第192回「流動化なくしてダイナミズムなし」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第191回「疑わないのはなぜ?」

 第192回「流動化なくしてダイナミズムなし」 


安田

Amazonの創業者って、もう辞めてるみたいですね。

石塚

もう身を引いてます。創業者が辞めてもどんどん伸びてるのがAmazonのすごいところですよ。

安田

日本では珍しいケースですよね。

石塚

リクルートは有名ですよ。創業者が辞めてもどんどん伸びてる会社として。

安田

ソフトバンクはどうですか。孫さんも一度辞めようとしてましたけど。

石塚

孫さんがいなくなったら終わりでしょう。

安田

そうなんですね。

石塚

Amazonは次々と新規事業をくり出すし、撤収も早いし、創業経営者の影響をあまり受けないで、どんどん会社が進んでる。

安田

アップルは「ジョブズがいなくなったら終わりだ」って言われていましたけど。結果的には伸び続けてますね。

石塚

でないと世界では生き残っていけないです。

安田

どうして日本は創業者がやり続けるんでしょう。

石塚

雇用契約で縛りすぎているから、というのが僕の仮説です。

安田

どういうことですか?それは。

石塚

労働力の流動性に乏しいので、メンバーの入れ替えができないんです。

安田

新しい経営者が来ても組織を入れ替えられないってことですか。

石塚

入れ替えられない。外資だとジョブポストが空けばどんどん取りにくる。いい話があればどんどん出て行くし。適正な人の入れ替わりが事業の躍進を支えてるわけです。

安田

組織の入れ替えなしに事業の躍進はないと。

石塚

ないですね。上から下まで相も変わらずのメンツが出てきて。そりゃあ革新的なことなんて生まれない。

安田

ZOZOの前澤さんはスパッと売っちゃいましたよね。

石塚

ああいう人は稀です。

安田

ワタミの社長も戻ってきたし。

石塚

社長のメンタリティーは大きいです。だけど一番は雇用流動性の問題。企業のダイナミズムを削いでいるのはそこだと僕は思う。

安田

そっちですか。

石塚

ソフトバンクの新卒採用選考にその一端がよく出てます。

安田

どんな選考基準なんですか。

石塚

筆記試験重視です。

安田

へえ〜。

石塚

孫さんはあんな感じのイメージだけど、実は現場は非常に官僚的で。チャレンジャブルな雰囲気に乏しい。

安田

官僚的なんですか。意外ですね。

石塚

官僚的でちょっと冷え冷えして。頭はいいかもしれないけど若手に仕事を渡さない。だから上にあがるとポジションの保持に走る。ダイナミズムがない。

安田

Amazonはどんな組織なんですか。物流のイメージしかないんですけど。

石塚

Amazonはたしかに物流をたくさん持ってます。だけどサーバーも世界一持ってる。宇宙事業もやってれば金融事業もやってる。とにかく事業バリエーションが豊富。

安田

人の入れ替わりも結構あるんですか。

石塚

はい。常に優秀な人が来て、ある程度出て行きもする。常に事業とともに人が入れ替わっている感じが適正です。いつも同じメンツで同じ仕事をしてたら伸びない。

安田

問題は上の方の入れ替わりですよね。若手が入れ替わってもそんなに影響はないでしょう。

石塚

いや。最近のIT・ネット系は優秀な20代にどんどんポジションをアサインしてますから。ジョブポスティング制というか。

安田

日本の大手もジョブ型雇用が増えてきましたね。

石塚

まだ一部ですけど。ジョブ型に切り替えている会社はいいところが出てきてます。

安田

そうなんですね。

石塚

リクルートもそれに近いところがあって。たとえば「じげん」という会社はリクルートの新規事業創出プロジェクトから生まれて、それをMBOして、いまは東証1部。

安田

へえ〜。

石塚

本体から人も事業もどんどんスピンオフ・スピンアウトしていく。そういうダイナミズムがあるのかないのかの差ですね。

安田

トップが変わるかどうかより、そっちのほうが大事ですか。

石塚

僕はそう思います。

安田

たとえトップが居座ったとしても、組織全体が流動化されていれば、社内からどんどん事業は生まれてくると。

石塚

まあそれも含めてトップの器量なのかもしれませんが。

安田

私がリクルートにいた頃は社内からどんどん事業アイデアが出てました。

石塚

リクルートは今でもそういう社風ですね。社内からアイデアを募る制度もあって。

安田

とはいえ20代の事業責任者はいなかった気がします。

石塚

これからは出てきますね。

安田

へぇ~。

石塚

僕はYouTubeの効果が大きいと思っていて。

安田

YouTubeですか。

石塚

大学時代に会社ひとつやってる人って、そんなに珍しくないから。

安田

確かに。増えてきてますね。

石塚

実際にやってる人の動画が見れるじゃないですか。

安田

はい。

石塚

つまり入社してすぐビジネスできるような人が、一定数出てきてるわけですよ。リクルートもそういう人材をとってます。

安田

昔はそんな人いなかったですもんね。

石塚

いないです、いないです。みんな横一線で。

安田

今でも学校に行って、クラブ活動して、バイトしているだけって人もいますよね。

石塚

だから差がつくんですよ。自分で商売やってるような子と。

安田

22歳で既に相当な差がついてると。

石塚

はい。事業を任せられるような20代が着実に出てきてます。

安田

いわゆる大手はそういう人を採用しないんですか。

石塚

いまの制度では無理でしょうね。雇用契約で囲い込むということをやめない限り、難しいと思う。

安田

ずっと囲い込むのは無理ってことですよね。

石塚

そういうことです。DeNAという会社があるでしょ。

安田

はい。

石塚

新卒でとった優秀な社員が辞めていくときに、昔は南場さんも全力で引き留めてた。だけれどいまは「うーん痛いんだけれど……なにやるの?」って。

安田

ほう。

石塚

「じゃあ、後押しするから独立しなさい。そしてシナジーつくろう」って方向転換してます。

安田

どうせ止めても辞めちゃいますもんね。

石塚

優秀な才能をひとつの会社で囲っておくことのほうが、お互いにとってマイナスが大きい時代なんです。

安田

大企業も外の優秀な人材をもっと活用すればいいのに。

石塚

抱えてる社員が重すぎるんですよ。やっぱり有期契約にするしかない。10年後に確実に辞めなくちゃいけないとしたら、人材のダイナミズムが相当変わってくると思う。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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