうね。
ジョブ型に移行すると新卒でもかなり差が出ますよね。それこそ1,000万払うケースもあるとか。
はい。
その場合、終身雇用は約束されませんよね。
もちろん。
つまりジョブ型雇用は有期雇用とセットになるんですか。
本来はそうあるべきなんです。だけど日本では事実上それができない。だから1社1社が制度として合法的につくっていくしかない。
制度に納得した人だけ採用すると。
それがひとつの答えだと思う。ジョブ型で就職する人は「ずっといる」という発想が元々少ないでしょうから。
ジョブ型を選ぶメリットは収入ですか。
いちばんは時間じゃないですか。ジョブ型雇用なら新卒でも下積みがいらないじゃないですか。
コピー取りとか。
議事録を取るとか。上司のかばん持ちをするとか。まったく無駄じゃないですか。
まあ無駄ですね。
そんなことよりも「すぐテクノロジーやらせてください」「この開発をさせてください」「そのために研究室でこれをやってきたんです」っていう。
そういう人には下積みなんて耐えられないでしょうね。
ドラフト1位を延々と多摩川の2軍でトレーニングさせるのと同じ。さっさと先発で投げさせなさいよ、ってことだと思う。
それでダメなら出ていってもらうと。
彼らは終身雇用という形にはそぐわないです。企業もそれが分かって採用してる。
大企業は終身雇用で苦労してますもんね。
現行法制のなかで、いかに雇用の流動性、ダイナミズムをつくるか。ジョブ型雇用はそのひとつの答えなんだと思います。
居るだけで上がっていくことはもうないと。
ない。
下手すると下がる可能性もあるってことですよね。それがジョブ型だと。
そういうことですね。
けっこう厳しいですけど。ジョブ型を選んで就職する新卒っているんですか。
トップ20%に入る人材だけだと思います。
トップ20%はジョブ型を選びますか?
全員ではないですけどトップに行くほど多いと思う。ひとつは起業を考えているから。
なるほど。
いきなり起業してもいいんだけれど「1回大手でやっとくか」って。ベンチャー企業ってやっぱり大手と取引すると、売上がガツンと伸びて上場しやすいじゃないですか。
そうですね。
マザーズに上場していった企業も、売上に弾みがつくのは大手企業との取引がスタートする頃。
取引の桁が違いますからね。
高松さんじゃないけど、そのためには大手の作法を知らなきゃいけないわけですよ。
たしかに。
数年大手を経験しておけば、「ああ、こうやって通すのか。こうなのね。はいはい、お作法はだいたいわかりました。そろそろおいとまさせていただきます」っていう。
割り切ってますね。
優秀な人ほど割り切ってます。
企業はそれで投資に見合うんですか。
じゅうぶん元は取れる。それよりも40~50代の人件費がしんどいですよ。
いま退職勧奨がすごいみたいですね。「君の収入はいまの仕事に合ってない。辞めたほうがいいんじゃないの?」って。裁判も辞さない構えみたいです。
日立なんかは完全に振り切ってますね。
はい。裁判して戦うと決めてるそうです。
まあ全体からすれば、そこまでいくケースは稀ですけど。退職勧奨で「じゃあ辞めます」って人のほうが圧倒的に多いから。
だったらもっと退職勧奨すればいいのに。
できない、できない。しがらみがすごいから。
社内で「嫌われたくない」って。あれホントなんですか?
本当です。同期・先輩・後輩に嫌われてでもやるっていう、決意ができない。
日立はなぜそこまで出来るんですか?
日立は取締役の半分がもう外国人になってますから。
なるほど。元々しがらみがないわけですね。
川村さんがチェアマンだったときに、かなり変えました。日立はもはやグローバル企業なんだって。
売上も海外のほうが多いらしいですね。
そうなんですよ。だから「日本だけの価値観じゃ動けません」って。
もう大手はグローバル標準に合わせざるを得なくなっていきますよね。
はい。日本の雇用環境が打破されるのは、またしても外圧がかかったときです。
日本が変わる時はいつも外圧ですね。
そうじゃないと変われないんですよ。
外国人の株主も増えてきてるイメージです。
増えてます。もう今までのような年功序列的な人事はできなくなる。
どういう人事になっていくんでしょう。
「NYで活躍しているこの若手を社長にしろ」みたいなことになる。
外国人がトップになることもあり得る?
当然あり得ます。ただカルロス・ゴーンの事件があるので。
日本側が受け入れを拒否する?
逆ですね。「トップがひとり来て、報酬をたくさんもらって」というモデルはちょっと怖い。
カルロスゴーンみたいになりたくないと。
そう。世界のエグゼクティブから見ると、日本企業はあまりにもリスクがありすぎる。だからそういうやり方ではなく、日本企業を資本傘下に入れてしまう。
子会社にするってことですか。
為替相場は1970年当時まで戻ってますから。
お買い得ってことですか。
日本の大手企業って、いまめちゃくちゃ安く買えるわけですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。