第193回「買い叩かれるのは誰?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第192回「流動化なくしてダイナミズムなし」

 第193回「買い叩かれるのは誰?」 


安田

日立さんが、ジョブ型雇用を加速させてるそうですね。

石塚

日立・東芝・ソニーは全部そうです。とくに日立が目立ってますけど。

安田

それはいい人材をとるための施策ですか。

石塚

それもあるでしょう。

安田

いわゆる、いままでのパートナーシップ採用ではいい人材が集まらない?

石塚

本当に優秀な学生をとるために必死なんでしょうね。

安田

ジョブ型に移行すると新卒でもかなり差が出ますよね。それこそ1,000万払うケースもあるとか。

石塚

はい。

安田

その場合、終身雇用は約束されませんよね。

石塚

もちろん。

安田

つまりジョブ型雇用は有期雇用とセットになるんですか。

石塚

本来はそうあるべきなんです。だけど日本では事実上それができない。だから1社1社が制度として合法的につくっていくしかない。

安田

制度に納得した人だけ採用すると。

石塚

それがひとつの答えだと思う。ジョブ型で就職する人は「ずっといる」という発想が元々少ないでしょうから。

安田

ジョブ型を選ぶメリットは収入ですか。

石塚

いちばんは時間じゃないですか。ジョブ型雇用なら新卒でも下積みがいらないじゃないですか。

安田

コピー取りとか。

石塚

議事録を取るとか。上司のかばん持ちをするとか。まったく無駄じゃないですか。

安田

まあ無駄ですね。

石塚

そんなことよりも「すぐテクノロジーやらせてください」「この開発をさせてください」「そのために研究室でこれをやってきたんです」っていう。

安田

そういう人には下積みなんて耐えられないでしょうね。

石塚

ドラフト1位を延々と多摩川の2軍でトレーニングさせるのと同じ。さっさと先発で投げさせなさいよ、ってことだと思う。

安田

それでダメなら出ていってもらうと。

石塚

彼らは終身雇用という形にはそぐわないです。企業もそれが分かって採用してる。

安田

大企業は終身雇用で苦労してますもんね。

石塚

現行法制のなかで、いかに雇用の流動性、ダイナミズムをつくるか。ジョブ型雇用はそのひとつの答えなんだと思います。

安田

居るだけで上がっていくことはもうないと。

石塚

ない。

安田

下手すると下がる可能性もあるってことですよね。それがジョブ型だと。

石塚

そういうことですね。

安田

けっこう厳しいですけど。ジョブ型を選んで就職する新卒っているんですか。

石塚

トップ20%に入る人材だけだと思います。

安田

トップ20%はジョブ型を選びますか?

石塚

全員ではないですけどトップに行くほど多いと思う。ひとつは起業を考えているから。

安田

なるほど。

石塚

いきなり起業してもいいんだけれど「1回大手でやっとくか」って。ベンチャー企業ってやっぱり大手と取引すると、売上がガツンと伸びて上場しやすいじゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

マザーズに上場していった企業も、売上に弾みがつくのは大手企業との取引がスタートする頃。

安田

取引の桁が違いますからね。

石塚

高松さんじゃないけど、そのためには大手の作法を知らなきゃいけないわけですよ。

安田

たしかに。

石塚

数年大手を経験しておけば、「ああ、こうやって通すのか。こうなのね。はいはい、お作法はだいたいわかりました。そろそろおいとまさせていただきます」っていう。

安田

割り切ってますね。

石塚

優秀な人ほど割り切ってます。

安田

企業はそれで投資に見合うんですか。

石塚

じゅうぶん元は取れる。それよりも40~50代の人件費がしんどいですよ。

安田

いま退職勧奨がすごいみたいですね。「君の収入はいまの仕事に合ってない。辞めたほうがいいんじゃないの?」って。裁判も辞さない構えみたいです。

石塚

日立なんかは完全に振り切ってますね。

安田

はい。裁判して戦うと決めてるそうです。

石塚

まあ全体からすれば、そこまでいくケースは稀ですけど。退職勧奨で「じゃあ辞めます」って人のほうが圧倒的に多いから。

安田

だったらもっと退職勧奨すればいいのに。

石塚

できない、できない。しがらみがすごいから。

安田

社内で「嫌われたくない」って。あれホントなんですか?

石塚

本当です。同期・先輩・後輩に嫌われてでもやるっていう、決意ができない。

安田

日立はなぜそこまで出来るんですか?

石塚

日立は取締役の半分がもう外国人になってますから。

安田

なるほど。元々しがらみがないわけですね。

石塚

川村さんがチェアマンだったときに、かなり変えました。日立はもはやグローバル企業なんだって。

安田

売上も海外のほうが多いらしいですね。

石塚

そうなんですよ。だから「日本だけの価値観じゃ動けません」って。

安田

もう大手はグローバル標準に合わせざるを得なくなっていきますよね。

石塚

はい。日本の雇用環境が打破されるのは、またしても外圧がかかったときです。

安田

日本が変わる時はいつも外圧ですね。

石塚

そうじゃないと変われないんですよ。

安田

外国人の株主も増えてきてるイメージです。

石塚

増えてます。もう今までのような年功序列的な人事はできなくなる。

安田

どういう人事になっていくんでしょう。

石塚

「NYで活躍しているこの若手を社長にしろ」みたいなことになる。

安田

外国人がトップになることもあり得る?

石塚

当然あり得ます。ただカルロス・ゴーンの事件があるので。

安田

日本側が受け入れを拒否する?

石塚

逆ですね。「トップがひとり来て、報酬をたくさんもらって」というモデルはちょっと怖い。

安田

カルロスゴーンみたいになりたくないと。

石塚

そう。世界のエグゼクティブから見ると、日本企業はあまりにもリスクがありすぎる。だからそういうやり方ではなく、日本企業を資本傘下に入れてしまう。

安田

子会社にするってことですか。

石塚

為替相場は1970年当時まで戻ってますから。

安田

お買い得ってことですか。

石塚

日本の大手企業って、いまめちゃくちゃ安く買えるわけですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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